5話 いちどめのほうかご

自己紹介やホームルームは終わり、渡された教科書の束をカバンに詰め込んでいると先生が話しかけてきた。

「もしかして、怒ってます…?」

僕がムキになって口答えしたせいで初日から先生に悪い印象を付けてしまったかもしれない。

「いえ、別に怒ってる訳じゃないですし、僕がちょっと……本当、すみませんでした。ムキになってしまって…」

声のトーンから怒ってないことを察した先生は安堵の表情を浮かべるも、他にも何かを察知したように

「なにかあったら先生を頼ってくださいね」

とだけ残して去っていった。

隣で現場を見ていた千恵と誠二がおずおずとしている。

「あ〜……のさ!灯夜腹減ってないか?飯…行かね?」

「私お腹へった!お蕎麦たべたい!せーじの奢りで!」

2人なりの慰め方、僕の調子や機嫌が悪い日にはいつもこうなって誠二が何かしらを負担している。

「大丈夫、僕はこの季節が嫌いなだけだから……でもまぁ、腹はへったな。」

「っしゃー、いくぞー」とテンションの高くなった誠二に着いて行き、中学の卒業式以来の3人での食事を心の底から楽しんだ。

「ここに奏音も居たらどんなに楽しいことか。」

生暖かい風が前髪を揺らす。


「私はずっと傍にいるよ。」


琥珀の瞳、栗色の髪、白磁の肌

春の陽だまりを溶かしたような笑顔の持ち主

天崎 奏音の声が街路樹の隙間を縫って僕の心を揺らした。


「……か…のん…」

「んぁ?どしたの真白くん?ちょっと顔色悪いよ?水買ってこようか?」

様子がおかしくなった僕にいち早く気付いたのは千恵だった。

「灯夜はいつも顔色悪いだろ〜」

とからかってくる誠二だが、いつもからかってくる誠二の声ではなかった。

明らかに心配かけた。

「大丈夫、大丈夫だから…飯、いこ」

これ以上心配かけまいと僕は血の気の引いた頭を強引に持ち上げて歩き出す。


「気づいてくれたかな…」

舞い散る桜の花びらの中から誰にも聞こえない声が春の空に漂う。

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