第6話 ケーニヒ

 ――ケーニヒ視点――




 リュート……確かに僕はその名前に心当たりがあった。


 僕の家庭は両親ともに仕事で忙しく、殆ど祖父母に育ててもらったようなものだった。

 親に遊んでもらったりという事の無い僕を思ってか、現役時代にゴーレム技師であった祖父が誘ってくれ、初等院の1年の頃から毎年夏のゴーコン大会の初等院の部へ出場していた。


 始めはイベント的な大会に祖父と出るのが楽しかっただけだが、次第に僕はゴーレムの魅力にのめり込んでいき、6年の時に僕は初めて州予選を勝ち抜き全国大会への切符を手にした。


 当時の僕は元プロのゴーレム技師の祖父と自分であれば全国でも戦える自信があったのだが、それを打ち砕いたのが2つも年下のリュート・スターンという少年だった。

 初等院のゴーコンは、召喚を子供が、補助式を共に出場する大人が行うというルールがあったのだが、目の前で召喚された彼の第3世代のゴーレムは、殆どが第2世代のゴーレムで戦っていた初等院生の出場者達を見事に蹴散らした。


 後に知ったのだが、彼と共に出場した父親はゴーレム研究の第一人者として有名な、カーティス・スターン博士その人だった。天才の血統なのかと、それを知ったときはずいぶんと興奮した。


 だが、その後彼の名前はゴーレム雑誌を見ても出てくることは無かった。あれ程の才能を持ちながら、紙面にその名前が出ることはなかった。


 その彼が、今ボクの目の前にいる少年なのだろうか。家名は違うが……彼になんとなく当時の面影を感じてしまう。





 今年は嬉しいことに、ゴレ班に召喚師の適性のある1年生が入ってきた。

 ただ彼女は今までゴーレムに触れてきたことが無いようで、全くの初心者だった。そんな彼女のためにゴーレム召喚式の入門書的な物が無いかと図書館にやってきた時。1人の1年生らしき少年が何やら必死にゴーレムの専門書を読んでいた。


 かなり集中しているのだろう、僕が近づいても彼は全く気がつくこと無く読み続けていた。場所的にもここはゴーレムのコーナーだ。しかも内容を見るとかなり難しそうな本であるのが解る。


 その少年に興味を持った僕は声をかけてみる事にした。全く僕の存在に気がついていなかったのか、声を掛けると大層な驚き様で必死に手にしていた本を本棚に戻そうとしていた。


 本棚に戻すのを手伝いながら、彼の読んでいた本を確認する。驚いたことに、どうやらエライサ式について書いてある本のようだった。エライサ式は第4世代以降の術式をブーストする、アンドリュー次式を発展させた高度な術式だ。どう考えても高等院に上がりたての少年が読むものには思えなかった。

 

 リュート・ハヤカワと名乗った少年は不味いものを見られたという感じで、明らかにこの場を立ち去りたそうにしている。この焦り具合も、やはりこの術式を理解していると思わざるを得ない。


 魔術はその特性上、その術式を頭で理解していないと使うことは出来ない。単純に術式を覚えて口にするだけでは術は発動しないのだ。


 僕はカマをかけてみることにした



「2年ほど前の話だけどね、当時のゴレ班の召喚師が第3世代までの召喚しか出来なくてね、地方予選ならまだ第3世代でもなんとか戦えたんだけど。さすがに全国クラスとなると第4世代まで使えないと勝てないと言う事でね。どうにかエライサ式を乗せられないかと研究したことがあったんだよ」

「でも、第3世代の枕術式じゃ、エライサ式に食われちゃいますよね?」


 やはり、この少年……。


 だが、彼はゴレ班どころか飛行班にも入らないという。どういうことだろう。なにか別の企業のチームなどでやっていたりするのだろうか。


 ……だが、それはあまりにも惜しい。


 あのカーティス博士の息子であろうと、無かろうと、彼はゴレ班に必要な存在かもしれない。彼をゴレ班に入班させることが、もはやまともに術式を使うことの出来ない僕の……ゴレ班での最後の使命なのかもしれない。そう感じた。


「……かなり苦労はしたけどね、僕らはとうとう、第3世代にエライサ式を乗せることに成功したんだよ」

「え? まさか。ありえないっ!」

「そう? ゴーレムに関する術式は日進月歩で進化している。ありえななんてことはあるのかな?」

「だけど……。本当ですか?」

「ふふふ。一応これは我がゴレ班の大事な秘術だからね。班員外にはちょっと教えられないんだ。もし興味があったらゴレ班に来てくれ。入班してくれたらその時にはちゃんと教えてあげよう」

「………」

「それじゃあ、僕は行くね」


 ふふふ。見た所、彼は相当ゴーレム術式にハマっているようだ。この撒き餌に食いついてくれると嬉しいな。僕には<鑑定眼>が無いが、飛行班にはそれを持つものがいる。急いだほうがいいかもしれない。


 うん、これだけじゃ心もとない。


 彼と別れた俺は、そのまま職員室に向かう。名簿を見せてもらい。彼のクラス。彼の担任の先生を知った。運の良いことにちょうど彼の担任は僕の国史の授業を担当している先生だった。面識もある。少し話をさせてもらおう。

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