第3話 ブローヴァ訛り

 次の日、ホームルームで先生が2枚のプリントを配った。1枚はこの学院の班のリスト。そして2枚目は入班届けだった。


「聞いていると思うが、この学院では班活はある程度義務に成っている。教育の一環として自主的な生徒の活動として考えているんだ。もちろん家庭の事情などで止む終えない理由が有れば親の同意書と共に理由を書いて申請しろ。ただ、許可が無く入る班活も見つからない場合は帰宅班に入ることになる」


 クラスがザワザワとする。やっぱり強制で班活をさせるというのに拒否感を持っていた生徒も多いのだろう。1人の生徒が「帰宅班ってなにか活動はあるんですか?」と質問をする。


「ああ、授業が終了後に帰宅班は集まって何種類かあるクエストから自分にあったのを選んで受けてもらう感じだな」

「クエストですか???」

「1時間程の物だがな、グランドを10周走ったり、魔術式の書き取りをしたり、運動の得意のやつ、魔術の得意なやつ、好きなのを選んでそれを終わらせたものから帰宅できる感じだ。まあ自習をやるような物だが」


 クラスのザワつきが大きくなる。マジかよ……班活に入るより下手したらキツイんじゃないのか? 一瞬班に入らなくても良いと思った俺は愕然とする。それなら……何か適当な班に入って幽霊班員でもしてたほうが良いかもしれない。


 それにしても『クエスト』って、いつの時代だよ。中世の冒険者ギルドが有ったような時代の言葉をまだ使っているのか。


「ああ、それと班に所属するだけで全く顔を出さなくても退班させられる事もあるからな。ちゃんとやれよ」


 くそ、入班までは10日ほど猶予があるらしい。それまでに適当な班を見つけないと。俺は食い入るようにリストを見つめた。





 昼休みの時間、今日もシュウが弁当を持ってやってくる。シュウも割と内向的なんだろうか。新しい友達をどんどんと作るタイプでは無いらしい。


「昨日はどうしたの? 突然帰っちゃって」

「え? ああ。なんとなく人前でああやってイジってるの見てると気分が悪くてさ」

「そう……だね。あまり他の班を馬鹿にするって良くないね」


 まあ、シュウもゴーレムに関しては知識はある、召喚師が居ないのにゴーレムを召喚する事の難しさは分かってるのだろう。



「なあ。シュウってどっちや?」


 突然声をかけられ、振り向くとクラスでは見かけた事の無い、少し浅黒い短髪の男が立っていた。


「え? 僕だけど……」


 シュウもその男の事は知らないようだ。だが男は嬉しそうに、やけに訛った感じで話しかけてくる。


「おお、お前がシュウか。何でも中等時代にゴレ班だったらしいやないか。どうや? 俺と一緒にゴーレムやろうやないかっ」

「ああ、僕も飛行班に入ろうとは思っているよ」


 シュウが答えると男は途端に不機嫌な顔になる。


「はぁああ? 何で飛行班やねん。ゴーレム言うたら作業ゴーレムやろ? なんでこの学院の連中は皆飛行班ばっか入るんや……」

「それは……飛行ゴーレムが有名な学院だからでしょ? まあうちの州はもともと飛行ゴーレムの方が活発な州だけど。作業ゴーレムをやりたい人たちは他の学院に行ってるんじゃないかな」

「せやかて、ここらの学校の情報なんて解らへんで」

「ん? 地元じゃないの?」

「ああ、ブローヴァの出身や。喋り方でわかるやろ? 親の転勤で越してきたばっかりなんや」


 なるほど、たしかに完全にブローヴァ訛りだもんな。学院の情報も解らず受験を受けて入ってきた感じなのか……しかし昨日のオリエンテーションを見る限りこの学校で作業ゴーレムをやるのには限度がありそうだ。


「君は、召喚師なのかい?」

「俺は補助の方や。聞く所によるとゴレ班の召喚師は3年に1人居るらしいが、そしたら来年から困るやろ? 誰かおらんかと思ったんや」

「残念ながら僕も理論構築の方で、特性は無いんだよ。入試の時に適性試験もやってるから先生に聞いてみたらどう?」


 え? やばい……そう言えば入試の時に魔術の適性は調べていた。俺は……そう。適性がある。そういうのも勧誘に繋がるのか?


「俺も聞いてみたんや。したらな。個人情報がどうのこうのと、教えてもらえんかったんや」


 その言葉にホッとする。それはそうだな。そんな個人情報を勝手に話されたらたまったものじゃない。


「僕の中等院時代の起動やってたのは、違う学院に行っているんだ。もうしわけないけど他には知らないなあ」

「そうか……まあ、飛行班が合わなければ声かけえ。いつでも歓迎するで」

「うん」


 男は帰ろうとして、ふと俺の方を見る。


「そこの自分は、どうや? 興味ないん?」


 この際誰でも良いようだ。俺にもゴレ班を薦めてくる。だけど……。


「考えてないよ。ゴーコンなんて」

「はぁ? ゴーコンなんて? なんてってなんやねん」

「あっ。いや。ごめん」

「……まあええわ。やる気ない奴はいらんからな。ほな邪魔したな」


 そう言うと、また騒がしく教室から出ていった。


「……そう言えば名前も名乗らなかったな、あいつ」


 俺たちはあっけにとられて後ろ姿を見送った。





 その日の放課後、悩みに悩んだ俺は、とりあえずMボード班を見学してみることにした。


 Mボード班は、学院内にあるパークと呼ばれる場所で活動している。班員はそこそこ居るようで比較的人気のある班らしい。パークに行くと他にも何人かの1年が見学に来ていた。


「えーと。君たちはMボードは持ってるね。テレビとかでも見ると思うけど俺たちはそのMボードを使ってのトリックとかをしてポイントを競う競技をしているんだ」


 1年生の見学者に1人の上級生が付いて説明をしてくれる。パークは階段や手すりが付いていてその上を横にしたボードで滑っていたりする。パイプと呼ばれるUの字の大きい構造物もある。

 班員は皆プロテクターを付けており、結構な割合で色んな所で転倒している姿も見られた。……ああ。アレも痛そう……。


 見学者の何人かは経験者のようで、プロテクターも持参していた。見るとMボードも俺の使っているのと少し感じが違うようだ。経験者達は上級生に誘われてパークに入っていく。きっと彼らはそのまま班員に成っていくんだろうな。


 見学の傍らで上級生が色々と説明をしてくれるのだが、どうやら俺の持っているボードは路上で乗るだけのもので、競技には使えないようだ。聞いてみると、競技用の物は規格も決まっており、それなりに値段もする……母親に頼めば買ってはくれるかもしれないが……ちょっと簡単に考えすぎたかもしれない。班の雰囲気も少し陰キャな俺には明るすぎるかもしれない。


 

 見学を終えると俺は他の班見学を辞め、そのまま帰宅した。

 ふう……班を決めるのも大変だなあ。班活をしないで済むように申請書を出すことも考えようと思った。

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