未来を見れた君と今を生きる僕
御厨カイト
未来を見れた君と今を生きる僕
友人が死んで50年が経った。
彼についてはいつまでも忘れることが出来ない。
彼は弱気で何にも勇気を出せなかった僕を広大な冒険へと引っ張り出してくれた。
そして、僕らは無名ながらも北の魔王を倒すという偉業を成し遂げることになる。
何故、僕らがそんなことをできたのか。
それは彼の特殊能力によるところが大きいだろう。
彼が持っていた能力は「未来予知」
言葉の通り未来を見ることが出来る能力だ。
この能力のおかげで僕らは何度も死地を乗り越えることが出来た。
最初僕は彼の能力について知らなかった。
元々彼のことは勘が良いとは思っていた。
でもそれすらも彼の能力だと思っていた。
だけど、冒険の途中、僕は彼に尋ねた。
「なんで君はこんな冒険を始めようと思ったんだい?」てね。
すると彼はこう答えた。
「俺は未来を見ることが出来るんだ。それでね、自分の未来を見たら誰にも覚えられない、そんな薄っぺらい人生を送るのが見えたんだ。でもせっかく1度きりの人生を歩むんだ。それだったら皆に覚えてもらえるようなそんな凄い人生を歩んでみたいじゃないか!だから俺は冒険を始めたんだ。」
彼はそう爽やかな笑顔で言い切った。
そんな能力を持っていたんだという事実より僕は彼のそんな覚悟というか核心を見た気がした。
だからちゃんと最後までそばにいようと心に誓うことが出来た。
それからというもの僕らは様々な死地を乗り越えた。
道中の様々なボスとの戦いや魔王の部下の四天王との戦い。
そして、とうとう北の魔王と戦いとなったその時、彼は僕にこう告げた。
「君にはここに残っていて欲しい」と。
意味が分からなかった。
どうしてここまで来て僕が置いていかれないといけないのか。
その疑問をぶつけると彼は答えた。
「実はこの魔王城に入った瞬間から未来が見えない。ということは僕はここで死ぬのだろう。だったせっかくここまで来たんだったら北の魔王と相打ちになって死にたいじゃないか。」
「それだったら僕も!」
「さっきも言っただろう。僕にはもう未来が見えないんだ。だから君の安全もみることが出来ない。この戦いで君までもが死んでしまったら、誰が僕らの今までの戦いを覚えておくことが出来るんだ!」
それを聞いて僕は黙り込むことしかできなかった。
彼はそんな僕の姿を見て頭を下げる。
僕はこれが彼の覚悟なのだと悟った。
そして僕も覚悟を決め、頭を上下に振った。
そうして、とうとう扉の間に立った時、彼はポツリと呟いた。
「俺はこの先の未来がどうなるのかなんてもう分からない。もしかしたら人々の記憶に残らないかもしない。それでもなんだか良い気がしてきた。君とここまで冒険することが出来たのだから。」
そして、彼は扉の奥へと進んでいった。
僕は目を潤ませて彼を見送ることしかできなかった。
それから僕は彼が倒した北の魔王の角と彼が持っていた剣を持って王様のところに行った。
王様はこの成果にひどく喜んだ。
そして大規模に発表すると言った。
僕にもその大舞台に立ってほしいと言われたがそれは丁重に断った。
倒したのは彼だ。
僕はただ伝書鳩をしたに過ぎない。
そうして、北の魔王を倒したのは彼単独だと発表された。
彼が「未来予知」を持っているのを知っているのは僕だけだから、何の能力を持たないただの冒険者が一角の魔王を倒したというこの発表は人々に大きな影響を与えたこととなった。
そうして彼は英雄として称えられることになり、人々の記憶に大きく残る人物となった。
そして僕は彼の見ることが出来なかった多くの人々の記憶に残るという「今」を生きている。
彼にも見せたかったそんな「今」を。
未来を見れた君と今を生きる僕 御厨カイト @mikuriya777
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