魔剣姫が愛する魔剣が吸い取ってくれ。

 タルヴィッカは、切れ長の目でまっすぐに俺を見つめながら、

「アラセイカ様。いと尊き善政の女神様のお導きにより、魔導剣士ルサンカ様を紹介させてくださいませ」

 と言った。俺は、男女を問わず、美形の視線というものには弱い。美少女リスタリカと過ごす美幼女な私の方は、徐々にリスタリカと微笑みあえるようになっているのとは対照的に。


 男女の美形要素を併せ持つようなタルヴィッカの視線はなおさらである。


 俺は、俯き気味に

「はい」

 と答えた。

 

 下に向いた俺の視線がタルヴィッカの後ろに続く2人の足元を捉えた。

 

 前に大天使(大人の天使)のような、女性。斜め後ろに男性。共に、タルヴィッカよりは年上、成人18歳くらいの年頃だろうか?

「アリーサ・ルサンカと申します、アラセイカ様」

 大天使の微笑み交じりの眼差しに見つめられ、俺はお辞儀を先にする日本式の模、

「アラセイカと申します。アリーサ様」

 と下を向いて挨拶を返した。


 アリーサは、

「アラセイカ様は前世ではご立派な剣士であらせられ、聖なる力も持たれていたと、女神様にお教えいただきました。アラセイカ様は私の前世はお分かりになりますか?」

 アリーサも転生者ということか……ある女声の前世で連想すると、ススキノのキャバクラ嬢……などと言うと、携えている剣で斬り殺されかねないと思い……俺は、俯いたまま、答えた。

「前世は大天使様かと」


 アリーサは、小声で

「たしかにそのような者であったこともございました。前の前の生にて。さすがでございます。けれども、そこからは堕天使となりまして、今此処におります」

と俺の耳元で囁いた。アリーサの白い首筋が間近に迫り、俺はドキリとした。


 タルヴィッカとアリーサは、身を清めてから廉神殿に入るとのことで、コツコツと歩み去り、女性用の清めの間へと入っていった。

 

 ✧

 

(やはり、堕天使とか実在する世界に来てしまったのだな)

 と俺が感慨にふけっていると、

「おい、アラセイカとかいったか。いいか、あの女の微笑みや囁きに騙されるんじゃないぞ。

 あの女は、誰にでも微笑みを返す。誰とも気軽に話すことができるんだよ」

 いつの間にか、俺のすぐ側に近づいていた男が、一気にまくしたてた。

 

 なんと返せば良いか分からず、ポカンと口を開けてしまった俺に、男は続ける

「あの女は、見ての通り見てくれはいい。とてもいい、な」

 男に送られたましまじとしし視線に、俺は、頷いた。

 

「いいか、ちょっとあの女に微笑まれたり褒められたりしたからって勘違いするんじゃないぞ。

 いっちゃあなんだが、俺はあの女のバディだ」

 相棒バディという言葉を、少し誇らしげな表情で言った男は続ける。


「ベルンハルドの魔法科学校であの女は魔導剣士課程主席。俺はポーター課程主席。

 主席同士のパーティを俺たちふたりは組んでいるわけだ。

 ……なのにな。あの女はな。ダンジョンで夜な夜なあの女は、脇に抱える魔剣を抱きしめて眠るんだぞ……」

 さすがに異世界。学校の課程も色々違うのだなと思っていた俺の前で、男はがくっ、と首を落とした。


 ダンジョンで夜を過ごす時に、手から剣を片時も離さないというのは、魔導剣士としてあるべき振る舞いなのでは……と思った俺の心を読んだかのように、男の言葉は続く。


「違うんだ、普通の、とは。あいつは、男に興味がなく、夜な夜な魔剣舐めては悶る真性の変態なんだ。

 パーティ名のベルセプトだって、あの女の魔剣の名だしな」


 美女天使、いや美女剣士アリーサが変態さんかはさておき、この男はこの男で何かに追い詰められているようだった。ベルセプトというパーティ名は割りといい気もするが。


 ……その時、カツカツという足音が再び響いた。すると男は、

「まぁ、今の俺はお前に名乗る名はない。仮にお前が俺たちのパーティの一員となる日があったら、俺の名を教えてやろう」

 というと、俺と距離を取った。


 カツカツ足音への男の反応が、アリーサと男のパーティの2人の距離感を現しているようだった。

 

 ✧


 俺は廉神殿の礼拝室で壁に向かい一人座っていた。身を清め、白装束となったアリーサが後ろに立つ。

 そして、俺の背に魔剣ベルセプトが添えられた。

 先ほどあの男から妙なことを言われたこともあってか、ひんやりとした魔剣の感触にゾクリとしてしまった。

 そして、その後、俺は力が抜けてしまい、気を失った。私は、俺を感じ取ることができなくなった。

 

 ✧

 

 俺が失ったのは、意識だけではなかった。俺の身体から25Kg分もの体重が失われていたのだった。身体が軽い。


 そして、目を開けると、黄土色の輝きを帯びた魔剣ベルセプトをアリーサが抱きしめて涙を浮かべていた。

「……これできっとベルセプト様は覚醒なさるはず」

 

 

 黄土色の輝きは、魔素窟デモナスフィアの未開拓領域の純粋な魔素とのこと。異世界に転移しても変わらなかった俺の体重99Kgのうち、どうやら少なくとも25Kgは、カレーのターメリックやウコンではなく純粋な魔素で形なされていたらしい。

 

 ✧


 お礼に、と、俺はアリーサに覚醒のきっかけを与えてくれたらしい。だいぶすっきりとした体つきになった俺は、タルヴィッカに伴われたアリーサの背に改めて礼をしつつ、その斜め後ろの男によくわからなかったけれども、頑張れよとエールを送った。

 

 異世界という奴には、訳ありの輩が多く転生してきているのだろう。


(ともあれ、俺が何に覚醒するにせよ、俺にの生き方は異世界であっても脇役だ。望外の第二の人生を脇役に生きる、そこに何らかのやりがいはあるはず)


 俺は別の道を歩み始めている私に、そう声をかけた。

 

✦……✦


……中途半端なところで終わっちゃってますが、ここで終わらせないと次にどこで終わらせられるか分からないので、ここで終わりにします。


 この魔剣なんなのとかは……

↑のちょっと気になる男の人視線では書いてしまってますが……

https://kakuyomu.jp/works/16816700427370778146


いずれ、魔剣姫アリーサ視線でキレイに書いてみたいと思います。


後、振り返りで、アラセイカのキャラクター評を少し書きます。

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