第6話 崇高=サブライム

 マリンブルーメタルの鎧をまとった堕天使の私を俺は静かに見つめた。

 黄土色に輝く鎧に覆われた俺を私は静かに見つめた。

 

「ありだな」

「ありだね」


 下着の上に衣服、いや、魔導なんとかで作られた鎧をまとっただけでこれほど気持ちが落ち着くものなのか……俺がまともそうに見えることに元俺の私は安堵した。


 

《ショコラちゃん 壁を溶かさせたら アタシが今行くからね》

 今までで一番はっきりと女声が聞こえてきた。先ほどまでの荒ぶるヤンキー女のような口調ではない。……もしかすると私のこの身体の母親なのだとかねと思う私。

 ……それならば目の前にパンツ1枚の男がいたら狂いそうに心配してあんなふうになっても仕方がないかと、納得した気になる俺。

 

 ✧

 

 本当に紫紅色の壁が溶け出した。円形に空いていく先には銀白色の鎧が見えてきた。長髪らし胸の辺りに赤髪が見えてきた。そして……髭面のおっさんの顔が……もしかして女装趣味の……と俺がドキリとしたところで、髭面は姿を消した。

 

 ✧

 

 代わりに現れたのは、銀白色の髪を持つ、美しい少女だった。ショコラに向かい歩む凛とした横顔に俺は見惚れてしまう。淡く神々しい白光を放つ少女は私をまっすぐに見つめ歩み寄ってくる……彼女は『ショコラ』と私の名を呼び私をやさしく抱きしめた。

 

 私を正面から抱きしめた少女の胸部の視覚触覚刺激と、その白光の美少女の横顔の視覚刺激と、多幸な刺激の奔流に俺の神経系は貫かれ続けた。

 

 痺れたまま動けずにいる俺を、白光の美少女が見る。


《アタシだよ》


 んべっ、と小さく舌を出した、その崇高な容姿に俺は腰が抜けてしまった。

 

 あの女声の、御姿は、完全無欠で崇高な、俺のタイプなのだった。

 

崇高サブライム」 俺は小さく呟いた。

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