第7話 天上の崇高なる御方と敬われるこの御方は……
崇高な彼女に見とれていると、彼女はショコラの手を取って立ち上がった。
彼女は私を抱きしめていた手をそっと話した。彼女に手をやさしく握られた私は、騎士と思しき鎧姿の幾名もの者たちが彼女と私の方を向いて跪いていた。
彼女は口を開いた。
『皆、ここまでありがとう。
皆の尽力により、この尊きショコラは、わたくしが顕現しアールトネン伯爵家令嬢リスタリカの庇護下に入りました』
わたくしが……令嬢リスタリカに顕現……ということは、先ほどの女声と眼前の美少女は別人と俺は理解した。声も少し舌足らずで可愛らしい。私は手を握る彼女の庇護下に入る……わたしはうっとりとした。
《まぁ、少し後に設定の続きを話してやるから少し待ってな》
あの女声が再び響いた。私と俺だけに聞こえているのだろう。
室は静まり返ったままだ。
『そして、こちらの黄土の鎧をまといし者はショコラの兄アラセイカです。アラセイカは妹を救おうと奮闘した結果、残念ながら悪しき魔に心を侵されてしまっております。廉神殿の騎士たちにアラセイカを委ねたいと考えます。
よろしいですか?』
「はっ。天上の崇高なる理科の御方のお言葉に異存などあるはずがございません」
鎧姿の者達の中で一番貫禄がある髭を蓄えた男が即答をした。天上の崇高なる御方……長い言い回しだけれど、崇高な存在として敬われているのは明らかだった。そして俺はやはり廉神殿というところに送られるらしい。悪しき魔に心を侵されて……ひどいな。
崇高な神が信じられている中世のような……異世界であるようね。先ほど魔導を唱えた熱を再び意識し私は思った。しかし、声の主がリスタリカ令嬢の可愛らしい声だからとはいえ、民暴な脅しを受けていた女神からのお言葉に俺は、嫌悪感らしい嫌悪感を抱かないものなのね。
『アラセイカ。廉神殿の者たちに導かれ、清廉なる心を取り戻されることを願います。清廉なる心を取り戻せた時には、醜くなってしまったその姿も清められることでしょう』
俺は腰を抜かしたまま、俺を見つめるリスタリカ令嬢のお声と御顔を惚れ惚れと見つめていた。その口から、今更に醜いと言われても感情が波立つことはない。
本当に俺はリスタリカ令嬢に一目惚れなのね。私もなのだけれども。彼女に手を握られながら、そう思った。
『わたくしたちも皆、廉神殿へと向かいましょう』
「「はっ」」
跪いていた者たちが一斉に動き出した。
大柄な騎士2人に両脇を抱えられ、俺は何とか立ち上がった。2人に支えられゆっくりとだが俺は歩き出した。
リスタリカ令嬢は俺が黄土色の背中を見つめていた私に声がかかった。
「お初にお目にかかります、ショコラ様」
声の方に目を向けると、涼やかな眼差しをした騎士様が近くで跪いていた。
「わたしは、リスタリカお嬢様の護衛騎士に任じられておりますタルヴィッカと申します」
タルヴィッカ様は丁寧に両の手を胸の前に交叉させた。
声色と一人だけ鎧姿が異なること、そして丁寧で美しい物腰から私はタルヴィッカ様を女性騎士なのだろうと思った。(美しく高貴な御方……)
✧
私は今やロリっ子だが、元々は太っちょな俺であるからして、女性が好きだ。特にタルヴィッカ様のような……とても高貴な御方が。
俺は女性一般と言うよりは、うら若い、いやもっというと幼さが残る女子が好きだ。リスタリカお嬢様のような。
俺は私で、私は俺で、あった……けれども、どこかで分岐が拡がりだしたらしい。
《ふふん、アラセイカはリスタリカがお好みか。ふふん、いいぜ。アタシが許す》
「ありがたいお言葉です」
周りの騎士たちの口調が乗り移ったような音程で、俺は呟いていた。
「おおっ、アラセイカ殿。お心を取り戻し始めましたか」
俺の右脇を固めている騎士を嬉しそうに俺を見つめた。
(近すぎるっ)
思わず、左に顔を反らせると左脇の赤髪の騎士の髭が俺の頬にジョリリと触れた。
「良いことですな、アラセイカ殿」
俺の目元から数センチメートルの距離の赤髪の騎士の口から発せられた親しみを込めた口調に、思わず、
(俺は女子が好きで髭面の男たちは近づかれるのは極めて苦手だ)
と心の中で悲しき声を上げた。俺の運命は廉神殿で男たちに取り囲まれる運命なのか……突きつけられている現実をそう認めかけた時、
《そうでもないぜ。アタシが見る所、リスタリカと結ばれる道だってあるかもしれない》
そう言ってくれた女声を、俺は
おい、それ洗脳の手口かもよ。私は俺に警告は発しておいた。
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