第3話 廉騎士アラセイカ……
静まりかえった紫色の空間。
私は両の手を胸の前で交叉させたまま、太っちょな俺に話しかけた。
「あのね、私は確かに
俺の心と耳にその言葉は刺さった。そう、私は俺でもあるのだが、純な堕天使でもある。
「あぁ、そうだな。お前は尊い、な」
俺は、堕天使の私に本心からの声を返した。
そして、俺は私と、私は俺と、はじめての声を出しての会話をした。
「俺たちは、前世で、あのブラック企業に入社してしまいパワハラとセクハラの洗礼を受けた」
「そうね、私たちは、正義に目覚め法曹を志した」
「そして俺たちは、
「そう。そしてついに司法試験の択一式試験に合格して、論文式試験を受ける資格を得て……」
私は……昨日のことを思い出すと涙が出てきた。俺は手ブラの堕天使の尊い涙に身体を熱くし……
✧
《おい、デブパンツ、何サカってやがる》
女声が返ってきやがった。
《いいか、後1時間もすれば、騎士団がここに到着するからな。
女神のアタシが命じれば、騎士団はデブのチ○コなんか、一瞬で切り捨てるからな》
この女、ついにチ○コ言いました。いやだ、こんな下品な女……
《黙って聞きな。時間がないから、まずデブパンツに名前をつけて、
それから設定を聞かせてやる》
この人、女神とか自称しといて、名前と設定を押し付ける気だ……私も嫌な予感がする。
《あのな、デブパンツ。アラセって知ってるか?》
ヤラセ?!……この女のことだろう。
《違う、がぶり寄りが得意な、大相撲の荒勢だ》
がぶり寄り?!
……手ブラの堕天使を尊いと思っていた俺にはガブリエルなら分かるが。
《あぁ、ショコラちゃんは確かに尊いがな。
さておいて、がぶり寄りは相撲の決め手だ。がぶり寄りの荒勢な》
……そんな相撲取りがいた気もする。
《デブパンツ、お前はデブなくせにがぶり寄りなんてできないだろう。
せいぜい、はぁはぁ言って尊いショコラちゃんに這い寄るくらい。
つまり、お前はその
なぜだろうか。俺も私も、女声のドヤ顔を見てしまった気がした。
《よし、女神のアタシがデブパンツに名を与えてやる》
あの、俺と私には、戸籍謄本上、田中太という名前がすでにあるのですが……そんな俺と私の声を無視して自称女神は続けた。
《お前は廉騎士アラセイカだ》
呆れて声が出ない俺と私を無視して、女声は喋り続ける
《いいか廉騎士っていうのは、女子禁制の廉神殿に済む騎士のことだ。
つまり、廉騎士となったアラセイカは、男だけに囲まれて生きることになる。
オ・ト・コ、だけに、な》
またも自称女神のドヤ顔が見えてきた気がする。
部屋がまたも静まった。俺と堕天使ショコラたる私は顔を見合わせた。
自称女神はさておいて、俺は私である尊いショコラをなんと呼べば良いのだろうか……
✧
《おい、デブパンツ。じゃない、アラセイカ。
間違ってもショコラちゃんのことをショコちゃんとか、しょこたんとか、
ショタコンとか言うんじゃないぞ。
もうすぐ、この
だから、急いで設定を伝える。
アラセイカ、お前は記憶を失った異世界の廉騎士だ。
……遺憾ながらお前の妹がショコラちゃんだ。
分かったか、アラセイカ・デブパンツ?》
……
姓がデブパンツとは。荒瀬力士と共に名誉毀損が成立するのでは?
……少なくとも日本国刑法では強要罪との成否が問題になりそうね……と、手ブラ幼女な私は思う。
《アラセイカ、次の言葉を今から39回連呼しろ。
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
さもないと廉騎士段がパンツの中のチ○……》
自称女神の声の強さに押され、俺は大きな声で唱えはじめた。
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラ」
……
「アラセイカの尊い妹は、ショコラっ!」
「アラセイカの尊い妹は、ショコラっ!」
……野太い声で名をショコラと呼ばれながら、(確実に、脅迫罪と強要罪の構成要件は満たされたわね)と手ブラなまま幼女の私は思った。
《よし、アラセイカ・デブパンツは、妹をショコラと呼ぶ。いいな》
と言うと、強い響きの女声は、部屋から消え失せた。
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