第2話 ヤンキー無双な女声

 女声に貫かれ、俺は前世の最後の日を思い出した。

 そう、あの声は俺が出していたのだった。


 おそらくは変異株ウィルスが原因の熱に冒され、うなされた後、俺は久方ぶりに母校の図書館へと赴いていた。

 刑法の本を開き勉強を再開した俺だったが、目に文字は入ってこなかった。

 そして、俺は唐突に立ち上がると、近くの席の学生が開いていた教科書を取り上げいったのだった

 「そんなことをしている場合か~っ!!」、と。


 そして……

 


《おい、んなことはいいんだよ》

 俺と私の頭に再び女声が響く。

 

《お前のことは大体わかったが、これっぽっちも興味がないから、もういい。

 それよりも、お前、今、この尊い子に何触ろうとしていんだ。あぁ?!》

 

 姿は見えないが、このガラの悪い女声は何なのだろう。不信感しかない。。

 

《何が不審だ。あぁ?! 不審者はお前だろうが。こんな尊い子の前で、汚いパンツ姿でこの部屋で……》


 パンツはこないだ買ったばかりだから汚くはないだろうと思いつつも、堕天使の元へとハイハイしている途中だった俺は周囲の部屋の壁を見回した……私は正面の壁を見た。

 

(なんかエロいな……)

 僕と私で2人して同じ紫色の壁を見たためか、妙に艶めかしい気がする。

 

《んなこと考えんなよ……はぁ……とにかくこの部屋で大人しくしていろよ、デブ》

 女声がまたも割り込んできた。


 俺はハイハイの姿勢を止め、腰を下ろした……この部屋は何なのだろうか……色合い的には2時間おいくらとかいう部屋のようにも思えてしまうが……私は上げたままだった両の手をゆっくりと降ろし胸の前で交差させた。

 

《そうだな……いくらお前がデブだからといっても、デブとは認めたく気持ちもあるんだろう》


 しみじみと割り込んできた女声に、デブというのが俺を呼んでいたのだろうと、ようやくに気づいた、、確かに俺は太っちょではあるが、太っちょにデブというあだ名をつけるなんて名誉毀損な奴は今の世にはいないはず……胸の前で交差させたことで、私は堕天使の身体を手ずから抱きしめた形となった。やわらかでほっそりとした手の感触は俺にも伝わって……

 

《よし、デブパンツ。おまえがパンツの中のちっちゃいのを無駄に大きくさせる前に名をつけておこう》


 秘かにパンツの中のジュニアが張りを持っていくことを気づいていた俺は……私に向けられた張りの感触を背に感じた……

 

《何がジュニアだ。そんな大したもんでもないだろ。そうだな、お前たちの名は……》


「て……待て。あんたこそ何者なんだよ?」

 あまりにも一方的な、俺と私の中の女声の物言いに、俺はカッとしてひとり声を上げてしまった……私の身体は俺の太い声に射抜かれた。


《アタシか?女神だよ、女神。中洲の……そう、天神でなくて、その、天上の天の川の中洲の女神な》


 この女声は、何を言っているのだろうか?

 勝手に頭の中で俺を罵り出して、挙句の果てに女神だと……?!

 

《いいから、少しの間大人しくしてろデブパンツっ!今ここに廉騎士と聖騎士を一個師団向かわせているからな。

 その間に、この尊い子に指一本触れてみろ。デブパンツの中のジュニアとやらをデブと切り離してやるからなっ!》


 女声の貫く強さに俺は固まった。

 何騎士だか知らないが、そんな騎士をパシリに使う奴はたとえ女神だとしても、ヤンキーの女神だろうに……

 

《ヤンキーはキャラの一つだけどな。まぁ、いいや。とにかくアタシが声をかけるまでそのまま固まっていろよ》



 艶めかしい紫色の壁の空間はそれきり静まった。

 俺と私は脱力したまま座っていた。


(……何、この異世界転生……?!)

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