チートは《マジカルチ〇ポ》!? ~異世界転生しても現実は厳しいようです~

えちだん

第1話 プロローグ

「あれ? ここは一体……?」


 急に目の前が真っ白な地平線によって埋め尽くされる。

先ほどまで自分がどこで何をしていたのかを思い出そうとして、後悔した。

 別に思い出して酷いことが起きたわけではない。

 思い出した記憶が酷かったのだ。

 最後の記憶は目の前に迫り来るトラック、そこから先の記憶がない。

 もしかして自分は死んでしまったのだろうか? だとしたらここは死後の世界なのか?

意外と死後の世界というのは殺風景通り越して何もないものだと思いつつため息をつく。


「ハハハ……これがフィクションならこのあと転生したりするんだろな」

「その通りである!」

「!?」


 急に耳を劈く声があたりに響き渡る。

いつのまにか目の前には巨大な男が立っていた。

巨大なプロジェクターによって投影されていると勘違いになりそうなほど男は大きく、存在があやふやであった。

 年齢は20から30と若い男性に見え、大口を開いて笑いながらこちらに語りかけてくる。


「な、なんなんだ!?」

「ふむ、なんだというのは私のことかな? では応えようではないか! 私は貴様らのいうところの神的なものだ!」

「か、神〜?」


 この男は一体何を言っているんだ? 神がこの世に存在するわけないだろ? いたらもう少しマシな世の中になっているはずでしょ。


「ハハハ! まさしくその通りである! 私は神ではない!」

「え? なんで俺の思っていることを……ていうか神ではないって……」

「死んだ貴様がここにいるのも、この空間、文字通り神秘的な状況は私の仕業なのだ! 私はいわゆる貴様ら人間の上位者的存在なのだよ! だから神っぽいことも出来るしなんならやったこともある! 故に私は! 己のことを神と名乗るし名乗らなかったりするのだーー!」

「そんないい加減な……」

「いい加減? それでいいではないか! 自分のことを完璧に理解しているものなど存在しない! それは私も貴様も一緒だろう? だからこそ! 曖昧でいい加減でどうしようもないからこそ私たちは物事を選択してその選択にに満足したり後悔するのだろう。私はそれがたまらなく美しく思えるのだ!」

「は、はぁ……」


 なんだろう、話が通じるようで通じない。

こういう人生きてる間に何度か見たことあるけど、神様……もとい上位者的な人でも色々いるんだろうなぁ。


「さぁ! そんなわけで今貴様が置かれている状況からこれからどうなるか分かっているな?」

「えーと、どうなるんでしょうか? 宗教の違いによってはだいぶ変わってくると思うんですけど」

「この状況ならば転生以外にあるわけないだろうが!」


 転生、輪廻転生か?

正直地獄行きとかよりはマシだが虫や魚になるのは少し、いや大分思うところがある。

 別に虫生や魚生の心配をしているわけではなく、自分という存在が消えるのではと思うのがたまらなく恐ろしく感じる。

 それでもこの人格のまま虫になるのもそれはそれで恐ろしく感じるが。


「安心しろ! 貴様は貴様のまま転生するのだ!」

「え? それって来世も人間ってことですか!?」

「その通りだ! さらに人格もそのままだ! 安心して転生するがいい!」

「やったー! 神様ありがとうー!」


 人間! 来世も人間でしかも人格もそのままという幸運だ。

これで自分が先ほどまで不安に思っていたことはなくなった、あとは転生するだけだ。


「さらに! 次に生まれる家は地位も金も権力もある家に生まれさせてやろう! さらにさらに! 私からチートも与えて強くてニューゲームだ!」

「イェーイ! 神様素敵ー! 信仰しちゃいそー!」

「さぁ! 心構えは済んだか!? いざ行かん! 剣と魔法のファンタジーの世界へ!」


 その言葉を聞いた瞬間にその場から、男から逃げるように走り出す。

これまでの人生、というよりも前世で一番必死に今走ってるのではないだろうか?


「なぜ逃げるのだ!?」

「嫌じゃー! アニメや漫画じゃねーんだぞ! 別の世界に元の世界の常識持った奴がうまくやっていけるわけねーだろが! そもそもファンタジー世界なんて実際、恐ろしいわ!」

「素晴らしい! 一瞬で決断し、そして行動にするとは! だがしかし……知らないのか?」


 全力で地平線の向こうへとダッシュする。

なんとしてもファンタジー世界に転生は避けなければならない。


「ーーーー神様からは逃げられない!」


 男が目の前に急に現れ、動揺してその場に転んでしまう。


「さぁ! がんばれ! 隼人ハヤト 直人ナオト!」

「ぐえーーーー!」


 地面が割れ、真っ逆さまに落下する。

このまま自分は転生してしまうのだろうか?

それこそ神のみぞ知ることだろう。



 ーーーー……


「隼人! 死んでしまうとは情けない! 貴様の決断力は! 可能性はそんなものなのか!?」

「赤ん坊の時に殺されたらどうすることも出来ねぇよ! このバカ!」


 はい、というわけで産まれた直後に殺されてここに戻ってきてしまいました。

 人生終了RTAでは間違いなく最速の部類に入るのではないだろうか?


「だが諦めるな! 次の人生ではさらに地位も金も上の家に産まれさせてやろう! さぁ、次の転生を……!」

「ちょっとまったーー!」

「なんだ? 一体どうしたのだ?」

「このチート別のにしてくれ! 無理なら消してくれて構わん!」

「な、なんだと!? なぜそんなことを言うんだ!」

「このチート……あっちの世界じゃスキルの《マジカルチ〇ポ》のせいで死んだからに決まってんだろうがーー!」


 あっちのファンタジー世界ではお約束のスキルなるものが存在するのだ。

スキルも様々でありきたりな《料理》や《剣術》というスキルもあれば、物珍しい固有スキルもあるのだ。

 そしてそのスキルは生まれた瞬間に確認することができる。

 確認方法は様々でスキルを見ることができるスキルや魔道具等で意外と簡単に確認できるっぽい?

少なくとも自分は生まれて数日後にされました。

 さぁ、生まれてから子供の才能が簡単にわかり、地位も金も持ってる人がすることといったら?

 そうだね、子供のスキルガチャだね。

 レアスキル持ってる子供が産まれるまで妻や妾に仕込み続け、当たりが出たら大切に育てるのが一般的らしい。

 数日だけのママが優しく教えてくれたよ! まぁ教えるというより独り言を語りかけているような感じだったけど。


 そんなこんなで新しく生まれた赤ん坊のスキルを確認すると、なんとそれは《マジカルチ〇ポ》。

 スケコマシで女の敵のようなスキルを持った赤ん坊、その親は貴族的な立場。

 子供の数に余裕がある貴族様が、自分の子供が醜聞の種のようなスキルを持って産まれたら芽吹く前に摘み取っちゃうよね!


「とりあえず話を……」

「諦めるな! 隼人よ! 貴様の選択と幸運を信じるのだーーーー!!」

「話を聞けーーーー……」


 また地面が割れ真っ逆さまに落下してしまう。

神様、次こそは長生きできますように……。



「おぉ! 隼人よ! 死んでしまうとは情けない!」

「……あぁ、もしかして産まれる前に死んじゃった?」

「うむ! 貴様がまだ母体にいる状態の時にスキルを鑑定されてそのあと何故か母親ごと串刺しだ!」

「ーーーー!! うわぁ! まだ見たことないお母様ごめんなさい! まじでごめんなさい!」

「さぁ次の転生を……」

「ちょっと待てや! この悪魔がーー!」


 全力で大声をだしてなんとか転生を止めようとする。

これ以上見ず知らずの人に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。


「そもそも、なんで≪マジカルチ〇ポ≫なんだよ? 他のじゃダメなのかい?」

「異世界転生のお約束チートスキルといえば! ニコポ! ナデポ! マジカルチ〇ポ! の三拍子と決まっているではないか!」

「それ標準装備でしょうが! それとプラスアルファで何かがお約束でしょうが!」

「……うむ! ではマジカルチンポの代わりに他二つを与えようではないか! それで納得してくれるかな?」

「そりゃあ、もちろ……」


 なんだか嫌な予感がして言葉が詰まる。


「なぁ、その二つのスキルを持ってた人で有名な奴ってだれよ?」

「神話で有名な美少年と呼ばれている奴だな!」

「ナルシストで有名なやべー奴じゃねーか!」


 某神話で有名なやべー奴、あまりの美しさから彼を手に入れられないと思った者が自殺したり、水面に映った自分に恋をして離れられなくなって餓死をしたり、はたまたキスしようとして溺れて死んだとか色々な説がある。

 あれってニコポとナデポのせいだったのかよ!?


「安心しろ! そのものが使ってたスキルより強力な奴をくれてやろう! さあ受け取……」

「ストーーップ!!!!」


 その場で大声を上げて相手の行動を遮る。


「……やっぱりいらない」

「なぜだ!? 大量のチートスキルを持って異世界転生はお約束ではないのか!?」


 何だこの自称神様、大分俗世に染まりすぎじゃない?


「もう、他二つはいらないからせめて貴族とか王族とかそういうのはやめてくれ。自分一人だけ死ぬのならまだしも他の人が死ぬのはアカンでしょ」

「むむむ、まあ、成り上がり物もそれはそれで乙なものだからな! それでは次の生こそ幸多からんことを!」


 そんなの自分が一番願っとるワイ! という突っ込みをする間もなく地面が割れ下へと落下していく。

そのまま落ちていきながら徐々に意識が途切れていくのであった。

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