第5話 土曜日その2
そろそろ10時前、という事で珈琲店を出る
お会計は当然より大人である俺が支払うと思って、レジでお金出すと
「あ、自分の分は出しますよ!」
そう言ってちゃらりと丁度の小銭を彼女は出した
「いいのに」
「いえいえ、申し訳ないですから」
これを良い子と捉えるほど俺は若くない
おっさんに金銭で借りを作るとか嫌なんだろうなと思った
素直に奢られてくれれば別になにも思わないのに
ああいかん、また卑屈になってる。
車に乗り込んでシートベルトをつける
「んじゃ、でまーす」
「はい」
そうして近くにあるいつものゲーセンに着いた
まさか女の子と一緒にここに来るなんて思いもしなかったな
少しだけ他人の目が気になるが、どうせ俺なんて誰も見てないと思い直して店内に入る
「あ、こっちです!」
そう言って彼女に手を引っ張られる
手ぇ!手ぇ!ちょ、距離感近いよこの子!俺が若かったら即座に勘違いして惚れてるわ!
と言うか、実際勘違いしてる男を量産してんじゃないのか?この子……
「あ、コレです!ちょっと両替して来ますね」
そう言って手が離される
柔らかかった。手、小さかった。なんか気持ちよかった
とりあえず今年の一番の思い出ができたよ
さて、台を見てみよう。典型的な箱物橋渡し。隙間は十分、これは行けそう
箱も小さめと
「お待たせしました!」
彼女はコインをちゃりんと入れる
「では!どうしましょう?」
「んーとりあえず様子見でど真ん中狙うか、右爪を手前右下に入れて斜めにしてくかかな?」
「はい」
彼女はボタンを押してクレームを動かしていく
可愛いなぁ……
クレーンはキチンと操作されて、アーム閉じていく
思った通り少しだけ斜めになる
「真横になるくらい、してこうか。今の繰り返しで」
そのまま彼女は何度か操作して、箱を真横に変えていく
多少失敗するも、そのまま真横になってくれた
「次は、箱のした部分を持ち上げる感じで…そうそう、上手いね」
ゴトン
「やったあ!取れました!」
彼女は嬉しそうに景品を取り出す
700円か、少ない方かな?良かった、これで俺の役目は終わりだ
そう思って、今度は自分も取りたいものを探していく
その後も彼女は俺の後ろを付いてきて、取るたびに凄いと言ってくれる
何だか夢中になってしまい、あっという間に時間が経っていた
昼を少しばかり過ぎた、さて帰ろうか
そう思って店の外に出る
手に持つ袋にはそこそこの景品が入っていた
車に乗り込むと、助手席のドアが開いて彼女が乗り込んでくる
あ……そうか、今日一人で来たわけじゃなかったんだ
「あー、楽しかったぁ」
「そうだね、よく取れたよ」
「ホントですよー、こんなに取れると思いませんでした」
彼女もあの後数個ゲットしていた
いや、ほんと楽しかったよ。周りの目も思ったより気にならなかったし
今のゲーセンはかなりの人が来ていた
家族連れ、恋人同士、友人と。
いつもならば俺は来ない時間帯に、曜日。
見慣れない光景だった
もしこれを一人で見ていたのならクレゲ所ではなく逃げ出して居ただろう光景で
でも今日は、彼女が、倉敷みゆりさんと来ていたから楽しめた
また来たいなと、思う程度には
しかしまあ、次はない。もしかしたらまた欲しい景品があると誘われるかもしれないが期待せずにおく
それが俺のメンタルを守るために必要なこと
「あ、おひる!何か食べに行きますか?」
「あー、そうだな、とんかつ屋でもいい?」
「お!良いですね。私とんかつ好きです」
本当かよ。
まあ今度は俺がお金を払わせてもらおう。楽しかったお礼だ。
彼女は嫌がるかもしれないが、まあ景品取れたお祝いとか適当に理由付けておけば良いだろう
そして、とんかつ屋に行く
俺はいつものを頼むと、彼女もじゃあそれでと同じものを頼んだ
そして彼女と楽しく話をしつつ、食事をする
本当に美味しそうに食べていたので、好きなのは本当かなと思った
そして若干無理やりとも言うが、お金は俺が支払った
次は私が奢ります!とか言われたが次はないんだぜ?俺知ってるもん
その後も、足替わりになって本屋だとか中古屋だとかに向かう
てゆうかこの子、ほんとに歳が27なの?って思うくらいには俺と近しい趣味というか、好みな気がした
夕方の17時頃、解散する
彼女を家に送り届けて終わりだ
アパートの前まで来ると、車を停める
「はい、お疲れ様」
「今日はありがとうございました。あの、良かったらメッセージアプリのID交換しませんか?やり取り楽になると思うんで」
「ああ、いいよ」
そして交換する
まあSNSは知られている訳だし、別に構わない
その後も携帯番号教えろと言われて素直に応じる
既に俺は安心できる人間だと認定されたか?と思った
ふふん、俺は無害だぞ?
まあ見てくれがこんなだからな、かなり怪しい風貌してるけども。
そして彼女がアパートに入ってゆくのを確認する前に、俺は車を走らせる
あの娘の部屋まで知るつもりはないからだ
確かここはワンルームの部屋なので、彼女はもしかしたら一人暮らしなのかもな、程度は思ってしまったが……
そしてその夜、俺は一人でニヤニヤしつつ今日を思い返す
倉敷みゆり、27歳か……
仕事は工場で事務をしているらしい
さぞかし若い男も沢山いるだろうな……出会いも多そうだ
ま、彼氏くらいはいるだろうな
残念と言う気持ちはまったく湧いてこない
なぜならあの子とこれ以上仲良くなるイメージなんて全然湧いてこないからだ
まあ可愛かった。それでいいだろ?
少しばかり、彼女とデートをする自分を想像するが、釣り合わんなあと思って苦笑いする
これくらいの妄想、させてくれ。彼女には申し訳ないが、妄想くらいなら実害もないし良いだろ?
そして、風呂から上がる
スマホをつけて、メッセージアプリにメッセージが入っていることに気がついた
もしかしたら今日のお礼かな?
そう思って開けてみたら……
「今日はどうもありがとうございました、楽しかったです。また家宝が増えちゃいました!それで、ですが、明日日帰り温泉行くって言われてましたよね?良かったら私も連れて行ってくれませんか?」
そう、メッセージが入っていた……
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