第4話 土曜日その1

今日は待ちに待った土曜日だ


昨日片付けを頑張りすぎたせいでぐっすり眠る事が出来た


と言うか部屋が広い。足の踏み場が広い。

なんと言うか、気持ちが落ち着く


やはり部屋の片付けは必要だよな


時刻を見れば既に8時前、俺は顔を洗って髭を剃る

あごの部分だけ残して剃り終えたら水で流す


「ふう」


タオルで顔を拭き終えたらタオルを洗濯機へと放り投げる


ギリギリで起きたのには訳がある

それは時間的猶予をなるべくなくしてネガティブな思考をしない為だ


自覚しているが、自分はどうも考えすぎる

それは自分のメンタルを守る為にしていることだ、それで結果的に今まで、これでなんとか耐えることが出来て来たからだ


そうだな、初対面で会った年上の女の人が子供連れてきて、以前に身の危険を感じた事があって二人で会わない様にしてるのとか言われた事もある


いやいや、それ初対面で会う俺には失礼すぎだろう?とも思ったけど、彼女は彼女で不安があってそういうルールを課しているんだろうなと納得した


ちなみに正直その時の俺は下心なんて全然なかったのでイラっとしてしまったけど相手の事を考えれば当然だよなぁとも思った


だって40過ぎとは言え、シンママとは言え女なのだ

それが夜に用事とは言え、見知らぬ男と会うのだから警戒して当然である


だけどその時も、今回の様な思考防御で期待値0、その時はネッ友で見たことも無かったし、仮に来るのが男でも良かった。むしろ男の人なら良かった。仲良くできる自信があるし、友達は欲しいから


モテないおっさんの思考回路なめんな


信じれば真実よ


そんな事を考えながら体は動く


玄関を出て、車へ


服装は一張羅と言うわけではない

てゆうか一張羅なんてもってない


基本的にダボダボのアラジンパンツにTシャツだ。どこに出かけるにもこれ。

靴はサンダル


なんと言うか、最低限のおしゃれをする気もない


なぜならば既にモテたいとかそう言う気持ちはないからな


そのまま車を走らせる


ちなみに車も興味はない。とりあえず荷物が積めればそれでいいと思ってる


一人だけど、乗用車で七人乗りの車に乗っている


椅子を畳めばそこに布団だって敷けて寝れちゃうサイズだ。寝ないけど。敷かないけど。



走行しているうちにアパートの前に着く、さて、電話を掛けよう……


ああ、嫌だなあ。緊張するの、嫌だなあ


そう思っていると、走ってくる彼女の姿が見えた。良かった、電話掛けなくて良かった。でも少しばかり残念な気もする。彼女に自分の電話番号をまだ伝えていないから、伝えるチャンスを逃したとも言えるから



確か、倉敷みゆり


名前を思い出す


俺は関わりの少ない人の名前を覚えるのが苦手だ

特に興味のない相手……いや、自分に興味を持ってくれない相手の名前を覚えるのが苦手なんだ。


だからまあ、しばらくは頭の中ではフルネームで思い出す


ガチャりと車のドアが開き、ドキリとする


「おはようございます!すみません、来ていただいて」


「おはよう、大丈夫だよ」


ヤバい、普通にめっちゃ可愛い。何これ怖い


「じゃあ行こうか。でもまだ開いてないよね」


「あ、あそこの近くにある珈琲店知ってます?モーニング食べませんか?それとも朝食べちゃってます?」



ああ、朝飯ついでに食べようって思ってこの時間だったのか

ていうか言ってくれたら良かったのに


「食べてないよ。さっき起きたばかりだから。んじゃ行きます」


深く考えずに言っちゃったけど、だらしないとか思われないかな…まぁいいか、別に

嫌われるなら早いほうがいい。どのみち嫌われておわりなんだから


「今日はどうもありがとうございます」


「え?何が?」


「ちょっと欲しい景品があるんですよね!でも一人だと取れる自信なくて」


「あー、じゃぁ今日は取れるまで?」


「そのつもりです!すくない手数で取れたらいいなぁ」


教えるのもめんどくさいので、さっさと取ってしまおうか

でも教えておけば次から自分で取れるからそっちのがいいかな…


クレーンゲームに必要なのは経験値だ、つまりいくら使ったかで上手くなる

空間感知能力みたいなもんが必要だけど、そこにアームが当たるとどう景品がどう動くかとか結構細かい計算が必要になる


しかしそれは教えてもらう事で大幅に短縮できるところでもある


少し教えたらあとはがんばれ!俺は知らん!



ちらりと横を見る


やっぱり可愛い。あとなんかいい匂いがする。

勘弁してほしい、動機が少し早くなった気もするしこの車の助手席に女の人が座っているのは違和感がある


緊張するのは嫌なんだ


珈琲店に着くと、モーニングを2つ頼む

焼いた食パンとバター、あと小皿にサラダが盛られている

それにコーヒー


これ、二人分で1000円もしないのか

モーニング、存在は知っていたがリーズナブルなんだなぁ


「ここ良く寄るんですよー。言ったら悪いですけど、朝だとお客さん少なくて落ち着くんですよね。夜も少ないですけど。昼間だと結構年配の人がいたりして騒がしいんですけどね」


「そうなんだ。俺はあんまりこういうとこ来ないから知らなかったよ」


そしてもくもくと食べる

もくもくと。


「岡田さんって彼女とか奥さんいるんですか?」


「いや彼女はともかく奥さんいたらまずいだろ?若い子と二人で出かけるなんて」


ああそうだ、昨日の思考はなんだったのかすこしパニックになっていたのか忘れていたな

彼女は一人で来た。つまり俺と二人きり…くそう、考えてた時間を返せ!


「あはは。そうなんですね、じゃぁ彼女とかも居ないんですか?」


「いそうに見えるのならば君の眼は節穴だな…何か詰めて埋める必要があるかもしれん」


「ええ!?居るかもしれないなぁとか思ってたんですけど」


「どこをどう見れば…」


「優しそうじゃないですか、それに何か落ち着いていますし」


そうだな、優しいってことには定評があるぞ。怒ったりしないし

落ち着いてる?そう見えるのはそう装っているからだな

年季が入ってるぞ、そう装うのには…ふふ、やはり見抜けないのか、成功しているな…


ってどうでもいい事考えた


「もうおっさんだからね」


そう、おっさんだからである。何なら明日は銭湯行ってのんびりしたい。


「えー。まだおにいさんですよ。そう言えばおいくつなんですか?」


「俺?39だけど」


「ああ、じゃぁまだおにいさんですね。私27です」


おお、そう見えんな。20代前半かと思ってた

やっぱり女の人って若く見えるんだなぁ


「そうなんだ、もっと若いかと思ってたよ。でも俺ときれいに一回り違うじゃん」


「あ、一回り、ほんとだ!もしかして干支同じだったりして」


え?いやまさかまさか……で、聞いたら同じで何だか悲しくなりました。いや同じじゃなくても一回り以上違うってなるし辛いけど


そう言えばみゆさんは彼氏居ないの?


そう聞きたいけど聞けない

なんかそれだと彼女を女として見てると思われて嫌われそうだから


だから、それはどうでもいいから聞かない




俺は彼女に、何も期待してないのだから





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