第21話 謎は解けた
ゴウキとの話の間、ザイは一切の口を挟まなかった。
それはつまり、この内容に納得したという事だ。
きょうだいは気軽に連れて行けとは言うが、例え人間よりも強靭な鬼の子と言えど、そうほいほいと気軽に連れて歩ける旅ではない。
かと言って、どの程度の力量で旅について来れるかというのは私には全く分からないのでゴウキに巡回経路を伝え、全て任せる事にした。
ゴウキの笑顔が引きつった気がするが、了承した以上はきちんと鍛えてくれるだろう。
連れて行く際はゴウキの許可も更に必要となった。ザイの悲壮感漂う表情も気にかかったが、特に問題がないので頷いておいた。
ザイもそこまで私の旅がヒトにとって危険なものとは思わなかったのだろう。
もしザイが私の手を拒んだとしても何も言うまいと心に決める。
この国を訪れればザイには会える。会う度の成長の過程を楽しむのも悪くはない。
「それと巫女様、これも良い機会と思いますので申し上げたき事がございます」
ゴウキが居住まいを正し私を真剣な目で見る。
「申してみよ」
「はい、巫女様もご存じかと思いますが、
最近ではそういった集落から追われた輩が集って来ておりましてな、数もある程度膨れ上がりましたので、儂ら
深々と頭を下げるゴウキの言葉にほんの一瞬だけ、息が止まった。
「ほう、鬼人。良いのではないか? しかし、何故私にそれを求める? 勝手に名乗ればよかろうに」
「儂ら半端な亜人の受け皿をこの地に作って下さったのは巫女様と聞き及んでおります。それがなくば、人に馴染めず、かといって元の種族にも受け入れられず、定まらぬ先に不安を抱え、生きておった事でございましょう。こうして纏まる事もなかった事にございます。
これから新たな種を名乗る者らもございましょう、巫女様にお認め頂けるというんは儂らにとっては望外の喜びにございます」
どうか、と頭を下げるゴウキに少々困る。
受け皿に関しては国王との会話の際に何気ない思いつきを口にしてみただけだ。
そもそも種というのはヒトの間での認識の上で成り立つ。好きに名乗れば良いものを、と思う。
それでも慕い、頼ってもらうのは嬉しい。
私の言葉には何の力もないが、それでも私が認める事で、彼らがこれから生きる糧となるのなら。
「認めよう。これより鬼人と名乗るがいい。其方等の生きる先が良き事を」
「ありがたき幸せにございます」
ゴウキは顔をあげ、誇らしげに笑った。
『鬼人』。
通りで今まで聞かなかった筈だ。
何せ、たった今この時に生まれた種なのだから。
皇国の中ボスもどこかでこの事を知り、鬼人を名乗るようになったのだろう。
こんな裏設定があるとは思いもよらなかった。そして鬼人の歴史の浅さにも驚いた。
ちょっとしたエピソードのネタになりそうなものだが、ゲーム内ではそんな事は明かされていなかったように思う。
そこにふと、別の知識が浮上する。
ドラマCDや小説といった媒体だ。
ああ、そっちはそこまで興味を惹かれず手を出してなかったのだった。
ひょっとしたらそちらに何らかの形で描かれていたのかも知れないが、見聞きしなかった知識が私の中にある筈もない。
色々と腑に落ちはしたが、ゴウキと目が合い小さな疑問が浮かんだ。
「しかし、私がここに今立ち寄らねばどうするつもりだった?」
天啓を受けねば再びこの地に訪れるのは何年か先の事だ。最低でも5年、6年は先の話。
私にとってはちょっと先の事でも彼らにとってはそうではない。そこまでずっと種については定めないつもりであったのだろうか?
「遅かれ早かれ
やれやれ、とゴウキは息をついて嬉しそうに笑った。
§
翌早朝、ゴウキは少年と共に、巫女様の見送りの為に裏門の前に立っていた。
「では、後の事は頼んだぞ」
「お任せください、巫女様」
巫女様はひとつゴウキに頷きを返し、少年へと目を向ける。
「ではな、ザイ。よく育てよ。お前は少々細すぎる」
頭を撫でられた少年は無言で一つ頷いた。
「俺が……」
「うん?」
「俺が強くなったら本当に連れて行ってくれるのか?」
巫女様の目が少し驚きに見開かれた。
「強くなったら、ついてきてくれるか?」
「絶対ついて行く。今度は絶対、何処までも。フェイが『ここまで』って言ってもその先もついていく」
「そうかそうか、ならここで強くなれ」
「約束だからな」
「約束だとも」
真剣な少年の眼差しに巫女様は目元を和ませその黒い頭を撫でている。
その光景を目にしたゴウキはただただいつもの笑顔を維持するのが精いっぱいだった。
両者の温度差がものすごい事になっている。
巫女様からすればこの少年は所詮ヒトの子である。
ついて行くにしても限界はある。それでもこの子供の心意気を好ましいと感じたのだろう。ついて来れるなら、ついて来れるだけついて来ればいい。その程度の感覚だ。
しかし、少年の方は違う。何が何でも喰らい付いて離さないくらいの意気込みを感じる。
「巫女様」
たまりかねたゴウキは思わず声をあげた。
「どうした、ゴウキ?」
「鬼は
もはや手遅れな助言ではあるが、この先またこんなのを拾って来られてはたまらない。
それは掛け値なしのゴウキの本音である。
「ああ、気をつける」
本当に分かっているのかと疑いたくなる気軽さで答えた巫女はあっさりと城を去っていった。
「さて小僧」
巫女様の背中が完全に見えなくなった頃、ゴウキは少年に向かって声をかけた。
「お前の部屋を用意してある。本来なら入ったばかりの見習いは4人部屋と決まっておるが、お前は特別に個室じゃ。巫女様の供というなら並の調練だけでは済まぬ。向き不向きはあろうが、あらゆる場面での戦い方から礼儀作法まで一通りの事を学んでもらうぞ」
「礼儀作法……」
少年の顔が嫌そうに歪む。
「巫女様は各国の王が下座にも置かぬお方だぞ、そのお立場に泥を塗りたくはあるまい」
巫女様の名を出されれば嫌とは言えずに少年は黙り込み、しぶしぶと頷いた。
部屋へと案内しようと向きかけたゴウキの足が止まる。
「そういや、小僧、黒の森の近くの街に住んどったと聞いたが、そこから持ち出すような荷物はあるか?」
馬をとばせば大して時間はかからない。身なりからしてそう大した物はないまでも、ちょっとした荷物であればこのまま取りに行って部屋へと案内した方が効率が良い。
「ない。でもやり残した事はある」
「やり残した事……」
それを聞いてゴウキはすぐにピンときた。少年が巫女様に拾われた経緯は聞いている。
何せ鬼は執念深い。
「街まで送ってやる。あと、一応決まりはあるでな、それを教えてやる」
ゴウキは少年の背を押し厩舎へと歩き出した。
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