第16話

「あ〜、ところで長尾くんは真由とはどうなんだね」


 まさかここから来るかというところからきた質問。

 真由さんのお父さんがすすすと近寄ってきて、ソファの隣に座ったと思ったらこんなことをこそっと耳打ちされた。


「真剣に考えていますが、今は真由さんに内緒ですよ」


 お父さんだけに聴こえるように言う。

 男同士の約束だと念を押し、こくこくと頷くのを確認してほっとする。満足そうにしているのはほっておこう。

 食事も酒も最高でお暇する機会を逃した俺は、その日はそのまま香川家に泊まることになった。

 客間が用意されたが、夜遅くまで幸二や智くんと語り合ったり二人に真由さんのことはどうなってると問い詰められたりして、ベッドに入ったのは深夜を回ってからだった。


 明る朝は少々寝坊をしてしまった。

 と言っても世間的には普通か?

 朝7時。

 これまた絶品の朝食。ローストビーフサンドがとても美味しかった。この家に長くいると舌が肥えてしまう。

 食後のお茶を頂き、まったりしてると家に仕事を残してきていることを思い出す。

 金曜までにやっておきたい案件だから帰るかな。

 

「そろそろお暇します。朝食まで頂いちゃって、昨日のご馳走も美味しかったです。ありがとうございました」

「こちらこそこれからも真由をよろしくね。いつでも遊びにいらっしゃい」


 暖かい家庭から送り出されると、なんだか嬉しくなるな。

 そして、自分も家庭に憧れてしまう。

 結婚なんて真面目に考えたことなかったんだけど。そういう幸せがあることを、ここでは教えてもらえる。


「私、長尾さん送ってくる」


 真由さんがバックと上着を持って玄関を出ようとする俺を追ってきた。


「はいはい、行ってらっしゃい」

  

 駅までの道を腕を組んで歩く俺たち。

 チラチラと俺を見る真由さん。

 期待でキラキラした目をしているのは気のせいか?

 いや気のせいじゃないんだろうな。

 これは、言わなきゃダメか、約束したもんな。立ち止まって、真由さんに向き合う。こんな路上でというのもなんなんだが、その時の俺はここで止めることができなかった。


「あ〜、お待たせして申し訳なかった。俺と結婚を前提として、お付き合いしていただけるでしょうか」


「はい。もちろんです。これからもよろしくお願いしますね」


 ニコニコと満面の笑みの真由さん。

 待て待て、どうしてこんなに真由さんは自信を持っているんだ?

 自分が振られる可能性を全く考慮していなかったと言ってる風に聞こえるが。


「だって、長尾さん、私の外見、超好みなんでしょ?」


 勝ち誇ったようにいう彼女に驚愕する。

 ちょっと待て、いつから知られてた?


「な、なんでそれを!」

「義兄さんから聞いてるもの」

 

 やられた……。幸二め。


 ニコッと明るい笑顔で隣を歩く彼女を見ていると、こんな幸せもいいかもなと考える。真由さんのために時間を作ることは少しも苦じゃなかった。

 これが俺の正直な気持ちなんだろう。


「あいつは俺の好みなんて知り尽くしてるんだ」

「仲良いよね、長尾さんと義兄さん」


 揶揄うように笑う顔が明るく眩しい。

 ああ、全く、俺の彼女は性格が悪い。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺の彼女は性格が悪い Totto/相模かずさ @nemunyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ