第14話

 ジュエリーショップの後は、そのままデパートの中の服を見たり、コーヒー豆が切れているのを思い出して輸入雑貨店に行ったり。


 歩き回って真由さんも疲れただろうと思い、少し休もうと喫茶店に入った。


「長尾さん、私の誕生日なんですけど、来週の土曜に家に来てもらえませんか?」


 フルーツタルトと紅茶のセットを頼んだ真由さんはサクサクのタルトに満面の笑みだ。俺はカフェオレ。今日はまろやかなものが欲しい気分。


「木曜じゃなかったっけ?」


 来週の木曜が二十歳の誕生日。


「そうなんですけど、お姉ちゃん達も来たいって言うから。母がご馳走作るって張り切っちゃってて」

「それはかなり期待できるね」


 料理上手と言うレベルを超えて、店を開いたら大繁盛間違いなしの味だからな。

 そのお母さんに料理を習っているという姉妹はかなりの料理上手だ。

 幸二の家で有希さんと真由さんの料理を一回食べさせてもらったことがあったがすごく美味しくて驚いた覚えがある。

 俺の料理は切って焼いてくらいだから、不味くはないが特に感動するような味ではない。


「さて、映画でも見に行こうか?」


 夕食を食べるにはだいぶ早い時間。

 かといって、このまま当てもなくぶらぶらするのは辛い。

 確かデパートのそばに大型映画館があったことを思い出した。

 少し歩いたら水族館もあるが、そちらも歩き回ることになるから座っていられる方がいいだろう。


「そうですね、私見たいのあるんですよ」

 

 真由さんが見たがっていた映画は、アイドルの恋愛ものだった。恋の駆け引きをする少女漫画原作のもの。

 俺は職業柄、ドラマや流行りの映画はチェックするようにしているが、これはまだだったのでちょうどよかった。

 内容も思ったよりは原作を壊していなかったし、最近のアイドルは演技が上手い。

 最後の方で、結ばれるかと思った二人がライバルに罠をはられ、ヒロインをヒーローが庇ってトラバサミを咬まされるところは笑っていいのか泣いていいのか。

 だがこれ、原作通りなんだよな。

 結果、足に大怪我をしたヒーローをヒロインが甲斐甲斐しく看病して愛が深まる二人だったからハッピーエンドなのかな。

 ライバルは警察エンドか。シュールだな。

 うん、俺は作家さんがこういうストーリーを作ったときにしっかりと駄目と言える編集でありたい。

 すんとした表情で画面を見つめる俺の隣では、真由さんが拳を握り締めながらハラハラして画面を食い入るように見ている。

 笑ったり怒ったり百面相だな。

 ここまで喜怒哀楽を出してもらうのは映画に関わった人たちからしたら本望だろう。

 映画を見るよりも、真由さんの表情を見ていた方が楽しかった。

 

「は〜、面白かった」


 ニコニコしている真由さん。どうもこの映画は恋愛ものではなくギャグだったらしいと心の中で折り合いをつけて、にっこりと微笑む俺。


「そうですね。さて、また喫茶店にする?早めの夕食にする?」

 今は六時。もう夕食にしてもいいだろう。

「そうですね、少しお腹空いたかもご飯にしましょ」


 と、俺の腕をチラッと見る真由さん。

 苦笑して、腕を組みやすいようにそっと隙間を開けるとするっと細い腕が入ってくる。お互いに顔を見合わせて照れ笑い。

 なんだかな。

 これってもう告白の必要いらないんじゃないかな?

 

 俺おすすめのイタリアンは真由さんの口にあったようで、また来たいと言っていた。

 次は一緒にワインを飲みましょうと言ったら、こくこくと頷いて、それがまた可愛かった。

 

 

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