第13話

 土曜日、午後二時。

 真由さんとの待ち合わせの場所は、都内のターミナル駅にあるシンボル的な銅像前。

 ここなら初めての待ち合わせでも間違えないだろう。


 俺は十分前に来て、目の前を通過してゆく人たちをなんとなく観察していた。

 一人一人に物語があると思いながら人間観察をしているだけで、漫画のネタがぼんやりと拾えてくる。

 俺自身には物語を作り出す才能はないが、読者目線の普通の感覚を持つことで作家と読者の橋渡しをしていると思っている。

 編集者の仕事はそこが一番大きいのではないかな。

 急ぐ人、ゆっくり歩く人、老人若者、一人、二人、カップル、グループ。

 こうして見ているだけで楽しい。


 そして今日も真由さんは先日のように待ち合わせ五分前に現れる。


「お待たせしました。どうしました長尾さん、なんで笑ってるの?」

「いや、なんでもないよ。この上のデパートに行こうか」


 今日は大きめの水色のチュニックに白いスキニーパンツ。相変わらず爽やかな印象。大きな瞳がキラキラと輝いている。

 可愛いな、と純粋に思う。


「えっと、はぐれたら困るので腕を組んでもいいですか?」


 そんな可愛いらしいことを頬を赤くして言う真由さんに、断れるやつはいないと思うんだ。俺も自分の表情が変わるのを必死に抑えながら了承した。


「二十歳の誕生日だからね、ここにしてみました」


 選んだ場所はジュエリーショップ。どうせ買うなら本人に好きなものを選んでもらいたい。値段だけ高くて気に入られなかったら嫌だしな。普段使いのネックレスなら何本あっても邪魔にならないだろう。


「え、指輪でもいいんですか?」


 キランと目が輝く真由さんに苦笑する。お付き合いもまだなのにそれはないでしょう。


「それはダメ」


 あからさまにガッカリするところが可愛い。どうも動きが小動物みたいなんだよな。なんとかの欲目もあるのかもしれないが。

 流石に店の中で腕は組んでいないが、時折真由さんの指が俺の手に触れる。

 どうやら繋ぎたいけど繋げなくて困っているらしい。


「欲しいデザインは見つかった?」

「う〜ん、これとこれで迷ってます」


 真由さんが指をさしたのは、雫型のアクアマリンにプラチナで装飾されたものと、丸いトルマリンにプラチナとダイヤで花のように装飾されたもの。どちらも真由さんには似合うが、


「真由さんにはアクアマリンが似合うな」

 爽やかな水色がイメージにぴったり合う。真由さんもそちらの方が気に入っているんだろうか、ぱっと顔が輝いた。


「こっちも可愛いけどね」

「普段使うなら服のイメージともあった方がいいですものね、これが欲しいです」


 店員を呼び、真由さんが選んだペンダントトップと、それに合うプラチナチェーンを包んでもらう。チェーンは細みのものにしたらしい。プレゼント用にリボンをかけた包装をしてもらい真由さんにそのまま渡す。

 大袈裟な見送りに辟易しながら店を出た。


「ありがとうございます。でも、いつか指輪も欲しいな」

 細い指がするりと俺の手を掴む。


「そうだね、ちゃんと考えておきましょう」


 しっかりと答えた俺に、真由さんの方が驚いていた。  

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