第12話
朝イチで編集部に行くと、編集長がすでに仕事を始めていた。三号分の台割りをパソコンで作成しているらしく、作家リストを見ながら唸っている。
連載陣と定期の読切枠は変わらないから、新規読切と新連載をどこに入れるか迷っているのだろう。
なにせ本数は決まっているからあとはもうパズルに近いらしい。
やってみるかと言われたこともあるが、まだ早いと丁寧にお断りした。編集長になると色々な柵もついてくるから大変だなと他人事のように思う。
今日見る予定の持ち込みは、午前は完全な新人さん。年はまだ十代らしい。専門学校に通う学生で、投稿歴は浅く、一度話をしてみたいということだ。
午後は別の雑誌で描いていた三十代の女性で、連載が終わり読切数本を描いていたが徐々に仕事が減ってきたために他の雑誌にも挑戦したいということで、うちに連絡をしてきたらしい。
そこまでの情報を編集長からもらって、俺はその日の仕事を進めた。
森川先生以外の担当してる作家は、一人は現在隔週連載中。遅筆で話を練り込みたいタイプなのでこの形がいいらしい。
もう一人は読切を定期的に描いている。アンケートが良かったら連載もなどという話もあるが、いまいち伸びがよろしくない。
本人の描きたいものと時代の流れがうまく噛み合っていない感じがするのだ。
それぞれの作家に連絡をしつつ、原稿の催促をして、持ち込みが来社したら手を止めて一階にある喫茶店に足を運ぶ。それを午前と午後にやって、それぞれの作家に渡す資料を作成。アンケートの結果なども渡したりする。
持ち込みの人たちは、一応編集長預かりという形にはしたが、どうなるかな。俺とは感性が合わなかった。午前の人は以前他に投稿した原稿と、ネームを三本持ってきてくれたが傾向がうちの雑誌向きではない。午後の人はネームを二本と掲載された雑誌の切り抜きを数本だったが、どれも少女漫画の絵柄で、これもうちには向いていない。やはり雑誌の傾向は見てきてほしかったな。
それぞれネームのコピーをとって編集長に渡しておいた。
今日は他に用事もないので定時である六時に終業。いつもこうならありがたい。
メールを見ると、真由さんからの定期連絡が入っていて、思わず頬が緩む。
先週の幸二宅へ行った日からメールが毎日になった。忙しい時には返事もできないと言ったのだが、それでもいいということだったので。
そろそろ彼女の誕生日。時間ができたらプレゼントでも買いに行くかな。
電車の待ち時間でメールを返す。そうだな、今週は空いてるか。
真由さんに、『もし良かったら、土曜日は時間があるだろうか』と入れてみた。
さて、どうだろう、ダメなら一人で買い物に行こうか。
まだ早い時間なのでたまには夕飯くらい作るかとスーパーに寄る。
家にある食材を思い出しながら足りなそうなものを買い足していく。サラダは惣菜でいいか。肉と豆腐と明日のパンにビールかな。
幸二みたいに器用じゃないから適当だけど、普通にうまい夕食とビールでのんびりテレビを見ていたら、真由さんからメールの返事が来た。
『土曜日空いてます。デートですよね、もちろん行きます。楽しみです』
デート……、かな? まぁ、そう思われてもいいか。
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