第11話

「すみません」


 なんて言っていいのか分からず、頭を下げる。

もっと曖昧に流す方法もあったが、そんな不誠実なことはできなかった。せめて、真摯に向き合うことが俺にできる最低の礼儀だと考える。


「謝らないで下さい。わかっていたことなんです。長尾さんはいい担当さんです。この先も一緒にお仕事がしたいですから、今振られちゃった方が私はよかったです」


 笑顔の森川先生は多分俺の気持ちなんてわかっていたんだろう。スッキリ、さっぱりとした顔をしている。


「森川先生……」

「そんな申し訳なさそうな顔をしないで下さい。それで、真由さんにはいつ告白するんですか?」


 なんというか、俺の方がもう告白されてて、返事をしていない状態なだけなのだが。

 それを今言うことは少し憚られる。

 森川先生には即お断りをして、真由さんにはまだ返事を保留していると言うのは、まぁ、そう言うことだからだ。


「いや、それはまだ」

「お付き合い始めたら教えてくださいね。恋愛漫画のネタにします」


 ちょっと咳き込みそうになった。

 そして、SFアクションからの次回作が恋愛ものだったら読者は驚くだろうなと、冗談ではなく担当として美味しいなと思ってしまった。

 やはり俺には作家さんとは恋愛関係になることは難しい。

 和やかな雰囲気を作ってくれる先生に感謝しつつ終わりの挨拶をする。 

 

「それでは、原稿の方よろしくお願いします。こちらからも連絡しますが、何かありましたら」

「はい、頑張りますね。今日はありがとうございました」 


 会計をして編集部の名前で領収書をもらう。後でまとめて精算するときに名前が入ってないといけないから忘れないようにしないと。

 

 社に戻り、受付で社員証を見せる。昨今の防犯事情により、セキュリティはしっかりしている。

 終業時間に近い編集部内にはもうほとんど人が残っていない。同じフロアにはラノベの編集部と女性の編集部が入っているが、そちらの方もちらほらだ。

 編集長も今日は打ち合わせから直帰らしく、ホワイトボードにその旨記載されている。

 これは朝電話を受けた人間が記入していくもので、俺のところは明日も打ち合わせになっている。そこを消して予定を書き入れる。


 明日は編集部に一日詰めだな。


 午前と午後に持ち込みの人が時間を置いて二人来るらしく、編集長からメールで応対を頼まれていた。


 経理に領収書をまとめたものを出して、帰宅準備。タイムカードを押して帰宅。電車に揺られ考えるのは今日のこと。

 森川先生にもっと言い方があったのかもしれない。

 いや、俺にできる最善はああだった。

 自分を悪者にしたくないだけだろう。

 思考をいくら巡らせても答えなどないし、もう終わった話だ。

俺にできることは、いい担当として真面目に仕事をするしかない。

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