第9話
「ところで、最近仕事はどうなんだ?」
話を変えようと幸二に振る。
こういう時は長い付き合いって楽だよな。スムーズに話の移行ができるっていうのは大事だ。
「ああ、順調と言いたいところだけど、困ったことがいくつかあってな」
どうやら本当に悩み事があるらしい。有希さんも聞いているのか、ちょっと苦笑い。困っているけど大したことがないのかな?
「何があったんだ?」
「実はアルバムを出すんだけど、レコーディングを海外でやらないかって言われててな」
ふーっと深いため息をついて有希さんを見る幸二。
「何か問題でもあるのか?」
「有希と離れたくない」
把握。
あまりにも単純でくだらない悩みに、ちょっとだけこめかみを抑えた。
「有希さん連れてっちゃえばいいじゃん」
「それが、私の仕事はこれからが書き入れ時なんです、休めないんですよ」
有希さんの仕事はブライダルコーディネーター。
毎年6月と9月が結婚式の多い時期でその前一ヶ月ほどが忙しい時期らしい。
ならば確かに今は休めないだろうな。
「仕事をして頑張ってる有希は生き生きしてるからね、俺としては一緒に行ってほしいけど仕方ない」
「結論出てるなら、なんでそんなに悩んでるんだ?」
「私が一人でいるのが心配なんですって」
「じゃあ私がその間一緒に住むよ。お姉ちゃんを一人にするよりは安心じゃない?」
真由さんの提案に幸二が乗る。
女性一人よりは二人の方が安心かな。いざとなったら智くんもいるしな。
「ああ、それならいいね。お願いできる?」
「お土産よろしくね、義兄さん」
どうやら話はまとまったらしく、幸二は早速マネージャーに連絡をしていた。
夕飯は有希さんと幸二が二人がかりで作ってくれたそうだ。
相変わらずの絶品で二人の料理の腕前を褒めていたら有希さんから、
「最近、真由が料理を勉強してるんです。だいぶ上達しましたよ」
なんてこっそり教えてもらった。
明るくて、努力家で、可愛くて、俺にはもったいない。
夕飯をしっかりと頂いて俺はお暇することにした。
神戸家にお泊まりをする真由さんに見送られ幸二たちに挨拶をして帰宅する。
「また、連絡してもいいですか?」
「ああ、もちろん。こちらからもするよ」
「本当に?約束ですよ、私待ってますからね」
ニコニコ可愛い真由さん。連絡か、何か用事を作ろうかな。
今日は昼から都内の喫茶店で森川先生と打ち合わせ。
原稿は最近はデジタルが多いので家でも会社でも24時間受け取れる。
だが、打ち合わせだけは面と向かってやった方がいい。
プロットを確認するだけ、ネームを見るだけでは生きた漫画は作れないと俺は思う。
まぁ、これは編集長の受け売りもあるのだが。
編集長は現場叩き上げなので、作家との対話を何よりも大事にするんだよな。
それと大事なのは読者からの声。アンケートを反映させるのはその一環。
声が大きいのが勝ちというわけではないが、やはり反響が大きいものが生き残る。
そして森川先生の作品は読者人気が高いので俺の方針も、森川先生の時代を読む能力も間違っていないと知ることができる。
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