第7話
手土産の箱を渡し、部屋に招かれる。
広いリビングのソファに無駄に顔のいい男が座っている。映画のようなロケーションと相まって、なんだか芸能人みたいだなと思ったら実際にそうだったよ。
しかも現在進行形で結構売れているやつだった。
「よう。連絡来てから時間かかったけど何かあったのか?」
ローテーブルには有希さんが皿に盛り付けてくれた焼き菓子と、人数分のコーヒーが置かれた。
俺と真由さんもそれぞれ促された席に座り、つい先程のことを説明する。
「へぇ、森川先生に会ったんだ」
幸二の言葉に真由さんが反応する。
「あれ?義兄さんはなんで長尾さんが担当してる作家さんなんて知ってるの?」
小首を傾げて疑問符を浮かべる真由さん。
まぁ、当然かな。普通は友人の仕事までは知っていたとしても、関わりのある人間までは知ることはないからな。
「あれ言っていいの?」
顔だけこちらに向けて、首を傾げながら尋ねる幸二。
今だけアーティストと担当編集者の関係になるけれど、もう森川先生が話してしまってるから気にすることもない。
コーヒーを頂きながら話をする。お、これ美味いな、酸味と甘味のバランスがとてもいい。幸二にコーヒーの趣味はなかったから選んだのは有希さんだろうな。
「さっき、先生本人が真由さんにアニメ化の話をしてたんだよ」
それを聞いて幸二も少しだけ情報解禁。俺が許した。
「実はね、そのアニメの主題歌を俺が作ることになったんだよ」
「ええ、アニメ主題歌って初めてじゃないの?」
有希さんの方が驚いている。
そういえば漫画が好きなのも有希さんの方だっけ。タイトルを教えたら更に喜んでいた。
幸二め、有希さんが『クラッシュ』のファンだって知っていたな。
「来週の雑誌で情報解禁だから、それまでは黙っててな」
俺が一応なと言う感じで釘を刺すと、姉妹が同じような仕草で頷いていて笑ってしまう。
真面目な顔をしている真由さんの、軽やかなショートカットが縦に揺れるのが可愛いな。
そしていつものことながら幸二の有希さんを見る目が甘すぎる。
「この間打ち合わせで挨拶したんだよ。二人でうちの事務所に来てくれたんだ」
「だから長尾さんと会ったって言っていたのね。前からお仕事一緒にしたいって言ってたから良かったわね」
幸二に説明され、にこにこと微笑む有希さん。
ふわふわしている外見なのに中身はかなりしっかりした人なんだよな。
「それにしてもクラッシュの作者さんが、あんなに可愛い人なんてびっくりだったよ」
しみじみという真由さんに、俺も森川先生と初めてあった頃を思い出していた。
「俺も最初は驚いた。持ち込みじゃなくて投稿だったからな。初めてお会いした時は別人が来たのかと思ったよ」
投稿された作品のストーリーと絵を見て、すっかり男の作家さんがくると思っていたら実際は若い女性作家さんだったからな。
まぁ、実はこの業界ではよくあることなのだが。女性作家さんだと思ったら男性とかもあるし。
投稿作は重いテーマの青春群像劇で編集部内で評価が真っ二つに分かれた。
だが編集長が気に入って、俺が担当につくことになって、読み切りを何本かやった後の初連載が『クラッシュ』だった。
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