第5話
今週末の予定はと、特に何もなし。来週になったら入稿準備や打ち合わせの予定で忙しくなるしな。
真由さんのメールは、簡単な近況報告と今週末の昼間、一緒に幸二の家に行かないかということだった。そういえばしばらく行ってないな。
有希さんには連絡してあって快諾されているというので俺に否やはない。
了解の返事を書き、こちらも軽い近況報告。
三日に一度程度送られるメールはちょうどいい距離感と頻度で、年下の女の子にだいぶ配慮させているという罪悪感と、そういう気の使い方ができる彼女への好感度がだいぶ上がっていた。
「長尾さん、お待たせしましたか?」
週末、神戸家の最寄り駅で真由さんと待ち合わせをして手土産を買ってから向かうことにしていた。こうして誰かと待ち合わせなんていうこともここ数年なかったなとしみじみ思う。
「いや、来たばかりですよ。真由さんこそ時間には少し早いな」
社会人として10分前行動が当たり前の俺は当たり前としても、真由さんまで時間前に現れるとは思わなかった。
こういうところもちゃんとした家のお嬢さんだなと思う。今日は白のチュニックにスキニージーンズ。ショートカットの彼女にとても似合う涼やかな服。華美すぎないところもいい。
俺は休日なので青のネルシャツにジーンズというラフな格好。清潔感には気をつけている。
「お待たせするわけには行かないですもん。あのですね、長尾さん。姉から聞いたんですけど、この近くのベーカリーの焼きプリンがすっごく美味しいんですって、お土産それにしませんか?」
「へぇ、有希さんのおすすめなら美味しいんだろうね。いいですよ、そこに行きましょう」
事前に場所を聞いていたらしく、スマホを出して地図を見ている。
「ロータリーのすぐ先みたいです。案内するのでついてきてください!」
「はい、お願いします」
くすくす笑いながら、なんだか妙に張り切っている真由さんに続こうとする。
「あれ、長尾さん?」
ふと、後ろから女性に声をかけられた。
振り向くと、先日会ったばかりの森川先生。
「森川先生、外で会うなんて珍しいですね」
そういえば彼女の最寄りはこの隣の駅だから買い物ならこちらの方が色々揃っているだろう。ここは乗り換え駅だから規模がだいぶ違う。
「長尾さん?お知り合いですか?」
少し先に進んでいた真由さんがこちらに戻ってくる。俺と話している森川先生を一瞬訝しげに見つめる。
いかんいかん、俺から紹介しないと。
「ああ、今担当している漫画家さん、森川海先生です」
こっそり真由さんに耳打ちする。大きな声で言ってうっかりファンに見つかると大変なことになる。他の作家さんで学習済みだ。
「ひゃ、は、はぅ、そうですか、担当の」
真由さんはなぜか混乱しながら、イケボがどうの耳が孕むなどよくわからないことをぶつぶつと呟いている。
俺は森川先生の方を向いたが、こちらもなんだか様子がおかしい?
「もしかして、長尾さんの彼女さんですか?」
あ、盛大に勘違いされているらしい。ちょっと距離が近かったか?
俺が否定をしようとしたらその前に真由さんが返事をしてしまう。
「はい」
「違うでしょ、真由さん。ああ、彼女は友人の義理の妹です」
悪い冗談を言う彼女を嗜め、本当の関係を説明する。
「彼女でいいのに……」
残念そうに言うんじゃありません。俺自身まだよくわかってないのに。
ただ、今の残念そうな言い方はちょっとキテしまった。やばいな絆されそう。
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