第4話


「わかりました。話のコンセプトなど、先に単行本の方も拝見して大体掴めましたし、私でよければ主題歌作らせてください」

 仕事に関しては決して妥協しない幸二、いや相模みなと。

どうやら森川先生の作品はお眼鏡に適ったらしい。


 今回アニメ化の話が来た『クラッシュ』という作品は近未来の日本が舞台のそこで生きる少年少女のSFアクション。

 ただそれだけじゃなくて、仲間との友情、恋、裏切りなどを盛り込んだ青春群像劇でもある。

 特にアニメ化される第一部は主人公とヒロインの恋愛が主軸なので、恋愛の曲を多く作る相模みなとはイメージにピッタリなのだ。


 以前、映画主題歌の話があった時は、制作と音楽でお互いのイメージが固まらず結局流れてしまったしな。

 あの時は監督が相模みなとの大ファンで作品がどうのというよりはただ一緒に仕事がしたいということだったのだが、任侠映画にはラブソングは向いてないと思うんだ。


「あ、ありがとうございます! 嬉しいです」

いつもよりテンションの高めの森川先生。

「良いものを作れるよう、頑張ります」

 にっこり笑う幸二と森川先生。

 立ち上がり握手をする二人は、打ち合わせの間にすっかり意気投合していた。

 どうやら一流アーティスト同士、お互いにリスペクトできる部分を見つけたらしい。なんと、お互いにあまりしようとしない連絡先交換もしたらしい。


 正直言って、引きこもり気味の森川先生の世界が広がるのは喜ばしい。


 友人としての幸二はいい奴だし、有希さんという最愛がいるから変なことにならないという確信があるから安心だし。


 向坂さんにもしっかり挨拶をして、二時間ほどの顔合わせ終了。

この先こちらにできることは制作側との作業。

 幸二の方も今後は制作の方と話をしてもらうことになっている。


 原作側と音楽は全く違うスケジュールでお互いに動くことになるから、この事務所に来ることはしばらくないかな。

 

「相模さんかっこよかったぁ……」

ほうっと息を吐く森川先生に苦笑する。

芸能人オーラを出しているときの幸二は確かにかっこいい。普段は気のいい青年っていう感じなんだけどな。


「森川先生、それでは、私は編集部に一回戻りますので」

「え、あの、宜しかったらうちで珈琲でも」


 車で森川先生の自宅マンション前まで送り届け、そのまま会社に戻ろうとしたところを引き止められた。


「いえいえ、一人暮らしの女性宅には上がれませんよ、それでは、今日はお疲れ様でした」

「……長尾さん、今日はありがとうございました」

そんなにあからさまにガッカリされるとこちらも困るのだが。

「こちらこそ、いいアニメになるといいですね。そのためにも原稿頑張りましょうね」

「はい!」

ぎゅっと握り拳を作ってガッツポーズをする森川先生は、やはり可愛らしいお方だなと思った。


 その後は会社に戻り橋本編集長に報告。

「おお、受けてもらえたか。実は向こうからの返事は半々だったんだよな。相模さんが気にいるかどうかが最後の鍵だった」

「それは大丈夫でしたね、森川先生とも打ち解けた様子で、いい曲が書けそうって言って下さいました」

「あとは連載の人気の底上げかな」

「先生もやる気ですから期待できますよ」


 そんなことを話したあとは通常の業務。

今週は入稿作業もないので資料集めや集計されたアンケートを見て、分析したり。ファンレターの選り分けなどもしたりする。

 このご時世、食品は抜かないといけないしね。

 そんなこんなで午後8時。

 ちょっと遅くなってしまったなと思ってスマホを見ると、メールが何件か来ている中に真由さんからのものを見つけた。

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