第2話

 数日後、俺の家に親友を招いた。理由は久々にサシで飲もうという名目だが、本当の理由は勿論真由さんのことだ。

 2LDKのマンションのリビング、テーブルの上には幸二からの差し入れのつまみや酒が所狭しと並べてある。

 今日は有希さんが実家に行くと言うので幸二はうちに泊まって行くらしい。差し入れはローストビーフとカプリチョーザ。残ったら明日の朝サンドイッチを作ろう。

 酒はシャンパンとウイスキーを用意してある。まずはシャンパンで乾杯。


「で、真由さんのことだけど」

面倒な要件は最初に片付ける。俺たちのルールだ。


「俺の家で会ったときに、一目惚れだそうだ」

あっさり言われて拍子抜けする。本気かよ。冗談だと思っていたのに。

「っていうか、いいのかよ。俺と彼女が付き合ったとしてさ、万が一うまくいって結婚なんてしたらお前は俺のお義兄ちゃんだぞ?」

本当に万が一の話だけどな。今は結婚なんて考えられないし。


「ああ、それはいいな。長尾なら有希も安心だろうし俺も嬉しい」

意外に乗り気になった幸二に驚く。

「お前達の俺への信頼は嬉しいんだけどな、違うだろう?そういう問題じゃなくて」

「他に何か問題があるか?」

問題なんてありまくるだろう。グラスを傾けて喉を潤す。

「年齢的にどうだよ」

「7才下だから19だな。いいじゃないかモテないって嘆いていただろ」


「時間がないから続かなくてモテないだけだ、合コンではモテモテだよ」


「真由ちゃん可愛いだろ?お前の好みじゃん」

「あー、これだから幸二は!デリカシーってもんが無いよな」


 そう言いながらシャンパンを注ごうとするが、一滴も残ってない。

ウィスキーに切り替えようと、グラスに氷を入れてテーブルに置くと幸二が封を切った瓶を傾ける。琥珀色の液体がトポトポと注がれて行くのを見るのが好きだ。香りが立ち、味の期待をする。

 一口含むと期待以上の味が広がる。父からせしめた酒だがこれは当たりだ。


「そりゃあ、初恋から付き合った彼女の傾向やらなんやらみんな知ってるからな」

幼馴染に近い俺たちは、他人に知られたくないことまで知ってしまっていることもある。隠そうと思っても今更すぎるので隠せないし。


「お前は自分の恋愛拗らせたからって」

「成就したからいいんです」

ウィスキーは好きだけど量が進んでしまうからと、いつもちびちびと飲む幸二。酒に関してはこいつの方が俺より強い。

 後に引くような飲み方はしたことがないが、今日は話の内容が内容だ、変に悪酔いしそうで困る。


「涼しい顔しやがって」

「まぁ、長尾が少しでもその気があるなら真由ちゃんにスケジュール教えてやりたいんだが、どうする?」

どうするかな、確かに外見は好みだし、性格も有希さんの妹ということもあり悪い子ではないんだろう。


「まだ一回会っただけだしな、いいよ教えてそのかわり〆切間際とかは地獄のように忙しいって教えといて」

「了解」

 この話はここで終わり、そこで切り替えてお互いの近況を語り合って杯を重ねた。


 幸二の今度出るアルバムの話やら俺の担当している漫画が今アニメ化のオファーが来ているなどなど。

 守秘義務?お互いに口の堅さは折り紙付き。こうして二人で共有することで開けた道もある。

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