第5話 ヤらかしと過去 2

『さぁ、始まりましたBCT世界大会inNY決勝!!いやぁ、神崎さんついにこの日がやってきましたね』


『はい。日本代表チームであるUNISONの快進撃があり、20万人もの方がこの配信を見てくれています。高梨さん、これは実況の腕の見せ所ですね』


『ええ。BALORANTという素晴らしいゲームを皆さんに分かりやすくお伝えしていきたいと思います』


『では、軽く今までのBCT世界大会inNYを振り返って行きましょう』


『まずは予選となる日本大会から振り返りますがこのUN。大会前は殆どノーマークのチームでした』


『ええ。大会に入ってジャッジ5本や、1か所全員守りなど、Lskコーチのユニークな戦略。そして、Jadeの突クナイ、Akuqの2本連続ACE、Ozuのフラッシュ、TigaのClutch、Rutioのモク、Sakuraの縁持ちと魅力的な選手陣。Mickeyさんの資金力と全てが完璧で注目のチームとなり一気に日本大会を優勝し世界大会への切符を獲得しました』


『そして、世界大会。前予想では圧倒的最下位とあまり支持を集めていませんでしたが試合が始まるとあらあらあら。もうね、私達もでしたが手のひらくるっくる回してUN最高!!日本の凄さを見せつけろ!!って叫びましたからね……』


『UN最高!!』


『えーこれまでの戦績は前回大会で準優勝、世界2位のチームに3-2で勝利。他地区1位で上がってきたチームにも3-1もしくは3-2と最後のラウンドまで持ち込まれることはありましたが全勝し迎えた決勝。神崎さん、決勝どうなると思いますか?』


『まぁ、相手は前回大会優勝チーム、世界一のチームですからむずかしいと思いますけどまぁ、なんとかなるんじゃないですかね。言っちゃあれですけどJade選手とAkuq選手、Tiga選手のディエリスト3枚を止めるなんてはっきり言って無理だと思うんですよね。他のメンバーのOzu選手、Rutio選手、Sakura選手も全然他のチームならディエリスト張れる実力を持ってるので自分からしてみれば5人全員がエースのドリームチームなんですよね。マップによって誰が入るかは変わりますけどチーム力というか、団結力が凄いんですよね』


『つまり、世界一のチームには負けないと』


『ええ。予想ですけどさっき言ったディエリスト3人が全てを破壊すると思います』


『おっ、皆さんおまたせしました。選手たちの入場です。まずは先頭にLskコーチ、そしてエースのJade。そこからAkuq、Tiga、Rutio、Ozuが入ってきます』


『Ozu選手の肩にはUNのスポンサーMickeyさんが作った日本からの応援メッセージが書かれた旗が掛かっています』


『この大会中ずっとOzu選手が肩にかけてますね』


『入ってくるのが最後だからですかね……でもやはりUNの選手陣、もちろんコーチも含めてですけど全員若いですね』


『確かコーチが26で選手は全員21歳だったと記憶してます』


『21……日本の若者が世界に挑み頂点へ手が届くところまで来ました。#UNWINで応援しましょう』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「世界大会ラスト。勝って終わるぞ……ヒョッてる奴いるぅ?」


「「「居ねぇよなぁ!!」」」


「よっしゃ行こっ」


「「「おう!!」」」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『相手チームに声出しで勝ってますよ、UN』


『他の実況の方が言っていましたがやはり声を出すというのは緊張がほぐれたりだとか色々と効果があるらしいですからね。では、ファーストマップ………』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


テレビでは俺が世界大会に出場した時のLIVE映像が流れている。BOT世界大会。1年前、俺たちUNISONはどうにか世界大会決勝まで辿り着くことが出来た。元々俺やOzuがそろそろ彼女を作りたいからゲームする時間少なくして合コンに行きたいという不純な理由から最後の思い出に本気でゲームしようぜと大会に参加したのだが……まさか決勝まで行くとは思わなかった。始まりは3年前、元々競技シーンで活躍していた友人Lskが株で一発、いや色々と当てまくり億万長者になった友人Mickeyの会社にスポンサーになってもらって新しいプロチームに作りそこのコーチをすると言う事になり仲が良くたまたまある程度実力を持った俺らを選手として迎える事になり大会に一切出ずにランクやカジュアルで回しまくった結果、一部のプレイヤーには名のしれたチームUNが出来たのだ。

ただ、OzuとSakuraだけは多少の知名度は必要だとかなんとか言ってBALO以外のゲームの配信をしていたが……。


「本当に空愛ってプロゲーマーだったんだね……」

彼女は映像を見て改めて俺がプロゲーマーだった事を受け入れたのかそうつぶやく。

「まぁ、2年前の話だけどね。この大会の後すぐにプロゲーマー引退したし」

「え?なんで?」

「色々とあったんだよ。ざっくり説明すると時間が欲しかった」

「なんかプロゲーマーって練習大変そうだもんね……」

「引退してからもゲームする時間結局変わんなかったけどね……」

「え?だったらなんで引退したの?」

「黙秘権を行使します」

合コンに行く為だなんて言えないっ。てか、元々俺コミュ障だから合コン誘えないし誘われないし友人関係全員プロゲーマーか地元だもん。無理だよ。見通し甘かったよ……。

「めちゃくちゃ気になるけど聞かないであげよう。で、朝ごはん何?」

「えーお湯を入れて混ぜたらできる春雨スープ(スパイシーカレー)と近場で買ったパンです」

「うむ。苦しゅうない」

「えっと……コーヒー飲める?」

「私これでも20超えてるんです。一応空愛と同じ歳のお姉さんなんです。コーヒーには受験の時とか散々お世話になりました。ブラックコーヒーだって飲めますっ」

少し俺が子供扱いしているのが気に食わなかったのか一言一言を強調して話してくる。そもそも本当のお姉さんなら自分の事お姉さんなんて言わないと思うが黙っておこう。

「じゃあ、ミルクと砂糖なしのブラックをどうぞ。俺は砂糖めちゃくちゃ入れるけど」

「……空愛?私にも砂糖入れてくれると嬉しいかなぁ〜って」

「菜璃様はブラックが好きなのでは?」

「飲めるとは言ったけど好きだとは言ってないから……言ってないからぁ〜」

彼女が少し涙目でこちらを見てくる。

「あーじゃあこれ渡すから自分の好きな量入れて……ほら、テレビ見よテレビ。面白い所だから」

俺はそう言ってテレビを指でさした。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『ここでUNひっくり返されてしまいました。11対12やはりロシアの壁は厚いのかっ、相手チームのマッチポイントです』


『このラウンド取られるとファーストマップを相手に取られることになるので精神的にUNはキツイかもですね』


『ええ……おっとここでRutioが抜かれる』


『モク抜きですモク抜き……これはUN人数不利になってしまいました』


『うーんモク役のRutioが抜かれたの大きいですね。おっと、更にここでTigaも抜かれるーー』


『Tigaは蘇生が溜まっていたのでRutioを蘇生に来たところを抜かれてしまいましたね』


『3対5。UN圧倒的に不利な状況だが……Jadeがジャッジの餌食になってしまう2対5。ここを取られればファーストマップを取られてしまうので絶対にラウンドを渡せないUN。おっと、Ozuがフラッシュともに入っていくが負けてしまった1vs5。ただ、相手チームの選手を大きく削りました』


『相手チームの選手が重なっていたせいで落としきれなかったですね。でも、重なっていた二人は残りHP10。まだ設置まで行けていないUN。ここからどうやって巻き返していくか』


『最後Akuq選手……敵チームがOzuのいたCによります。おっと?Akuq選手Aに設置だ。Ozu選手を囮に使ったーー』


『ただ、ここからですよ。設置したら場所バレますからね。AからC距離がありますけどすぐに来ますよ』


『さぁ、ここからAkuqは守れるのか……おっと?Akuqが持っているのはジャッジです。犯罪ジャッジの角待ちだぁぁ』


『えっと、裏からの射線……ここ通ってないですね。裏に一人回ってますけどこれヤバいですよ』


『日本産ジャッジがロシアに日を吹くのか!相手チーム4人。ゆっくりとクリアリングをしてAに向かってきます』


『Akuqガン待ちです。一切動きません!!国産ジャッジ日を吹くか!?』


『相手チーム4人……Akuqに気付けないっ!!Akuqここで4人キル!!国産ジャッジは世界でも犯罪だったァァ!!』


『大犯罪を犯しましたね。でもこれで1vs1Akuqは武器を入れ替えて裏を警戒しています』


『流石に一人は裏を回っているだろうという判断ですね。あと少し爆弾を守りきれるかAkuq』


『銃口が見えた、Akuq牽制で撃ちます』


『倒さなくていいわけですからね。ただ、時間さえ稼げばいい。相手は……オペレーター!!裏から詰めてきていたのはオペレーターです』


『Akuqは牽制射撃を続けるがここでリロードっ、その空きにオペレーターで合わせられるっ!!Akuq時間を開けてジャンプピークっ……オペレーターの玉が膝に当たるっ!!Akuqここまでだ!!解除に向かいます』


『あれっ、でもこれ解除間に合いますかね?』


『ぎりぎり間に合わないですかね…………爆発したァァァ!!Akuq1vs5Clutch。世界大会決勝という大きな舞台で最高のプレーを見せましたっ』


『国産ジャッジはヤバいですね』


『もうなんというかあれは大犯罪でしたね。一応敵チーム二人は削れているということもあってワンタップでやられましたけど他二人はHPMAXな訳ですからね。それすらも削り取るのは凄すぎましたね。もはや大魔王Akuqの誕生です』


『あれ一応Rutioの形見のジャッジでしたからね。いやぁ、大犯罪。そして、OverTimeです』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「空愛犯罪者?」

「……いや、それはそうなんだけど俺めちゃくちゃ頑張ってるからね?途中フィジカル無双のACEシーンとかあったでしょ?俺覚醒してるからね?ここスゴーイって褒めるところだからね?」

「スゴーイ」

「心が全然籠もってないっ!!」

ジャッジ犯罪はしょうがないんだ。あの時は野生の勘がジャッジ使えばいけるって囁いてきたからジャッジ使ったわけでいつもやってる訳では無いんだ……元々持ってたのRutioだし。あれ、なんか涙出てきた。この時コメント欄でも大犯罪者だぁぁとかテロだなありゃ、とか大魔王Akuq爆誕とか、相手チームブチギレてるんだけど……とか色々あって悲しみと嬉しさで感情のぶつかり合いがあったの思い出した。てか、この時冗談で1億くださいって言ったら100億貰うことになるなんて思わなかったな……。

「最後まで飛ばして」

「え?菜璃さんもう飽きました?」

「いや、私色々と準備したいし。いつまでもこの格好でいたくないし」

そう言って彼女は来ている俺のTシャツとズボンを指す。いや、うん。俺自身こんな状況になるなんて思ってなかったですよ。でも、なんかそう言われるの傷付くんですけど……しっかり毎日洗ってるんですけど。ゴワゴワするとか色々とあるかも知れないけど!!

「了解。じゃあ、最後のラウンドまで飛ばすか」

「あれ、これめちゃくちゃ長くない?」

「3マップ取った方の勝利で最終戦まで持ち込まれたからね。てか、その後に優勝インタビューとか俺の引退インタビューも入ってるし」

「へぇ〜」

彼女はそう言うとまだ少し熱いコーヒーに口をつけた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『マッチポイントUN。世界大会優勝まで後1ラウンドですがここで巻き返されています』


『良い感じにウルトも溜まってお金に余裕があるのでここで決めたいですね』


『Jadeがクナイを構えて一人でクリアリングしていきます』


『他の選手は二人ペアになって安全マージンをしっかりと取って守ります』


『おっとここでJadeが一気に3キル!!日本には大犯罪者、いや、大魔王だけでなく忍者も居ました!!』


『5対2。圧倒的人数有利を作り出せましたがここでJadeが落ちて4対2。まだUN人数有利を持っています』


『おっと、ここでAkuqとOzuが攻める!!Bを開けてどんどんAに詰め寄ります』


『RutioとTigaはジャッジ待機です!!前は犯罪、後ろからは大魔王逃げ場はどこにもありません!!』


『ここでAkuqとOzuの前に敵が現れる!!それをAkuqがワンショヘッショで落としきったァァーー』


『UNISON世界大会優勝です!!世界1位のチームに輝きました!!』


『UN、UNと会場からはUNコールが聞こえてきます!!』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「UNすごいねぇ……で、大魔王空愛さん私すらも犯した気持ちをどうぞ」

「えー大変……急に何言わせようとしてる!?」

「またなんか腹が立ってきて」

彼女は頬を膨らませて怒ってますとアピールをしてくる。さっきも言ったがこれでお姉さんはないだろ……。

「はぁ……こっからインタビュー聞く?」

「ため息?彼女を向いてため息!?」

「いつか友人が女は面倒くさいとか言ってたなぁ〜と思ってね」

「貴方の方が面倒くさいですが?性格は私より貴方の方がひねくれてますが!?」

「まぁまぁ……そうカリカリしないで。インタビュー見る?」

「気になるから一応」

「了解です」

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