第4話 責任は、庶民へ。

ーあらすじー

 見習い魔術師であった少年フィールは、ある朝起きたら部屋に謎の美女フリジアさんがいることに気が付く。加えてその美女は自分の彼女であると言うのだ。

 その後、通っていた魔術学校で軽い問題を起こし、フィールは退学になってしまった。魔導士になる術と行く先を失いかけたフィールだったが、フリジアさんは学校でのフィールの師匠と互角に張り合う実力の持ち主とわかる。

 フィールはフリーの狩人だという彼女に弟子入りしてフィールは魔導士を目指すことにした。

 思いもよらない形で、フィールは念願の王都を訪れることになった。





4話


[ 拝啓

 父さん母さん、この手紙を送ることはないけれど、こんな手紙のなかでも謝っておきます。ごめんなさい。

 僕はキトラ魔術学校を退学になりました。立派な魔導士になるんだぞと送り出してくれたのに綴る言葉もありません。でも魔導士になることは諦めていません。フリジアさんという狩人の下で修行して必ず魔術師になって見せます。どうか待っていてください。

 あの鹿のバッチを着けて、ローブを羽織って村に帰ります。その時を楽しみにしていて下さい。

 追伸:魔術学校の学費は魔術師になった暁に耳をそろえてお返しします ]



 僕、フィールは汽車にゆられて3年を過ごしたキトラの街を後にしつつ、その車窓からこの手紙をしたためていた。


「フィール、こんなことになっちゃってごめん」


 ボックス席で向かいに着いているフリジアさんは書き上げたばかりのフィールに身を乗り出して謝る。


 畳む手紙の向こうにフリジアさんの申し訳なさそうな顔が映る。なんて綺麗な髪だろうか、、。この可憐な顔と、なにより美しい髪の魅力のせいでこの人を怒る気が湧いてこない。ズルい。


 この人と師匠の戦いの連帯責任で僕は退学になったんですけどね。


 いやぁーここにきて庶民であることがこんなにも裏目に出るとは!!だぁーれも弁護してくれない。気が付いたら生徒証無効になってて草。


「いいんですよフリジアさん、やっぱり僕にはあんないい学校に縁が無かったってことで、師匠にも怒られてばかりだったし、僕みたいな庶民は地道に経験を積んで魔術師になるべきなんです」


 手紙を巾着にいれて懐にしまう。これを開けるのは何年後になってしまうのだろうか?

 けれど、庶民の出だけど独学で魔術師になって大成した先人もいる。なにも暗い未来ばかりじゃない。むしろこんなに綺麗で、師匠と張り合うだけの実力のある人と一緒なんだ。未来は明るい。そうだ、そう考えよう。


「私は弟子をとったことはないし、狩人で魔術師ではないけど、魔術は使えるから、だからフィールには十分な素質はあるから!問題ないよ」


「ありがとうございます。僕もできる限り頑張ります」


「うん」


 なんだろう、酔っ払ってやらかしたっていうことの部類には入るのだろうけど、もうなんか悩む気にもなれない。


「そういえばこの汽車でどこに向かうかって決めているんですか?それとも旅をする感じですか?」


 勢いでキトラの街を二人で後にしてしまったけれど、フリジアさんにはあてがあるのか、特に迷いもなくこの王都行きの汽車に乗り込んでいった。

 フリジアさんくらいの実力者だったら王都に伝手があっても不思議ではないし、逆に各地を回る流浪の旅っていうのもなんだかイメージにあう。一体どっちなんだろう?


「えーっと、とりあえずは王都に行こうとは思ってて、狩人のライセンスの更新をしばらくしてなかったからやりたいんだ。そのあとは昔お世話になった場所があって、そこなら魔術の練習をできると思う」


「そうですか…そういえば今のフリジアさんのランクっていくつなんですか?昨日フリジアさんが師匠たちに見せてたピンバッチはかなり古いもので、僕にはよくわからなかったんです」


 多分何世代か前の印な気がする。リキニアさんも師匠も知っているようだったから正式なものには違いないけど、僕には読めない。


「A級だよ」


「すごっ!!」


「でしょーー」


 いや、フリジアさんのその笑み、ドヤ顔、むかつく。だけどやっぱりA級は凄い。


「そしたら、思いのほか簡単に僕も魔術師になれるかもしれませんね」


「えっ?そうなの?」


「フリジアさんは魔術師になる方法知らないんですか?」


 よくそれで胸を張って「絶対にフィールを魔術師にしてあげる」なんて言えたなぁ、魔術師は一番なるのが大変な職業の一つなんだぞ。


「魔術師はC級からしかなれないっていう話は知ってる。だから、いろいろやって試験とか受けて、ちょっとずつランク上げていけばいいかなって思ってるんだけど、違うの?」


「確かに僕は見習いの資格はもっているので、その方法でも魔術師にはなれますけど、その方法だとどれくらいかかると思っているんですか?」


「えっと、5年くらい?」


「平均で13年です、」


「どへーーーそんなにかかるの?そりゃ給料もいいわけだぁ」


「まぁそういうことですね、一般職の医師と同じ水準ですから、」


 フリジアは正直な感想を述べたのだが、実はちょっと根が深い社会的な問題に触れてしまっている。でもフィールには関係のない話だ。


「でも、そしたら私がA級だと簡単になれるっていうのはどういうこと?」


「ほら、さっきフリジアさんも口にしていたじゃないですか、弟子をとるってあれ、誰かの弟子だとその師匠同伴でできることも増えますし、なにより上級のクエストにも入れますからね、結果として魔術師になるまでの時間は一気に短くなります」


「へぇーーそんな仕組みあるんだ、凄いな、」


「はい。それにA級の師匠ともなれば、もしかしたら1、2年でなれるかもしれません」


 フィールは腐っても?女性問題で退学になっても?キトラ魔術学校では次席だった。それだけの実力とフリジアさんというA級の師、客観的に見ても現実的な数字だ。


「それなら皆弟子入りすればいいのに、A級の魔術師なんてほとんど知らないけど狩人なら頑張れば見つかるでしょ?独りで魔導書とにらめっこしているくらいならそっちのがよっぽどいいんじゃない?」


 この弟子をとる仕組み、実は戦闘系の職業なら結構融通が利いて、このように狩人が魔術師の弟子をとっても戦士が剣士の弟子をとっても問題ない。勿論同じ職業の方がより早いが。


「魔術師を弟子にとってくれる狩人なんてそうそういないですよ?A級ともなれば皆無なんじゃないですか?」


「そうなの?」


 この人、世間知らずじゃない?ねぇ、僕は不安になってきたよ。こんなに知らないことだらけで、どうやってA級の狩人になったんでしょうね?謎・・・


「だって、狩人って戦士とか剣士とかとは一緒に仕事したりするでしょう?でも、魔術師とはあんまり被らない所が多いし、そもそも魔法を使う狩人って少数派ですからね」


「まぁ言われてみれば私の魔術師の知り合いって伯父さんくらいかも。コミュニティが被ってないのかもね」


「魔術師と言えば国軍ですけど、同僚は剣士になっちゃいますし、剣士と魔術師だけはお互いに弟子をとれないんですよね。色々な要因で魔術師は希少な存在になっているんでしょう」


 まぁ実際にはもっと大きな問題、貴族階級の魔術師の独占があるのだけれど、こんな所で言うことでもないしフィールは魔術師になれればいいな、くらいにしか思っていない。


「まぁフィールがすぐに魔術師になれるっていうないいやそれで」


「頑張ります」


「ちなみにさ、S級だとどうなるの?」


「S級の人に弟子入りする場合ってことですか?」


「そういうこと、」


「まぁそんなことは絶対に無いと思いますけど、確かS級の推薦がある場合は恩恵をもってさえいれば即座に弟子は正規のライセンスをもらえるらしいですね。なんでもS級の仕事を邪魔しないためだとか、まぁ夢の中の話ですね」


「でも、あのジークリンデって人はS級だよね?」


 その通り!師匠は生ける伝説の1人なのだ、そんな人の教えを受けれる機会を僕は…


「そうですね、アルヴェニア王国の抱えるS級の内の1人です。一応国内最強って言われてます」


「まぁそうよね、めちゃくちゃ強かったもん。意味わかんない」


「やっぱり凄かったんですか?僕とは次元が違い過ぎて、何が何やら分かりませんでした」


「あれは本当に人外。なんで人間の形をしてるのか私にはわからない。それにあれでも本気を全然だしてなかったみたいだし、あんなのがいる限りアルヴェニアは安泰だね」


「そうなんですか?フリジアさんも互角に見えましたけど」


「まさか?降神術使えるのは控えめに言って反則。そりゃ神と人どっちが強いかって話よ」


「降神術?」


「ああ、そっかあんまり知られてないもんね、マニアックな技術だし、ようは神を体に宿す術。巫女とかのとは違って顕現させるでもなんでもなく、マジでこの世界に連れてくるから神々の全力が襲ってくるわけ、時間とか色々と制約もあるけどはっきり言ってどんな技でも敵うことはないね」


「そんな術を師匠は使えるんですか、凄いなぁ」


「むっ!私も似たような術使えるけどね」


「えっそうなんですか?じゃぁあの時に使えばよかったのに、」


「うっ!言ったけど色々制約があるの!あの時の私には使えなかったの!ちゃんとできるよ!」


「はぁそうですか」


「信じてないの?」


「いや、信じておきますよ、それにもともとレベルが高すぎて、僕には関係ないというか・・それよりも早く魔術師になれたらなぁって…」


「まぁそうね。頑張ろう…」


 なんでフリジアさんは不敵な笑みを浮かべているのかな?ちょっと怖いですよ、いや、

不気味の方があっているか。


 二人を乗せた列車はほとんど満員で、山脈を迂回して王都へと近づいて行った。


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