第89話 エヴレン・アヴシャル‹6›

 無理むりくり弟子でしにされて、なんかムカついて。

 つい、アカンさんとの決闘けっとうのこと言っちゃいました。


「うへっ、試合しあいるかとおもったら、今度こんど決闘けっとうですかい。しかも明日あしたって。――エヴレンて、厄介事やっかいごとをもらっちゃうほししたまれてんじゃない?」


 あうっ……。

 おもったとおり、あきれてるツクモさん。

 でもつぎ質問しつもんわたしあきれてしまいます。


「――ところでさ、先休日ドルズンジュってなに?」


 ツクモさんて、ちいさいでもってるようなことをらないときがあります。

 最初さいしょ冗談じょうだんかと思ったんですが、本気ほんきみたいでビックリです。


通常つうじょうみせ役所やくしょなどは一紾テキセキスレ一度いちど定休日ていきゅうびがあるが、学校がっこう二度にどやすみがあるのだ。そのうち、まえのものを先休日ドルズンジュあと後休日セキズンジュと言う」


 丁寧ていねい説明せつめいしてくださるチェフチリクさま

 さすがです。


「なるほどぉ。えーと……、一紾テキセキスレ地球ちきゅう一週間いっしゅうかんてるけど、八日ようかごとの区切くぎりだからぁ……、先休日ドルズンジュ後休日セキズンジュ四日毎よっかごとにくるわけねぇ……。それでぇ、8こくっていうとぉ、だいたい午後ごご2ぐらいかぁ……」


 一人ひとりで、ぼそぼそ何かつぶいてるツクモさん。

 ちょっとこわい。


「――だがまぁ、楽勝らくしょうじゃねぇか。ウズベリにてるようなヤツは、そうそういるもんじゃねぇ。天使てんしだって所詮しょせん第一圏層天使プラタマメレイだろ。奉術典礼ほうじゅつてんれい相手あいてくらべりゃ、ガキのおあそびみてぇなもんだ。本番前ほんばんまえ景気けいきづけにかるくひねってこい。カカカカッ……」


 アティシュリ様が、愉快ゆかいそうにわらいます。

 みなさんには、おねぇちゃんの名前なまえ能力のうりょくのことははなしてますが、私との関係かんけいのことは説明せつめいしてません。


「はい、私も戦闘せんとう心配しんぱいしてないんです。ただ、介添人かいぞえにんをどうしようかって……」 


介添人かいぞえにんか。たしか、くに地方ちほう上級官吏じょうきゅうかんりなど公式こうしき名簿めいぼ記載きさいされているか、裁判所さいばんしょ登録とうろくされているものしかなれなかったな」


 チェフチリク様はアゴをでながらまゆをひそめます。


「はい。でも裁判所さいばんしょ紹介しょうかいしてもらうと金貨きんか10まいかかるみたいで……」


金貨きんか10まい?! 紹介しょうかいするだけでぇ?! なんちゅう、あくどい商売しょうばいしとるんじゃいっ!!」


 おこるツクモさん。

 仮面かめんのせいで、わらいながらおこってるあぶないヤツになってます。


「私、そういう知合しりあい、いなくて……。友達ともだちのおじいさんが冒険者組合ぼうけんしゃくみあい組合長くみあいちょうをしてるんでいてみるってってたんですけど、多分無理たぶんむりじゃないかって……。だから……、もしダメだったら……、お金借かねかりれますか、ツクモさん……?」


「うう、むむ、金貨きんか10まいかぁ。いまうちの全財産ぜんざいさん金貨きんか80まい……。そっから10まい……。うぐぐぐ、すこかんがえさせてくりぃ……、むぐぐぐ……」


 身体からだをよじりながらあたまかかえるツクモさん。

 かなり苦悩くのうしてます。

 なんかりにくいです。

 

「――ルゥタル、おまえ介添人かいぞえにんにはなれんのか?」


「チェフ様、わひぃ退官たいかんひぃて官吏名簿かんりめいぼから抹消まっひょうひゃれておりまひゅから、介添人かいぞえにんにはなれまひぇんよ。ひょれに資格ひぃかくがあったとひぃてもオクルから証明書ひょうめいひょをとりよひぇるのに一月ひとつきはかかりまひゅので、決闘けっとうにはいまひぇん」


「そうか……、だとするとわせるにはザガンニンないつけなくてはならないということだな。――シュリ、ここはおまえ管轄かんかつだ。だれかいないのか?」


「うーん、心当こころあたりはあるが、そいつの在所ざいしょはメレクバチェシだからなぁ……。明日あしたじゃ無理むりだろ」


 こまったふうあたまをかくアティシュリ様。


「そうか……、自分じぶんもマリフェトに、そんな知合しりあいはいない。――ツクモ、きみはどうだ」


「いやいや、僕は地縛霊じばくれいですぜ。耶代やしろはなれられたのも最近さいきんだし。おえらいさんどころか一般人いっぱんじん知合しりあいでさえ無理むりってもんです」


「そうだったな……」


 みなさんだまってしまいます。

 やっぱ、マルツちゃんのおじいさんにけるしかないのかな。 

 

「――ええとぉ、エヴレン。その友達ともだちいてみてダメなら、お金貸かねかすから心配しんぱいしないでいいよ」


「あうっ、あ、ありがとうございます!」


 ツクモさん、アホで変態へんたいだけど、やっぱりひとなのです……。


 そのあと、私は学校がっこうにいき、マルツちゃんに介添人かいぞえにんけんたずねました。

 どうやら冒険者組合ぼうけんしゃくみあいは、奉術典礼ほうじゅつてんれい出席しゅっせきする賓客ひんきゃく護衛ごえいまち治安維持ちあんいじくにから依頼いらいされたらしくて。

 おじいさんは、その対応たいおうわれて大忙おおいそがしだそうです。

 やっぱりダメでした。


 学校がっこうわってマルツちゃんと一緒いっしょかえろうとすると、校門こうもん手前てまえでアカンさんたちっていました。

 おそる恐るまえとお私達わたしたちをじーぃっと見つめる三人組さんにんぐみ

 私たちはわせないように、うつむいて、そろそろあるきます。


 もう厄介事やっかいごとはこりごりです。

 かたのウズベリはにらかえしてるみたいですけど。


 なんとかとおぎてホッとしてる私にかってアカンさんが気持きもわるいくらいしずかなこえいました。


明日あしたってますわよ」

 

「――は、はいぃぃっ!」


 びっくりして大声おおごえ返事へんじしちゃいました。

 しずかだとぎゃく心臓しんぞうわるいのです。

 振返ふりかえると三人組さんにんぐみは、もうけてあるいていました。


先輩せんぱいたぶん、エヴレンちゃんがげないように城門全部じょうもんぜんぶ見張みはりをつけてるわよ」


 わるかおのマルツちゃん。


「そんな、おおげさだよ」


「あのひとならやりかねないって」

 

 あうっ。

 言われてみればたしかに……。

 最高権力者さいこうけんりょくしゃむすめだもんね。

 つまりまちからられないってことかな。

 

 わかぎわ介添人かいぞえにんのことホントごめんねってあやまるマルツちゃん。

 大丈夫だいじょうぶだよって笑顔えがおかえします。

 でも内心ないしん不安ふあんでいっぱいでした。

 金貨きんか10まい借金しゃっきんあたまなかでグルグルまわります。


 みせもどって裏口うらぐちから階段かいだんがり、自分じぶん部屋へやへいくと、となりがなんだかにぎやかです。

 そこはあたらしくできたヤムルハヴァ様の部屋へやでした。

 なかのぞくとツクモさんが、あたふたしてます。


「うぐぉぉぉっ! やべぇよぉぉぉ!! どぉすっかなぁぁぁ!!!」


「どうしたんですか?」


「ああ、エヴレン、おかえり……。じつはさぁ、ヤムルさんがきちゃったのよ……」 

 

「ヤムルハヴァ様が!? かった!」


 でもウズベリは、なんだかいやそうにニャウってきます。

 いっぺんヤムルハヴァ様と大喧嘩おおげんかになるところでしたからね。

 

「いやいや、これが全然良ぜんぜんよくないんだよねぇ。霊龍れいりゅう様、マジ激怒げきどしとるのよ」


 ツクモさんもウズベリとおんなじ感想かんそうみたいです。


激怒げきど? なにかしたんですか?」


じつはさぁ、盟友登録めいゆうとうろく効果こうかのこと説明せつめいしないで承諾しょうだくさせちゃったんだよねぇ」


「アワワ……、なるほどぉ……」


 つまり無断むだんでヤムルハヴァ様のちからうばったことになるわけです。

 それはヤバいかも……。


いま、ヒュリアたちれて、こっちにかってるから夜中よなかにはみせくとおもうんだけど。それまでになんとか御機嫌ごきげんなお方法ほうほうかんがえないとぉ……。うらめし水没すいぼつしてしまう……」


 それは私もこまります。

 

「ヤムルさんがきそうな品物しなものでもはいればいいんだけどなぁ……。でも簡単かんたんつかるわけないしぃ……」


 ヤムルハヴァ様は、おきなもの蒐集しゅうしゅうされてましたね。

 おまいにある宝庫ほうこのぞこうとしておしりとばされたことあります。


 だけど、おまい、とても可愛かわいかったなぁ。

 綺麗きれいなおはなや、キラキラの宝石箱ほうせきばこ、モフモフのいぐるみなんかが、いっぱいあって。

 とっても親近感しんきんかんいちゃったのです。

 

 あうっ。

 そうだ。


「――品物しなものいなら、つくればいいじゃないですか」


つくる?」


耶代やしろちから使つかえば、なんでもつくれるんでしょ? おまいにあった品物しなもの参考さんこうにしたら、上手うまくいくのでは?」


「おおっ、なるほど! なんでもってわけじゃないけど、『工作こうさく』の機能きのう使つかえばヤムルさんがきそうなものをつくれるかも! ――ありがとう、エヴレン!」


 うでまくりするツクモさん。

 元気げんきたみたいです。


 かった。

 ヤムルハヴァ様があばれたら、うらめしどころかザガンニンのまち壊滅かいめつしちゃいますからね。

 もちろん、そんなことはなさらないでしょうけど。


 自分じぶん部屋へやもどろうとしたとき、ツクモさんがまったべつはなし切出きりだしました。


「――そういえば、ちょっと思ったんだけどさぁ。ウズベリを人前ひとまえして大丈夫だいじょうぶなのかな?」


「えっ、それってどういうことですか?」


「いやさ、いま冒険者組合ぼうけんしゃくみあい二階にかいきみ提出ていしゅつした牙獅子コカスラン毛皮けがわ展示てんじされてるよね?」


「はい、だれでも無料むりょうられるみたいです」


 展示てんじあとくに譲渡じょうとされるそうです。


「もし決闘けっとうとか試合しあいでウズベリがもと姿すがたもどったとき、あの毛皮けがわにそっくりだったら、見てるひとはどうおもうんだろうなってさ」


「どう思うって……?」


「見た人が、じつきみ魔獣まじゅうあやって事件じけんこし、それを自分じぶん解決かいけつして報酬ほうしゅう名声めいせいをせしめた、とかおもわないかなってね」


 あうっ!

 たしかに……。


 ウズベリと牙獅子コカスランは、おな姿すがたをしてます。

 うたがわれてもおかしくないです。

 下手へたをすれば組合くみあい調査ちょうさはじめるかもしれません。

 うらめしは、危険人物きけんじんぶつだらけだから、調しらべられたらマズいのです。


 それに、サメトくんのこともあります。

 彼は、ブラクさんがわなにはめられたってかんがえてます。

 もしウズベリが牙獅子コカスランとそっくりて知ったら、やっぱり私が犯人はんにんって思うかもしれません。

 犯人はんにん仕返しかえしする、まんまんだったし。

 ちょっとこわいかも……。


「――やっぱ、てめぇもそう思ったか、ツクモ」

 

 こえほう振返ふりかえると部屋へや入口いりぐちにアティシュリ様がりかかっていました。

 となりに、ルゥタル先生せんえいとツファンがいます。


「だって毛皮けがわとそっくりじゃないですか」


「ああ、だからそれを回避かいひするためにウズベリをしん姿すがたにする必要ひつようがあんのよ」


 面白おもしろそうにおっしゃるアティシュリ様。


しん姿すがた?! いまはホントの姿すがたじゃないってことですか?!」


 ツクモさんも私も、びっくりです。


「ああ。妖獣ビルギってやつはよ、精霊せいれいをとりこんだ時点じてんなにかしら変化へんかすんだ。身体からだおおきさがわったり、こいつみたいにつばさ四枚よんまいになったりよ」


 アティシュリ様は親指おやゆびでツファンをします。


「ひょっ、ひょっ、ひょっ、おっひゃるとおりでひゅ」


 身体からだをガクガクさせてわらうルゥタル先生せんせい


「でもウズベリもちいさくなれるじゃないですか」


「ありゃあ、侃妖獣アシルビルギ特有とくゆう能力のうりょくだ。妖獣ビルギになるときこる“形態変化けいたいへんか”とは別物べつものよ」


「だったらウズベリは、なんで変化へんかしてないんです?」


「そのことよ。――ウズベリの形態変化けいたいへんかを、ビルルルが意図的いとてきめちまったせいだ」


隠者様いんじゃさまが?!」


 私にうなずいてみせるアティシュリ様。


「まぁたビルルルさんですかぁ。ホント、どこにでもからんできますねぇ」


 かたをすくめるツクモさん。

 アティシュリ様ははなわらうと、どういうことか説明せつめいしてくれました。

 

通常つうじょう動物どうぶつ植物しょくぶつなんかが、妖獣ビルギ妖樹シネックシュになるとき、ヤツらの核種グチには精霊せいれい宿やどるってことははなしたな……」


 核種グチっていうのは、すべての生物せいぶつってるたましい在処ありかのことです。

 それが成長せいちょうすると霊核ドゥルになるわけです。

 普通ふつう霊核ドゥルにはれい宿やどりますが、核種グチには宿やどりません。


 ところがときおり核種グチなかに、成長せいちょうすることなくれい宿やどすものがあらわれるみたいです。

 それを変異核種アストグチといいます。

 つまり妖獣ビルギすべて、変異核種アストグチってるってことになります。


 ではなぜ核種グチ変異核種アストグチになって精霊せいれい宿やどると、身体からだ変化へんかするのか。

 それは、精霊せいれい宿やどった変異核種アストグチから恃気エスラル体内たいない供給きょうきゅうされるようになるからです。

 通常つうじょう動物どうぶつ植物しょくぶつ体内たいないに、ほとんど恃気エスラルがありません。

 それはかれらにとって恃気エスラルどくだからなんです。


 恃気エスラル霊核ドゥルものにとっては、魔導まどう使つかったり精神せいしんたもったりするのに必要ひつようですが、そうでないものにとっては致命的ちめいてきなものなのです。

 

 だから恃気エスラルへの耐性たいせい獲得かくとくするため、身体からだ変化へんかさせるのです。

 それによりおおきさやかたちいろ器官きかんなんかが変化へんかして、もと姿すがたとはべつものになります。

 これが形態変化けいたいへんかです。


 ただし形態変化けいたいへんか成功せいこうするのは極少数ごくしょうすうで、おおくは途中とちゅうんでしまいます。

 身体からだ変化へんかについていけないからです。

 つまり妖獣ビルギになれるものは極稀ごくまれであり、なかでも複数ふくすう精霊せいれい宿やど侃妖獣アシルビルギ奇跡的きせきてき存在そんざいといっていいのです。


「――侃妖獣アシルビルギ形態変化けいたいへんか精霊せいれいかずだけ段階的だんかいてきこるもんだ。だからウズベリには二度にどあるはずだった。だが変態女へんたいおんなはなしだと、ウズベリにゃあ、二度にど形態変化けいたいへんかがいっぺんにこっちまって、それについていけずにかけたらしい。だもんでビルルルはある処置しょちをほどこして形態変化けいたいへんかめてウズベリをたすけたんだと」


 そうだよっていたげに、かたのウズベリが、ニャフってきました。

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