第74話 僕たちは弁償ができない?<10>

 さて、こっからは時間じかんとのたたかいになります。

 なぞくのがはやいか、ドラゴンたちえるのが早いかです。

 制限時間せいげんじかん約二日やくふつか

 ただ、もうすこし早まるかもしれねぇな、ってドラゴンねえさんはおっしゃってます。


 ドラゴン達の身体からだけていく現象げんしょうは、少しずつひろがっていってるようです。

 このままそれが進行しんこうして全身ぜんしんけてしまったら、ゲームオーバーです。


「とにかく、謎解なぞときのかぎ再検討さいけんとうすんぞ」


 アティシュリの号令ごうれいで、全員ぜんいん小部屋こべやもどります。


 あらためて絵画かいが女神像めがみぞう、そしてクシュトばんこま念入ねんいりに調査ちょうさです。

 絵画かいがかべからはずしてうらを見たり、女神像めがみぞうのつまさきからあたまのてっぺんまでまわすぐらいに観察かんさつします。


 それからクシュトのこまならべて、いろんな図形ずけいつくってみたりもしました。

 絶対ぜったい、このクシュトには重要じゅうようなヒントがかくされてると思うんですよねぇ。

 部屋へやの中で一番いちばん違和感いわかんがありますし、絵画かいがの中ではバツじるしえがかれていますから。

 財宝ざいほう地図ちずでも、たからかくされてる場所ばしょって、バツじるししめされてることがおおいでしょ。


 そんなこんなで再検討さいけんとう何時間なんじかんつづきました。

 でも、結局けっきょくあらたな発見はっけんはありません。

 そこはかとない絶望感ぜつぼうかんが、ただよはじめます。


「おまえら、こんだけやって何も思いつかねぇのか!」


 あからさまにイライラしはじめるドラゴンねえさん。

 だいぶあせってるみたいです。

 

「もし俺達おれたち消滅しょうめつしたら、これから数百年間すうひゃくねんかん、バシャルはほのおみずによる天変地異てんぺんちい見舞みまわれることになんだぞ!」


 かべなぐりつけるアティシュリ。


災厄さいやくときあと同胞どうほうである五龍ごりゅう消滅しょうめつしたせいで、バシャルがどれだけひど状況じょうきょうになったと思ってやがる!」


 アティシュリはヤムルハヴァにすような視線しせんけます。


「そもそも、お前がこんなとこにれてたせいだぞ!」


「ふんっ、今更いまさらなことを……。姉様あねさまらしくもない。なにをうろたえておられるのです」


 ふてくされたふうはならすヤムルハヴァ。


われらがえたところで、つぎ精霊王せいれいおうりゅうるだけのことでしょう」


「てめぇ……、無責任むせきにんなことをほざくんじゃねぇ!」


われりゅう七百年余ななひゃくねんあまり。仕事しごとと言えば、人間にんげんどものれのてである耗霊もうりょう浄化じょうかするだけ……。なんというむなしき日々ひびか……。栄誉えいよあるりゅうながら、趣味しゅみはしるしか存在意義そんざいいぎ見出みいだせぬ、このなさけなさよ……」


 ヤムルハヴァは自嘲気味じちょうぎみつのります。


災厄さいやくときはなしを聞かされるたび、バシャルの命運めいうんをかけて戦った姉様達を、どれほどうらやましく思ったことか……。我もこの身のすべてをかけて戦いたかった……。――どうせ戦えぬなら、ここで消滅するのも一興いっきょうというもの」


「あのいくさ悲惨ひさんさも知らねぇくせにうらやましいだと! おろもんが! 霊龍れいりゅう本分ほんぶんはバシャルを守護しゅごすることだ! てきと戦うことじゃねぇんだよ!」


 アティシュリはヤムルハヴァの前にくとひたいがくっつくほど顔をせ、ガンをばします。

 ヤムルハヴァもけじとにらかえします。


 戦うことはきんじられてますから、喧嘩けんかいと思いますけど……。

 一触即発いっしょくそくはつ雰囲気ふんいきです。

 それにドラゴンの殺気さっきすごい。

 なんせ二倍にばいですからね。


 殺気さっきにあてられたヒュリアとジョルジは、ひざかないようにいしばってえてます。

 でもエヴレンは、おしっこチビりそうな顔をして、そのすわりこんでしまいました。

 ウズベリはエヴレンをまもるようにドラゴン達へ向かってきばをむき、ひくうなり声をあげてます


「ツクモさん、ツクモさん」


 そのとき、『談結だんけつ』の通信つうしんはいりました。

 相手あいてはユニスです。


「何、どしたの?」


謎解なぞときで、ちょっと思いついたことがあって」


「そりゃいい。いまこっちは、謎解なぞときのぬまにはまっちゃって、霊龍れいりゅう様が、おいかりで……」 


「うわっ、ヤバそう」


「そうなのよ。だから新しい視点してんがあると非常ひじょうたすかりますです」

 

やくに立つかどうかはわかんないけど……」


 ガンをばしうドラゴン達のくちから、シャーって言う威嚇音いかくおんが聞こえだしました。

 発散はっさんされれる殺気さっきが、さらにつよくなってきてます。


 もう、やめてくれぇぇぇ!

 はやめないと、殺気さっきにあてられたヒュリア達のほうさきまいっちゃいます。


「と、とにかく、すぐにおしえてちょうだい!」


「あっ、うん。クシュトなんだけどさ、バツじるじみたいにこまならべてあるから、盤上ばんじょう図形ずけいとかをかたどればいいんじゃないかって言ってたよね」


 バツ印以外じるしいがいにもいろんな図形ずけいつくってみましたよ。


「でもこま図形ずけいを作るより、こまかずとか升目ますめの数とかの方が重要じゅうようじゃないのかな。だって、わざわざ略式版りゃくしきばんにしてるでしょ。そう考えると25とか15の数に何か意味がある気がしてさ。――たとえば升目ますめ一月ひとつき日数にっすうの24日よりも一日多いよね。それに駒数こますうは14個のはずなのに15個あって、こっちも一つ多い。この一つ多いってことに秘密ひみつがあるって思うんだけどなぁ」


「なるほどね、図形ずけいを作るよりも、駒数こますう升目ますめかず重要じゅうようか……」


たんなる思いつきだけど」


 そのとき、頭にひらめきがってきました。


「そういうことかっ! ――ユニス。君のおかげでなぞけたかもしれない」


「えっ、ほんとに! やっぱり図形よりこま升目ますめかず大事だいじだった?!」


「いや、どっちも大事だいじだったんだよ」


「どっちも……、それってどういうこと?!」


「ありがとう、ユニス。時間じかんいから一旦いったん談結だんけつ』をわるね。結果けっかあとおしえるから」


 ユニスはこたえをおしえない僕に不満ふまんそうでしたけど、とりあえず霊龍れいりゅう様をなんとかするのがさきです。

 談結だんけつえてすぐ、にらってるドラゴン達に向かって宣言せんげんしました。


「お二方ふたかたなぞけた気がします」


 ドラゴン達は、スローモーション動画どうがみたいに、ゆっくりと僕のほうおに形相ぎょうそうをむけてきます。

 殺気さっきすべてがヒュリアと僕にぶつけられることになり、あつにやられた彼女は、とうとうひざいてしまいました。


「あのぉ、とりあえず、いかりをおさえてもらえませんかね。ヒュリアの方が先に消滅しょうめつしちゃいそうなんですけど」


 抗議こうぎを受けて、我にかえったドラゴン達は、ふんっと言ってたがいにいます。

 さっきまで部屋にちていた殺気さっきは、次第しだいしずまっていきました。


 霊龍れいりゅう様が落着おちつきを取戻とりもどしたところで、羅針眼らしんがん立上たちあげ、『備考びこうらんひらきます。

 そしてそこから、あるヒントをピックアップしました。

 それが、こちら。


『ビンゴゲームには漢字かんじさんいてみる』 


 このヒントの一番いちばんのポイントはビンゴゲームでした。

 ビンゴゲームの升目ますめは25個、そしてクシュトの升目ますめも25個。

 つまりビンゴゲームっていう言葉は、クシュトのことをあらわしているわけです。

 ユニスに升目ますめかず重要性じゅうようせい指摘してきされ、気づくことができました。


 そして漢字かんじの“三”を書いてみるっていうのが、あのバツじるし対応たいおうしてるわけです。

 図形ずけいじゃなくて、漢字かんじってとこがミソですな。

 意表いひょうかれちゃいました。

 もちろん漢字かんじ図形ずけいって言えないこともないけど、ヒントがかったら思いつかなかったでしょう。


「ヒュリア、クシュトのこま一段飛いちだんとばしでじょうちゅう三段さんだんけ、横一列よこいちれつならべてみてくれるかな?」


 殺気さっきから立直たちなおったヒュリアにお手伝てつだいをおねがいします。


「わかった」


 ヒュリアは僕に言われたとおり、クシュトのこまを“三”のかたちならべていきました。

 漢字かんじの“三”は上中下じょうちゅうげながさが微妙びみょうちがいますけど、クシュトのこまは15なので盤上ばんじょうにできた“三”のせん全部同ぜんぶおなながさになってます。

 きっとクシュトのこまが15だったのは、三等分したときそれぞれをおなじ長さにするためだったんでしょう。

  

 ならわってすぐ、クシュトばんから、パキッ、っていうおとがしました。

 調しらべてみると、ばん真二まっぷたつにれていて、中にトランプぐらいの大きさのカードが一枚入いちまいはいっていました。

 これぞ、ビンゴ!

 全員ぜんいん視線しせんがカードに釘付くぎづけです。

  

「――このこま配置はいちばんれるように呪印じゅいんが、かけられてたんだろうぜ」


 アティシュリは、クシュトばんの中からカードをつまみ出します。

 取出とりだされたカードはうす金属きんぞくつくられていて、折曲おりまげることができない、しなやかさをっていました。


星観ほしみふだとも、コズともちがうな」

 

 カードの表面ひょうめんにはうつしく威厳いげんのある風貌ふうぼうをした青年せいねん立姿たちすがたえがかれていました。

 青年せいねん右手みぎてに持ったシックルをむねて、こしには鍵束かぎたばげています。

 ちなみに“コズ”っていうのはバシャルのトランプカードのことで、シックルはゲームとかにも出てくる小型こがたかまのことです。


だれだ、こりゃ?」


「これはイスタヌ神様しんさまですね」


 よこからカードをのぞきこんだエヴレンが説明せつめいしてくれました。


 七主神エディゲンジ一柱いっちゅうである男神だんしんイスタヌは、運命うんめい審判しんぱん誓約せいやく言葉ことばなんかをつかさど神様かみさまだそうです。

 バシャルで契約けいやくするときは、たがいに約束やくそくやぶらないよう必ずイスタヌにちかいます。

 やぶった者はイスタヌのシックルでくびを切られて地獄じごくちるというわけです。


 また、人の運命うんめい切開きりひらいてくれもします。

 善良ぜんりょう精神せいしんを持っていても不運ふうんな人がいますが、そういう人にわって運命うんめいとびらを開き、幸運こううんへとみちびくのだとか。

 もちろんぎゃくもあるみたいですけど。

 こしにある鍵束かぎたばには、無数むすうにある運命うんめいとびらのどれかと必ず一致いっちするかぎいているそうです。


「このイスタヌ様のも、ズィルキ様のぞうと同じで、ちょっとわってますね」


 エヴレンはカードを見つめながらくちとがらせます。


「どこがへんなんだ」


「イスタヌ様は右手みぎて小鎌こがまを持ってらっしゃいますが、こんなふうむねてたりはしてないはずです」


 なるほど……、ということは……。


「シュリさん、そのふだをあの“み”にててください」


「ふんっ、そういうことか……」


 ニヤリとしたアティシュリはれいの“み”の前に行くと、カードをけました。

 するとガラスに、ひびがはいるようなおと部屋中へやじゅうひびはじめます。

 そしてアティシュリが一歩下いっぽさがったとたん、“み”はガラガラとくずれていきました。

 もちろんすべてがくずちたあとには、“み”と同じかたち通路つうろがポッカリと口を開いているというわけです。


「やりおったわ……」


 感慨深かんがいぶかげに通路つうろを見つめ、ヤムルハヴァがつぶやきました。


「気をくなよ。あの耶宰やさいが何をしてくるかわからねぇからな」


 アティシュリとヤムルハヴァを先頭せんとうに、僕らは通路つうろに入りました。

 通路つうろの長さは5メートルぐらいしかありませんが、わな十分注意じゅうぶんちゅういしてとおけます。

 そして通路つうろけた僕らの目の前に、とうとう最終地点さいしゅうちてんあらわれたのでした。

 いやあ、長かった……。


 最終地点さいしゅうちてん広間ひろまは、謎解なぞときの部屋へやばいくらいのひろさがありました。

 その中央ちゅうおうには、白いフードマントをけた耶宰やさい出迎でむかえるかのように立っています。


「ついになぞいたか……」


 耶宰やさいの声には称賛しょうさんするような、だけどかなしげなひびきがありました。


「お前らはがってろ」


 アティシュリは、僕らをしとどめ、一歩前いっぽまえに出ます。

 ヤムルハヴァもそのよこならびました。

 もちろん二人とも戦闘態勢せんとうたいせいです。


警戒けいかい不要ふようだ。なぞき、この広間ひろまに来た以上いじょう、もう、お前達とあらそうことはない」


「ブズルタの耶宰やさい、お前は何者なにものだ? アイダンの知合しりあいか?」


 アティシュリがいかけました。

 耶宰やさいは白いフードをうしろへはらうようにはずします。

 あらわれたのは端正たんせいなロシュのかおでした。


 褐色かっしょくはだわしのようにするど暗青色あんせいしょくひとみ短髪たんぱつ青銀色あおぎんいろかみからはさきとがったみみのぞいています。

 年齢ねんれいは30だいぐらいに見えますけど、ロシュですから実年齢じつねんれいはずっと上でしょう。


生前せいぜんの私のは、ミトハト・エルバカン。700年余ねんあまり前、アイダンに召喚しょうかんされて霊器れいきはいり、アイダンを耶卿やきょうとしてブズルタの耶宰やさいとなった。――アイダンとの関係かんけいで言うなら、私はあのむすめ大叔父おおおじにあたる者だ」


 大叔父おおおじって言うと、祖父祖母そふそぼ兄弟きょうだいですね。

 かなりすごい人なのかも。


「どうして耗霊もうりょうになった?」


 アティシュリに尋ねられると、ミトハトはつらそうに顔をしかめました。


「1000年余ねんあまり前、このブズルタで反乱はんらんが起きた。私はブズルタの導者ウナヤク一人ひとりで、反乱はんらん鎮圧ちんあつにあたっていた。しかし、その最中さなかてきころされたのだ」


 ミトハトはている白いマントの前をひらきます。

 彼の左肩ひだりかたからむねにかけてけんきずがあり、霊体れいたいのはずなのに今も赤いみ出しているように見えました。


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