第70話 僕たちは弁償ができない?<6>

「今のうちじゃ、下のかいかうぞ」


 ヤムルハヴァの合図あいずはし僕達ぼくたち

 途中とちゅう、ふいに通路つうろ左右さゆうかべからんできました。

 右からの矢はヒュリアがクズムスでたたとし、左からの矢はエヴレンに当たる寸前すんぜん小猫こねこのウズベリがくちくわりました。

 ウズベリ、グッジョブ。


 ウズベリがくわえている矢を見たエヴレンは、ひぇぇって感じで顔をひきつらせてます。

 わながあるって知ってたとしても、こんなんやられたら、すぐにますよね。

 ガラクタを飛越とびこえながら通路つうろ一番奥いちばんおくへと辿たどりつくと、そこには下への階段かいだんがありました。


「ところで、ブズルタって何階なんかいまであるんですか?」


 素朴そぼく疑問ぎもんです。


最下層さいかそう地下ちか12階じゃ」


 うへっ!

 じゃあ、あと12回、こんな目にうかもしれないのねぇ。

 たしかに“人型ひとがた”はつよくないけど、再生さいせいして、しつこく来られたら、しんどいわぁ。


 頑強がんきょうな手すりがついた階段を下りると、そこには上の階とまったおな景色けしきひろがっていました。

 薄青うすあおひかりらされ、幅広はばひろ通路つうろ左右さゆうならんだドアが見えます。

 あんまり同じぎて目まいがしそうです。

 上の階とちがうって言えば、進む方向ほうこうぎゃくってことですかね。


 霊龍れいりゅう様達を先頭せんとう注意ちゅういしながら通路つうろすすむと、こめかみあたりを矢で射抜いぬかれた頭蓋骨ずがいこつころがっているのを発見はっけん

 さらにその先にも何体分なんたいぶんかの白骨はっこつらばっています。


 ヒュリアはエヴレンに、すがりつかれながら白骨はっこつよことおり過ぎようとします。

 しかし足元あしもと白骨はっこつ注意ちゅういうばわれていた二人の頭上ずじょうから唐突とうとつやりってきました。

 やり気配けはい察知さっちしたヒュリアは、居合いあいの達人たつじんみたいにクズムスをはらい、すんでのところですべてのやり斬捨きりすてます。

 られたやりするど穂先ほさきが、おとを立ててゆかころがりました。


「あわわ……、すみません」


 今にも泣出なきだしそうなエヴレン。

 かたったウズベリは、なぐさめるように彼女のかおめます。


「気にするな」


 何事なにごともなかったかのようにクズムスをさやにしまうヒュリア。 

 さすがは二席にせき勇者ゆうしゃ

 たよりになります。


 ようやく通路つうろ半分はんぶんまで来たとき、さっきと同様どうように、一番奥いちばんおくにある左右さゆうのドアがき、あのガチャガチャという音が聞こえてきました。

 これは、二回戦目にかいせんめはじまりってことですね。


 かずは、やっぱり30ぐらい。

 うごきも、さっきと同じで気持きもわるいぐらいにはやいけど、言うまでもなくつよくはありません。

 たいした時間もかからず、霊龍れいりゅう様にすべ粉砕ふんさいされてガラクタにもどりました。

 すぐさまガラクタをけるようにはしけ、下に向かいます。


 そのあとの階でも同じことの繰返くりかえしです。

 通路つうろを走る、あらわれた“人型ひとがた”を撃退げきたいする、わなをかわす、階段かいだんりる、また通路を走る……。

 まさに無限むげんループですな。

 あまりに退屈たいくつなので、ちょっと気になったことをドラゴン姉さんに聞いてみます。


「あのぉ、シュリさん、ブルンメこうって恃気エスラル無効化むこうかするんですよね」


「ああ、そうだ」


「じゃあ、なんであの“人型ひとがた”って動いてるんですか? あれも魔導まどうでしょ?」


「ふん、てめぇも気づいたか……。しゃくさわるが、正直しょうじきな話、俺にも、なんで動いてるのかわからねぇ。あの耶宰やさいあやつってるんだどは思うがよ……」 


「ツクモよ、同じ耶宰やさいであるおのれの方が、何か気づいておるのではないかえ? この儀方ぎほう正体しょうたいがわかれば、“人型ひとがた”になやまされることもくなろうに……」


 ヤムルハヴァが、ジトを僕に向けてきます。


「いやぁ、わからないっすねぇ」


 気づいてれば、とっくに話してますよ。


「ほんに役立やくたたずよのう」


 あきれたふうくびあまロリドラゴン。

 やっぱ僕にたりがつよい気がする。

 ふんっ、けないんだからねっ。

  

「――“人型ひとがた”を動かす魔導まどうには『傀儡くぐつ儀方ぎほう』があるけどよ、あれとは全然ぜんぜんちがってんだよなぁ……」


 アティシュリが、忌々いまいましげに頭をかきむしります。


「『傀儡くぐつ儀方ぎほう』なんてのが、あるんですか?」


「あるぜ。――『傀儡くぐつ儀方ぎほう』は、精霊せいれい召喚しょうかんして“傀儡くぐつ”に入れ、使役しえきするもんだ」


 銀髪ぎんぱつ銀眼ぎんがんわらわない美少女びしょうじょあやつ左腕ひだりうでくろ傀儡人形くぐつにんぎょうのことを思い出しました。

 

傀儡くぐつってのは、結局けっきょく人形にんぎょうってことでいいんですか?」


「ああ、ただし、ここにいるようなガラクタの寄集よせあつめとはまるっきりべつもんだかんな。希少きしょうな鉱物こうぶつを使い、丁寧ていねいに人や動物どうぶつ姿すがたせて作られるのが普通ふつうだ」


「じゃあ、もしかして、ここの“人型ひとがた”にも精霊せいれいが入ってるんでしょうかね?」


「いいや、こいつらの中には精霊せいれいはいねぇ。それに、そもそも魔導まどう無効化むこうかされるブズルタじゃ、『傀儡くぐつ儀方ぎほう自体じたい使えるわけがねぇんだしよ」


「じゃあ、あれ……、何なんすか……?」


 得体えたいが知れないって、ちょっとこわいです。


「だから、わからねぇって言ってんだろうがっ! ――まあ、ここを耶代やしろにしたアイダンが、おも戦闘せんとうで使ってたのは『傀儡くぐつ儀方ぎほう』だったから、そこに何かあんのかもなぁ……」


賢者けんじゃアイダンは『両聖獣りょうせいじゅう』を締盟ていめいし、使役しえきしてたたかったと聞いていますが……」


 ヒュリアが疑問ぎもんくちにします。


「ああ、災厄さいやくときにアイダンが使ってたのは、『両聖獣りょうせいじゅう』をあやつ締盟術ていめいじゅつ間違まちがいはねぇ。だが『両聖獣りょうせいじゅう』に出会であう前のあいつは、れっきとした『傀儡師くぐつし』だったんぜ」


「それは初耳はつみみです」


 アイダンは黒の災媼さいおうと闘うために二体の妖蟲ようこ締盟ていめいしていたそうです。

 妖蟲ようこって言うのは、もちろんむしのことです。

 二体の妖蟲ようこは、ものすごつよかったので、後世こうせい人々ひとびと特別とくべつに彼らを『聖獣せいじゅう』と呼び、今もあがめているわけです。

 そういえば奉迎祭ほうげいさい山車だしにもアイダンと一緒いっしょ聖獣せいじゅう人形にんぎょうが乗ってましたね。


「そうか。まあ聖獣せいじゅう有名ゆうめいすぎて、傀儡くぐつほうは、ほとんどわすれられちまってんのはしょうがねぇだろうよ。でもな、魔導まどう王国おうこくオクルにあるアイダンの霊廟れいびょうには、あいつが使ってた傀儡くぐつが今もちゃんと安置あんちされてるんだぜ」


「そうなんですか……」


「あの傀儡くぐつは、あいつの自信作じしんさくだ。傀儡くぐつ使役しえきするだけでなく、成造せいぞうさせても、あいつは超一流ちょういちりゅうでよ。――そういえば、あの傀儡くぐつにはやみ優精霊ゆうせいれいはいってたっけな……」


「じゃあ、アイダンさんが『傀儡師くぐつし』だったから、ここの耶宰やさいは“人型ひとがた”を動かせるってことですか?」


 僕の進化方法しんかほうほうと、ここの耶宰やさい進化方法しんかほうほうは、かなりちがってるんでしょうかね。

 タヴシャンさんの話だと、盟友登録めいゆうとうろく機能きのうも持ってないみたいだし。 


可能性かのうせいはあると思うがよぉ……。なんせ、耶代やしろ儀方ぎほう自体じたいが、いまいち把握はあくできてねぇしなぁ……」


 首をひねるドラゴン姉さん。

 しばらくすると頭かきむしり、声をあらげました。


「ああクソっ! ホント、耶代やしろってやつはムカつくぜっ! こっちの予期よきしねぇことばかりやりやがって!」


 かなりイライラしてますな。

 きっと後で、くどくど嫌味いやみを言ってくるにちがいありません。

 僕のことウザッたいって言ってますけど、姉さんも厄介やっかい性格せいかくしてると思いますけどねぇ。

 とにかく安全あんぜんな場所にいたらキャラメルでも献上けんじょうして機嫌きげんっとかないと。


 そんなこんなで、ウジャウジャいてくる気味悪きみわるい“人型ひとがた”をたおつづけているうちに、なんとか中間地点ちゅうかんちてんである地下6階までたどり着くことができました。

 もちろんそこでも今までと同じような出迎でむかえをけるわけですが……。


 ところで霊龍れいりゅう達が“人型ひとがた”を片付かたづけているのを見守みまもりながら、あることに気がつきました。

 たしあまロリドラゴンの言分いいぶんだと、“人型ひとがた”は全部ぜんぶ数十体すうじゅったいのはずだったのでは?

 今のところ、1階につきやく30体の“人型ひとがた”が出てますから、単純計算たんじゅんけいさいんでも180体いるってことになってますけど……。

 

「あのぉ、ヤムルハヴァさん」


「なんじゃ」


 むちで“人型ひとがた”を破砕はさいしながら、面倒臭めんどくさそうに返事へんじをするヤムルハヴァ。 


「“人型ひとがた”は数十体すうじゅったいいるって言ってましたよね。でも合計ごうけいするともう200体ぐらい出て来てますけど。どゆことですか?」


「知らぬわっ!」


 目を吊上つりあげて怒鳴どなるヤムルハヴァ。

 ぎゃくギレですか。


「いやいや、知らぬわって、無責任むせきにんじゃないすか。ヒュリア達だって身体張からだはってんですよ」


「それゆえ、なるべくなんじらに危害きがいおよばぬように苦心くしんしているであろうが」


 なるほど、今のところヒュリア達は一度いちども“人型ひとがた”と闘ってません。

 全部ぜんぶ霊龍れいりゅう様達で片付かたづけてくれてます。

 一応いちおう、気をつかってくれてたんですね。


 でも、これ以上いじょうかずえたら……。

 なんかいや予感よかんがします。

 そして相変あいかわらず、予感よかんはすぐに的中てきちゅうするわけです。


 あのガチャガチャという金属音きんぞくおんが僕らのうしろからも聞こえてきました。

 振返ふりかえると“人型ひとがた”が階段かいだんを下りて来るのが見えます。


 これって上のやつらが再生さいせいしたってことでしょうね。

 もちろんかずは100体以上。

 今までたおしてきた分が合算がっさんされてます。

 まずいなぁ。

 これじゃ前後ぜんごから挟撃はさみうちにされてしまいます。


「シュリさん! うしろからもたくさん来ましたよ!」


「ああ、わかってる。――ジョルジ、俺のわりにヤムルの支援しえんはいれ。エヴレン、ウズベリに俺と共闘きょうとうするように言え。ヒュリアはエヴレンをまもれ。いいなっ!」


 アティシュリの的確てきかく素早すばや指示しじしたがい、あらたなフォーメーションがまれました。

 ジョルジは、さっきまでアティシュリがやっていたポジションについて、ヤムルハヴァがちもらした“人型ひとがた”を排除はいじょしていきます。

 ウズベリは小猫こねこから勇壮ゆうそうなライオンにもどり、アティシュリと一緒いっしょうしろから来る“人型ひとがた”の中へ突撃し、あばまわります。


 そしてヒュリアは前後ぜんご防衛ぼうえいラインを突破とっぱしてきたやつたおしていくわけです。

 早速さっそく霊龍れいりゅう達の攻撃をかいくぐった数体すうたいの“人型ひとがた”がおそってきました。

 ヒュリアはうでくびとしますが、“人型ひとがた”の攻撃こうげきまりません。


「ヒュリア、あし、脚!」


 僕に注意ちゅういされ、ヒュリアはすぐに思いたったようです。


「そうだった」


 言葉ことば同時どうじにクズムスが“人型ひとがた”のあし付根つけねきました。

 胴体どうたいから片足かたあし切離きれはなされた“人型ひとがた”はゆかたおれ、身体からだこそうともがいています。

 殺虫さっちゅうスプレーかけられたゴキブリみたいです。


 ヒュリアは“人型ひとがた”のあしつぎから次へとりおとし、自由じゆううばっていきます。

 霊龍れいりゅう様のように一撃いちげきこわせれば問題もんだいないですが、そうでないときは言われた通り、あしりおとすのが有効ゆうこうなようです。 


 ところで理由りゆうはわかりませんが、“人型ひとがた”の攻撃こうげきはエヴレンに集中しゅうちゅうしてるように思えますね。

 もしかするとエヴレンが一番弱いちばんよわいことを知ってるんでしょうか。


 むかつエヴレンなんですけど、彼女の剣技けんぎ素人目しろうとめで見ても、かなりお粗末そまつでした。

 なんとか“人型ひとがた”のすきをついてりかかっても、身体の表面ひようめんきずをつけるだけで、それ以上いじょうとおすことができないのです。

 結局けっきょく反撃はんげきをくらい、ヒュリアに助けられることになります。


 こんなんでよく、ウズベリ討伐とうばつに行こうって考えましたよねぇ。

 マグロ漁船ぎょせんる人もこんな感じなんでしょうか。

 借金しゃっきんってこわいわぁ。


「こちらは片付かたづいたぞ」


 まえの敵を掃討そうとうしたヤムルハヴァとジョルジがうしろまわってきました。

 全員ぜんいんうしろの敵に応戦おうせんしながら少しずつ後退こうたいして、下への階段にちかづきます。

 そして、ほとんどの敵をたおし終わった時点じてんもうダッシュです。


 階段かいだんけ下り、地下7階へと突入とつにゅう

 そのままのいきおいで通路つうろを走りけます。

 きっとまた“人形ひとがた”やら、わなやらが出迎でむかえるんだろうと思いきや、今回こんかいは何の音沙汰おとさたもありません。

 無事ぶじに階段にたどり着き、そのまま地下8階へ。

 そしてその後も、今までの攻撃こうげきうそだったかのように何事なにごとく階を下り、ついに地下10階に辿たどりついたのでした。


「あの耶宰やさい、僕らの撃退げきたいをあきらめたんでしょうかねぇ」 


「ならば朗報ろうほうだが、それはなかろうよ。おそらくは、つぎの11階が山場やまばとなるじゃろうて」


 不吉ふきつなことを言うあまロリドラゴン。

 全員ぜんいん緊張きんちょうが走ります。

 周囲しゅういに気をくばりながら、そろそろと地下11階への階段を下りました。

 

「ちっ、ふざけやがって! クソ耶宰やさいが!」


 先頭せんとうにいたアティシュリが、ブーれます。

 通路つうろまで下りてみるとそこには、数百体すうひゃくたいの“人型ひとがた”がひしめいていたのです。

 中には5メートル近くありそうなデカいやつ十体じゅったいほどじっています。


正念場しょうねんばだ! 気合入きあいいれろや!」


 そうさけんだアティシュリは天井付近てんじょうふきんまでジャンプし、“人型ひとがた”の中にんでいきます。

 その後にヤムルハヴァ、ウズベリ、ジョルジが続きました。

 ヒュリアはエヴレンを守りながら殿しんがりにつきます。


 3人と1ぴきは、ものすごいきおいで“人型ひとがた”をつぶしながら、徐々じょじょに前へ進んでいきました。

 しかし、彼らの前進ぜんしんをデカい“人型ひとがた”がさえぎります。

 デカい“人型ひとがた”はまわりにいる自分の仲間なかま蹴散けちらし、アティシュリ達に向かっておそいかかってきました。

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