第69話 僕たちは弁償ができない?<5>

「ほう、おくすることなく言いはなつのう。さすがはほこたか騎士姫きしひめよ」


 ヤムルハヴァはヒュリアのかたかるたたきながら称賛しょうさんします。

 つぎ水明龍すいめいりゅう視線しせんはジョルジにうつりました。


「それで、なんじはどうするのかえ? 無理むりについてくる必要ひつようはないぞ」


「オ、オラだって盟友めいゆう一人ひとりですっ! エヴレンさんとヒュリアさんが行くんなら、おともしますっ!」


 いきおんで異議いぎとなえるジョルジ。


「そうか……。姉様あねさまなんじ復体鎧チフトベンゼルなるものの使つかとおっしゃった。それは常人じょうじんはるかにしのぐ力をあたえるとか。どうかのう、一度いちどそれをわれに見せてはくれぬか」


 うたがわわしそうなヤムルハヴァの目つき。

 ジョルジが足手あしでまといだと思ってるみたいです。

 まあ、昨日きのうまで女装じょそうしてたんだから、仕方しかたないですよね。


「――わかりました」


 ジョルジは目をじ、精神せいしん集中しゅうちゅうします。

 30びょうぐらいったころ身体からだまわりにあおひかりつぶ無数むすうてきました。

 ひかりつぶはジョルジの身体にぶつかるように張付はりついていき、またたに青い復体鎧チフトベンゼル姿すがたへと変貌へんぼうさせます。

 早朝そうちょうの光にらされた復体鎧チフトベンゼルは、うつくしくかがやいてます。


「みゅみゅみゅっ!! かっけぇ、かっけぇ、すっげぇ!!!」


 アニメごえのヤムルハヴァは目のいろを変え、ジョルジのうでにすがりつきます。


「こ、こりゃ、おしょすござりす……」


 ヤムルハヴァの変わりよう戸惑とまどってるジョルジ君。

 しかし、おしょすござりすって……。

 収録しゅうろくしてないネット配信はいしんみたいに、なまってますな。


「ジョルジぃ、これがんだらわれらそぉ。我のしもべとして生涯楽しょうがいらくさせるからぁ。ねっ、いいでしょ、ねっ」


 ジョルジのうでをぶらぶらと左右さゆうにふりながら、おねだりするヤムルちゃん。

 でも、あざと攻撃こうげきは、ジョルジにはつうじなかったみたいです。


「ごめんすてけらい。オラには、やらねばなんねぇことがあんでがす……」


 ヤムルハヴァは忌々いまいましげにはならすと、ジョルジのうでほうりだします。


「ふんっ、どいつもこいつも、我にさからいおって……。ぷぅぅだっ!」


 ほほをふくらますヤムルハヴァ。

 ジョルジは気まずそうに頭をかいてます。


「――ところでよ、正体しょうたいがわかんねぇっていう“人型ひとがた”だがな、たぶん、あいつと関係かんけいあると思うんだよなぁ……」


 腕組みしたアティシュリは思案顔しあんがおです。


「あいつ?」


「ああ、まえにちょっと話しに出ただろうが。うらめし屋より前につくられた“最初さいしょ耶代やしろ”のことだ」


「ああ、そういえばタヴシャンさんがそんなことを言ってましたね」


じつはな、その“最初さいしょ耶代やしろ”ってのは、ブズルタのことなんだよ。アイダンは自分じぶんたちったあともここが維持いじされるように、ビルルルの手をりて都市全体としぜんたい耶代やしろにしちまったんだ」


都市としまるごとですか?!」 


 アティシュリがうなずきます。

 ブズルタって、うらめし屋の何十倍なんじゅうばいの大きさがありそうですけど、それ全部ぜんぶ耶代やしろってこと……。 

 

「じゃあ、もしかして耶宰やさいもいるんですかね?」


「ああ、そう聞いてる。俺は直接ちょくせつったことはねぇけどな」


 耶宰やさい仲間なかまがいるわけですね。


「そういえば、中に入るたび、白い頭巾付ずきんつきの外套がいとうで顔と身体をおおった耗霊もうりょうらしき者があらわれ、我に警告けいこくして来ました……。おそらくあれが、その耶宰やさいなのでしょう。――はばかることなく我らに物を言うあの態度たいど。まったく耶宰やさいとは小憎こにくらしき者どもですなぁ」


 ヤムルハヴァはそう言いながら、あのゴミクズでも見るような視線しせんで僕を突刺つきさします。

 いやいや、僕はちゃんと霊龍れいりゅう様には、気を使ってますけどねぇ。

 

 アティシュリは赤い篭手こてするどつめで頭をかきながら顔をしかめます。


「たぶん“人型ひとがた”はその耶宰やさいあやつってんだろうぜ。――しかし、ブズルタに耶代やしろ儀方ぎほうほどこしたのは、清掃せいそうとか修繕しゅうぜんをさせるためで、侵入者しんにゅうしゃ排除はいじょするためのもんじゃねぇってアイダンは言ってたんだがな……。はいったって何もられる心配しんぱいはねぇからってよ」


「その耶宰やさいも、僕みたいに進化しんかしたってことじゃないですかね」


 冗談半分じょうだんはんぶんに言ったんですが霊龍れいりゅう様の四つのひとみに、にらみつけられました。


「なるほどな、たしかにそうかもしれねぇ。――てめぇみたいなのが、もう一匹いっぴきいるってわけか……。ウザッてぇ……」


「ほんに、わずらわしいことよ。さっさとたたこわしてしまった方がバシャルのためかもしれんのう」


 ちょっと、ちょっと、言いぎじゃないすか……。


「そいつは名案めいあんだぜ、ヤムル。ブズルタが耶代やしろなら、どっかに霊器れいきがあるわけだ。そいつをこわせば、“人型ひとがた”もいなくなるにちがいねぇ。――よしっ、見つけたら思いっきりんづけて、ぶちこわしてやる! かかかかっ……!」


「それはたのしみですのう、姉様あねさま。ししししっ……!」


 霊龍れいりゅう様達は、いやな目つきで僕を見ながらわらってます。

 すごぉく身の危険きけんを感じちゃうのは、気のせいでしょうか……。


 んづけるのはブズルタの霊器れいきだよねっ!

 僕の霊器れいきじゃないよねっ!

 ギクシャクしてたのに、僕をイジるときはいきぴったりって。

 腹立はらたつわぁ。


 “人型ひとがた”のけんはちょっと気になりますが、ウズベリやケルテンケレくらべたらよわそうなんで、大丈夫だいじょうぶっぽいです。

 まあ、ヒュリアはもとからつよいし、ジョルジには復体鎧チフトベンゼルがあるし、エヴレンにはウズベリがいますからね。

 それにいざとなれば、霊龍れいりゅう様がなんとかしてくれるでしょうしね。


 それでも一応いちおう武装ぶそうは、してもらいましょうか。

 まずは、あずかっておいたよろいけんをエヴレンにかえします。


 つぎにジョルジにも剣をわたします。

 ブズルタの中は魔導まどうが使えないみたいですが、ジョルジとヒュリアには関係かんけいありません。

 ヒュリアは断迪刑だんじゃくけいを受けて魔導まどうが使えないし、ジョルジのほう理由りゆうはわかりませんが、魔導まどうが、からっきし駄目だめですからね。


 ジョルジがなんで魔導まどうが使えないのか、一度いちどドラゴン姉さんに聞いたんですけど、まるっきりわからねぇ、ってことでした。

 ヒュリアみたいにアトルカリンジャでもないし、断迪刑だんじゃくけいけたわけでもないのに、全然ぜんぜん使えないってのはぎゃくにおかしいらしいです。

 バシャルの人はたと微弱びじゃくでもだれもが魔導まどう素養そようってるそうですから。


 ジョルジは剣も魔導まどうもダメってことで、相当そうとプレッシャー感じてるらしく、湿地しっちでの討伐とうばつあと、どうしたらいいか僕に相談そうだんしてきました。

 復体鎧チフトベンゼルっていうすごい力があるんだから、魔導まどうが使えなくても良いんじゃないのってはげましときましたけど、ちょっと心配しんぱいです。


 最後さいごに、ヒュリアへクズムスと防具ぼうぐわたします。

 ヒュリアの愛用あいようしていたかわ防具ぼうぐ大分だいぶいたんでいたので新調しんちょうすることにしました。

 金属きんぞくよろいうごきにくくていやだと言うので、海竜デニスケルテンケレ表皮ひょうひで作られた防具ぼうぐを買うことにしたんです。


 海竜デニスケルテンケレうみケルテンケレで、その表皮ひょうひかたい上にかるく、魔導まどうへの耐性たいせいも持っています。

 錬金術師れんきんじゅつしの話だと、防御力ぼうぎよりょく通常つうじょうかわ防具ぼうぐ数十倍すうじゅうばいはあるそうです。


 防具ぼうぐには、もってこいの素材そざいですが、るのがげきムズでかず出回でまわらず、かなりお高いものになってます。

 そのみせでは、通常つうじょう防具ぼうぐの50倍以上ばいいじょうしました。

 かなりの出費しゅっぴでしたけどヒュリアが、ありがとう、大事だいじにするよ、って言ってくれたんでOKです。

 

 さて、できるかぎりの準備じゅんびととえたので、ようやく出発しゅっぱつです。

 都市とし入口いりぐちとしては呆気あっけないくらい小さめなとびらとおりぬけ、まだ見ぬ地下世界ちかせかいへの一歩いっぽします。


「うわぁ!」


 エヴレンがまわりを見回みまわし、声をげました。

 中は真暗まっくらかと思ったんですが、かべ天井てんじょうがボーッとかがやいていて状況じょうきょうがはっきりとわかります。

 小さなとびらの中には、それに反比例はんぴれいするかのように広大な空間くうかんひろがっていました。


 左右さゆうは100メートル、奥行おくゆきとたかさは50メートル以上いじょうはありそうなエントランスです。

 左右のかべには巨大きょだいなロシュの人物じんぶつのレリーフが数十体すうじゅったいならび、正面しょうめんかべには天井てんじょうまでとどくほどの一回ひとまわり大きなレリーフが左右さゆう一体いったいずつありました。

 すべてが僕らをじっと見下みおろしています。


 そして、正面しょうめん巨大きょだいなレリーフのあいだ、エントランスの最奥さいおうには、さきすすむためのとびらが見えていました。


「このわない。本番ほんばんはあの先じゃ」


 ヤムルハヴァがおくとびら指差ゆびさします。

 早速さっそく、扉にかって行こうした僕らの目の前に、突然とつぜん、白いかげ立塞たちふさがります。

 それは、白いフードマントでつつんだ人物じんぶつでしした。

 フードをふかかぶっているせいで、顔は見えません。

 ヤムルハヴァが言っていた耶宰やさいは、この人でしょう。


「これよりさきは、耶卿やきょうみとめられた者のみ、立入たちいりをゆるされる。そうでない者は、立去たちさるがよい」


 フードの人物じんぶつこえがエントランスにひびわたります。

 白いマントには、レベルが高い魔導師まどうしが着るような豪華ごうかきん刺繍ししゅうが入っています。

 口調くちょう落着おちついていて相手あいて威圧いあつするようなすごみがありました。

 声の感じからすると中年ちゅうねん男性だんせいのようです。

 良い意味いみでも悪い意味でも僕とは大分だいぶちがいますね。


「そういうわけにはいかぬのう」


 ヤムルハヴァがすすみ出て、白い耶宰やさい返答へんとうしました。


「――警告けいこくはしたぞ」


 白い耶宰やさいは、そういいのこし、ふっと姿すがたしました。


「あれがブズルタの耶宰やさいか。なかなか貫禄かんろくがあるじゃねぇか。どっかのだれかさんとはても似つかねぇな」


 はいはい、どうせ能天気のうてんきのアホですよ。


 巨大きょだいなレリーフのあいだけ、おくとびらひらきます。

 その扉も入口いりぐちと同じように頑丈がんじょうそうな両開りょうびらきで、青色あおいろをしていました。

 ブズルタの内部ないぶが、ほとんど青一色あおいっしょくなのは、ブルンメこうが青いからみたいです。


 とびらの先には広くて長い通路つうろがあり、両側りょうがわの壁には片開かたびらきのドアが一定間隔いっていかんかくおくまでずらりとならんでいました。


「ひゃあっ!」


 エヴレンが悲鳴ひめいを上げて、ヒュリアにきつきます。

 かべそばに、あたま真上まうえからやりつらぬかれた白骨はっこつころがっていたからです。

 白骨はっこつているふくは、変色へんしょくすることもなく綺麗きれいなままです。

 つい最近さいきんのものみたいです。


盗人ぬすびとれのてよのう。――あたまやり仕掛しかけられたわなのものよ。死にたくなければ、つね周囲しゅういへの注意ちゅういおこたらぬことじゃ」


 ヤムルハヴァは、忌々いまいましそうに鼻をらしました。


 ブズル山脈さんみゃくものいのち簡単かんたんうばおそろしい場所ですが、それでもロシュの宝物ほうもつもとめてブズルタにやってくる盗人ぬすびとあとたないそうです。

 よくられた人間って、こわいですよね。


 白骨はっこつ横目よこめで見ながら先へ進むと、通路つうろ一番奥いちばんおくにある左右のとびらきしんだ音を立ててひらはじめます。


「ひっ、お、おけぇ!」


 またもや悲鳴ひめいを上げたエヴレンは、いそいでヒュリアの背後はいごかくれました。

 いや、あなた、現在げんざいけと同居中どうきょちゅうでしょ……。

 いまさら、こわがることなの?!


「“人型ひとがた”のおましじゃ」


 ヤムルハヴァは、にして持っていたむちをほどき、ゆからしました。

 開ききった扉から、ガチャガチャって感じの金属音きんぞくおんが聞こえてきます。

 そしてついに扉のかげから“人型ひとがた”が姿をあらわしたのです。

 

 それは、金属きんぞく木材もくざいほねなどを綯交ないまぜにして、とりあえず人のかたち組上くみあげたようなお粗末そまつなものでした。

 “人型ひとがた”なんていうから、もっとこうカッコよくてつよそうなのを想像そうぞうしてたんですけど、拍子抜ひょうしぬけけです。

 子供こども工作こうさくみたいに、いろんな種類しゅるいのガラクタを接着剤せっちゃくざい無理むりやりくっつけたような……。

 リサイクルゴミで出来できたロボットって感じですかね。

 

 “人型ひとがた”はつぎから次へと現れ、徐徐じょじょ通路つうろふさいでいきました。

 大きさは、2メートル以上ありそうなやつから、幼児ようじほどのものまで様々さまざまです。

 かずは30ぐらいでしょうか。

 隙間無すきまなならんでいるので、先に進むには、たおすしかありません。


「気をつけよ、ああ見えてもうごきは俊敏しゅんびんじゃ」


 ヤムルハヴァが注意ちゅういうながします。


んぞっ!」


 アティシュリのさけびと同時どうじに“人型ひとがた”達が一斉いっせいに、こちらに向かって走出はしりだしました。

 言われたとおり、ものすごいスピードです。

 四足よつあしで走るのもいます。

 デカいゴキブリみたいなうごきなんで、とっても気持きもち悪いです。


 ガチャガチャという金属音きんぞくおんが、そこらじゅうからひびいてきます。

 おそるガラクタロボットにたいし、ヤムルハヴァは水色みずいろむち応戦おうせんしました。

 彼女のむちうなるたび、“人型ひとがた”はバラバラにくだります。


 ヤムルハヴァのむち正確無比せいかくむひですが、それでも何体なんたいかは攻撃こうげきをかいくぐって来ます。

 そんな手合てあいかまえるのは、アティシュリの鉄拳てっけんでした。


 ヒュリア達の目と鼻の先までせまった“人型ひとがた”は、赤い篭手こてなぐられ、ブーツでられ、あた一面いちめん散乱さんらんすることになります。

 結局けっきょく、10分もしないうちに、すべての“人型ひとがた”はもとのガラクタにもどったのでした。

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