第68話 僕たちは弁償ができない?<4>

 からんできたスキンヘッドと男達のことを話します。


「僕のかんなんですけど、たぶんあれ、アレクシアさんをねらってた気がするんですよねぇ」


 ほかにも通行人つうこうにんいましたけど、あのスキンヘッド、アレクシアさんにピンポイントでぶつかってきましたから。


「――だから、気をつけておいてしいんです。ユニス達ってウラニアからわれてるんでしょ」


 まゆをひそめる店長てんちょう。 


「君は、なんらかのかたちでウラニアがかかわっていると思うのか……?」


「まあ気のせいだとは思うんですけど、用心ようじんしたことはないんで。――てことで、これをっててください。何かのときに役立やくだつかもしれませんから」


 『倉庫そうこ』からタニョさんにもらった指輪ゆびわ取出とりだし、チェフチリクにわたします。


「それがあれば、マリフェトの警備隊けいびたいも力になってくれると思いますんで」


 指輪ゆびわ受取うけとったチェフチリクは、うらめし屋の店長ではなく、世界せかい守護者しゅごしゃである壌土龍じょうどりゅうかおになりました。


「――できるかぎりユニス達に気をくばるようにしよう」


「ええ、そうしてください。じゃ、行ってきます」


 『勝手口かってぐち』から人喰ひとくもりに出ると、すでにドラゴンの姿すがたもどったアティシュリとヤムルハヴァが巨大きょだい目玉めだまでギロリとにらんできました。

 霊龍れいりゅう達の形姿なりかたちは、よくてますけど、水明龍すいめいりゅうはとても綺麗きれい水色みずいろをしてます。


「ツクモ、べつに君は私達と一緒いっしょにいかなくても、ブズルタにいてから霊器れいき転移てんいすればむんじゃないのか?」


 敷地しきちってくれていたヒュリアに指摘してきされました。

 まあ、そうなんですけどね。


「でもさぁ、やっぱりそらびたいんだよねぇ。空の上から見る景色けしき最高さいこうだからさぁ」 


 それにドラゴンのるのって、やっぱアガりますもん。 


「そうか、君が良いのなら、かまわないんだ……」


 そう言って微笑ほほえむヒュリア。

 赤銅色しゃくどういろひとみがキラキラとかがやきます。

 久々ひさびさ笑顔えがお

 少しは気にかけてくれてたみたい。

 うれしみが、みる……。


 アティシュリのにはジョルジとヒュリアが、ヤムルハヴァの背にはエヴレンとウズベリがり、僕らは人喰ひとくい森から飛び立ちました。

 空の上は、かなりさむいので、あらかじめ三人には防寒具ぼうかんぐわたしておきました。

 もちろん、目的地もくてきちのブズルタも、相当そうとう寒いところみたいですから、それ用でもあります。


 ブズルタがあるブズル山脈さんみゃく人喰ひとくい森からはる北西ほくせい方向ほうこう位置いちしています。

 距離的きょりてきにはダルマダーヌク湿地しっちまでの10倍近ばいちかはなれてるみたいです。

 東西とうざいながよこたわる山脈さんみゃく北側きたがわにはウラニアが、南西側なんせいがわにはアザット連邦れんぽうが、南東側なんとうがわにはウシュメ王国おうこくがあります。


 山脈さんみゃく東西とうざいはしは海に落込おちこんでいて、西端せいたん漂氷海ひょうひかい東端とうたん北竟洋ほっきょうようめんしています。

 標高ひょうこうがとても高いので、人々ひとびと山脈さんみゃくえて行来ゆききすることができません。


 そのため、東端とうたん西端せいたんにある狭隘きょうあい海岸かいがんおも行路こうろとなります。

 また、ブズル山脈には東の大陸の最高峰さいこうほうであるムズラクダウ山があり、そこがヤムルハヴァの棲処すみかなんだそうです。


 お昼過ひるすぎに人喰ひとくい森をってムズラクダウ山についたのは真夜中まよなかごろでした。

 できればドラゴンのからの景色けしきをゆっくりとたのしみたかったんですけど、結局けっきょくよる営業えいぎょうわれて、ほとんど店にいることになりました。


 夜空よぞらに二つの月が美しくかがやくなか、ブズル山脈の最高峰さいこうほうムズラクダウ山の山頂付近さんちょうふきんにある空地あきち霊龍れいりゅう着陸ちゃくりくしました。

 周囲しゅうい一面いちめん雪景色ゆきげしきで、月明つきあかりにらされて青白あおじろひかってます。

 幻想的げんそうてきで、とてもバエてます。

 もちろん温度おんどはかなりひくそうで、ヒュリア達のいきが白くなっていました。


 ドラゴンの背からりてまわりを見回みまわすと近くの岩壁いわかべ洞穴どうくつがありました。

 そこがヤムルハヴァの棲処すみか入口いりぐちのようです。


 中に入るとヤムルハヴァはれた手つきで火打石ひうちいし火口ほくちを使い、ロウソクに火をけていきます。

 魔導まどうで火をければいいのにと思ったんですが、彼女がみずりゅうってことを思い出しました。

 火は専門外せんもんがいってことですね。


 オレンジ色の光にらされた棲処すみかの中は、ほとんど人間にんげんのものとわりませんでした。

 天井てんじょうゆかかべは、むきだしのいしですが、寝台しんだい、テーブル、椅子いす、棚、鏡台きょうだいなんかも、ちゃんとそろっていて、花瓶かびんには豪華ごうかな花がけられています。


 かべにはカラフルな絵画かいがけてあり、寝台しんだいそばには可愛かわいいぬいぐるみがかざられ、鏡台きょうだいにはキラりされた宝石箱ほうせきばこいてありました。

 かなり女の子っぽい感じがします。

 エヴレンとヒュリアは部屋の可愛かわいらしさに目をキラキラさせてました。


 居住きょじゅうスペースのとなりにはべつの部屋へのとびらがありましたが、エヴレンがそこをのぞこうとするとヤムルハヴァに、おしり蹴飛けとばされます。

 どうやらそこが宝庫ほうこみたいですね。

 られたエヴレンは泣き出しそうになりましたが、ヤムルハヴァにキっとにらまれると、なみだ鼻水はなみずをひっこめました。

 ウズベリはエヴレンのかたると、なぐさめるように、ほっぺたをめてます。


 その日はもう夜もおそかったので、ヤムルハヴァにことわって、倉庫そうこから4人分の寝台しんだい取出とりだし、きスペースにかせてもらいました。

 今夜はここで一泊いっぱくし、ブズルタめは明日あしたというわけです。


 そして次の日の早朝そうちょう

 かる朝食ちょうしょくませた僕らは、さっそくドラゴンの背に乗り、ブズルタへかいます。

 けわしい尾根おねをいくつかえると巨大きょだいな氷の断崖だんがいが目の前にあらわれます。

 霊龍れいりゅう達は断崖だんがいそばにある細長ほそなが空地あきち無事ぶじ着陸ちゃくりくできました。


 そびえ立つ断崖だんがいは、かなりの高さがあり、頂上部分ちょうじょうぶぶんは白いもやがかかっていて見ることはできません。

 一方いっぽうの崖の最下部さいかぶ中央ちゅうおうに、青い金属きんぞくで作られた分厚ぶあつとびらがありました。

 高さは2メートルぐらい、はばは3メートルぐらいで、そんなに大きくありません。

 扉は両開りょうびらきで、左側ひだりがわまっていますが、右側みぎがわけっぱなしになっています。 


「ここがブズルタなんすか?」


「そうじゃ」


 ヤムルハヴァは前にすすみ出て、開けはなたれた扉から見える真暗まっくらやみをにらみつけてます。

 アティシュリも同じように前に出て、ヤムルハヴァのよこならびました。


 霊龍れいりゅう達は普段ふだん姿すがたじゃなく、ロボットアニメの操縦士そうじゅうしるようなパイロットスーツ、りゃくしてパイスーを着てます。

 もちろんアティシュリは赤、ヤムルハヴァは水色です。

 ピタッとフィットしてるんで、身体からだせんがくっきりはっきりして、むねもおしりもかなりエロいです。

 

 さらに、霊龍れいりゅう達は、特徴的とくちょうてき武器ぶきも手にしていました。

 アティシュリは、うであしに赤いメタリックな篭手こてとブーツを装着そうちゃくし、ヤムルハヴァの方は水色のメタリックなむちにして持っています。


「そのふく武器ぶき、どうしたんですか?」


 声をかけると霊龍れいりゅう達がかえります。


「これか。これは鱗装レヴハジルヒ鱗戎レヴハシラフじゃ」


 ヤムルハヴァは、いきなり、手にしたむちで、近くにある巨大ないわ何度なんどちました。

 打たれた岩は切刻きりきざまれ、跡形あとかたくずれてしまいます。

 さすがにすご威力いりょくです。


われらが手にする武器ぶき鱗戎レヴハシラフ、我らがまとう装甲そうこう鱗装レヴハジルヒぶ。どちらも自分のうろこからるものじゃ。魔導まどう使つかえない以上いじょう、ブズルタの中では、これらにたよることになる」


「でも、なんで魔導まどうが使えないんすか?」


「我には、よくわからん」


 ヤムルハヴァはアティシュリの顔を見ます。

 アティシュリは、しょうがねぇなって感じでかたをすくめ、わりに答えてくれました。


「――ブズルタのかべにはじゅんブルンメこう粉末ふんまつ塗布とふされてんだよ」


「ブルンメこうって、ヒュリアのクズムスとかエヴレンのよろいに使われてる金属きんぞくですよね」


「ああ、そうだ。――『災厄さいやくの時』の少し前、くろ災媼さいおうあやつられたロシュがブズルタの中で内乱ないらんこしてよ、そのせいで都市とし人口じんこうのほとんどが死んだのさ。アイダンはブズルタの中で二度にどとそんなことがきないようにって、ビルルルととも精錬せいれんした純粋じゅんすいなブルンメこう粉末ふんまつかべ塗布とふしたってわけだ」


「つまりブルンメ鉱が魔導まどう使用しよう制限せいげんしてるってことですね」


制限せいげんなんてもんじゃねぇ、ほぼ完全かんぜん無効化むこうかしちまう。俺達や精霊せいれい恃気エスラル存在基盤そんざいきばんとしている。だからブズルタの中に長くいると、どんどん弱体化じゃくたいかして最後さいごには消滅しょうめつしちまうのよ」


「消滅ですか……」


 人間達は全員ぜんいんいきみました。


「もちろん、すぐにどうこうってことじゃねぇ。四、五日は持つだろうよ。ただ魔導まどうが、まったく使えなくなるのはどうすることもできねぇ。だから魔導まどう無効化むこうかされたときのそなえである鱗装レヴハジルヒ鱗戎レヴハシラフ出番でばんってわけよ」


 アティシュリはそう言いながら、両手りょうて装着そうちゃくした篭手こてこぶし打合うちあわせます。


「さらに我らがまとうこの鱗装レヴハジルヒは、人のなりでありながら霊龍れいりゅうとしての防御力ぼうぎょりょく発揮はっきできるものじゃ。人間が作った武器ぶきなどでは傷一きずひとけられん」


 むねに手をててドヤ顔するヤムルハヴァ。 

 鱗装レヴハジルヒはパツパツなんで、スレンダーなペチャパイが思い切り強調きょうちょうされて、なんかみょうにそそります。

 スッポンボンのときよりも、逆にヤバいかも。

 ローションで、ぬるぬるにして、あんなことしたり、こんなことしたりしたくなりますねぇ……。 


 おっと、いかんいかん。 

 妄想もうそう爆発ばくはつしちまった。


 とにかく、鱗装レヴハジルヒ鱗戎レヴハシラフ魔導まどうわりで、それを使って白兵戦はくへいせんをするってことですよね。

 でもブズルタって廃墟はいきょじゃなかったっけ?

 だれたたかうのよ?


鱗戎レヴハシラフ鱗装レヴハジルヒのことはわかりましたけど、一体いったい何と戦うんです? そもそも誰もいないんでしょ?」


「どうやら、そうでもねぇらしいんだ……」


 今度こんどはアティシュリがヤムルハヴァの顔を見ます。

 それをけてヤムルハヴァが不機嫌ふきげんそうにはならしました。


「――ブズルタには“人型ひとがた”の衛兵えいへいがおるのじゃ」


「“人型ひとがた”の衛兵えいへい?」


「うむ、『傀儡くぐつ』にるが、『傀儡くぐつ』にあらず。我にもあれらがなんなのか正体しょうたいがつかめん……。とにかく、中に入ればやつらがおそい来る。それらをかいくぐらなければ、最下層さいかそう到達とうたつすることはできん」


「そいつらってつよいんですか?」


「それほど強いわけではないが……」


「どうだってんですか?」


「――不死ふしじゃ」 


「まあそりゃ、“人型ひとがた”だから死なないでしょうね」


「我が言いたいのはじゃ、やつらは上手うまたおさぬかぎり、幾度いくど再生さいせいし、き上がってくるということよ」


 ゾンビみたいな感じってことですか。


やつらを退しりぞける最良さいりょう手段しゅだんは、あし切落きりおとすことじゃ。そうすれば、しばらくは起き上がってこれん。もちろんときてば、再生さいせいしてしまうがの」


「もしかして、身体をバラバラに切刻きりきざんでも、再生さいせいしたりします?」


「その通りじゃ」


 何それ。

 どんなによわくても、無限むげんおそわれたらわりですやん。


かずはどのくらいいるんです?」


「我の知るかぎりでは少なくとも数十体すうじゅったいはいるじゃろうな。――さらに、そこかしこにわな仕掛しかけられておるから、それにも気をくば必要ひつようがある」


 少なくともってことは、もっといる可能性かのうせいもあるってことね。

 それにわなって……。

 ちょっともリラックスできないじゃん。


 どうやら気楽きらくに考えすぎてましたね。

 宝箱たからばこみつけて、お宝ゲットして、はいおしまい、って思ってたんですけど。

 これもダンジョンのお約束やくそくってことですかね。


「つまり中は、かなり危険きけんってことですよね。じゃあ、エヴレンやヒュリアが一緒いっしょに行く必要ひつようあるんですか? 霊龍れいりゅう様達だけで行った方が良さそうですけど」


「“人型ひとがた”やわな退しりぞけるだけでむのならのう。だが、言ったであろう、目指めざ小部屋こべやにあるとびらは力ではひらくことができんのじゃ」


「その扉って、どんなもんなんです」


いてもうごかず、しても動かず、鍵穴かぎあなじょうもなく、にぎりももついておらん。あるといえば扉の上に刻印こくいんされた言葉ことばのみ」


「言葉?」


「うむ。――『おもいでとともに扉は開かれん』というものじゃ」


 何かの暗号あんごうですかね。


遺憾いかんではあるが、我だけでは、その言葉のなぞくことができん。それゆえ、姉様とエヴレンに見てもらい、意見いけんを聞きたいと思ってのう」


 そこで、ヤムルハヴァはヒュリアとジョルジに視線しせんげかけます。


「ツクモは援助えんじょやくしたが、そのほうら二人には付合つきあ義務ぎむはない。ここでつもよし、山をりるもよし、いかようにもするがよかろう」


「そうはいきません。エヴレンは耶代やしろ盟友めいゆうであり、アティシュリ様のおっしゃる理邏ヌクセツメの一人です。ならば彼女の責務さいむかちい、助けるのは自分の役目やくめと考えます」


 ヒュリアは真正面ましょうめんからヤムルハヴァを見据みすえ、宣言せんげんしました。

 ああ、言っちゃったよ。

 ヒュリアにはそとっててもらおうと思ったのに。



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