第52話 異世界食堂うらめし屋<4>

「なんでわたしやさしくしてくれるの? 化物ばけものってったのに?」


 ユニスのひとみ真正面ましょうめんからぼくをとらえます。


「僕もね、むかしきみおなじようなにあったんだ。いじめられて仲間外なかまはずれにされて、居場所いばしょがなくなって、だれしんじられなくなって……。でもね、あるおんなたすけてくれたんだ。その子が僕にとって本当ほんとう仲間なかまであり、友達ともだちだったかな……」


 黎女れをながいてくれたから、僕は助かりました。

 でも僕は、黎女れをなを助けられませんでした。

 それを思うといまでもこころくるしくなります……。


「君にも本当ほんとう仲間なかまができれば、らくになれるっておしえたかったんだ。そのあとは、ゆっくり時間じかんをかけて、自分じぶん取戻とりもどしていけばいいからさ」


 タッチがククククといて、またユニスのほほにキスします。


「タッチも、そう思うんだ」


 ユニスは人差指ひとさしゆびで、タッチのあたまやさしくでます。

 そのあと、ベッドから立上たちあがり、ぺこりとあたまげました。


「ごめんなさい、ツクモさん。化物ばけももなんて言って……」


「いいの、いいの、そういうのれてるから」


「だけど、やっぱりすこかんがえたほうがいいかも……。よるに見たら気絶きぜつしそうだもん」


「そう……なんだ……」


「せめてヒュリアさんみたいに顔隠かおかくしたら?」


 そういえば、いままであんまり外見がいけんのことにしてきませんでした。

 考えてみると、僕、オールヌードなんだよねぇ。

 全然ぜんぜん、セクシーじゃないけど。

 ずかしっ!


 ヒュリアもジョルジも最初さいしょおどろいたあとは何も言いませんでしたが……。

 もしかして気を使つかわせてたとか……?

 これからみせはじまるし、やっぱりかんがえたほうがいいかなぁ。


「チェフ様とみなさんにもあやまらなくちゃ」


 ユニスはすこ元気げんきがでたみたいで、かる足取あしどりで食堂しょくどうりていきました。


 それから七日後なのかご

 ヒュリアと僕はチェフチリクのって、ふたたびザガンニンへかうことになりました。

 今回こんかいはアティシュリも一緒いっしょです。

 もちろん第一階層守護者だいいちかいそうしゅごしゃとユニスたちは、お留守番るすばんです。


 土地とち登録証とうろくしょう受取うけとるためですけど、それだけじゃないんです。

 『転居てんきょ』するまえに、どうしてもはずせない重大じゅうだいイベントを開催かいさいするためでもありました。

 

 もりなかりてすぐ、ヒュリアは仮面かめんをつけ、ドラゴンたちひと姿すがたになりました。

 チェフチリクはいつもとわりません。

 だけど……、アティシュリはいままで見たことの姿すがたになってます。

 だけをのこし、あかいベールでかお下半分したはんぶんあたまおおい、服装ふくそうはいつものヘソしコーデじゃなくてヒラヒラの赤いロングドレスです。


「なんか見違みちがえちゃいますね」


だまってろ、ツクモ……」


 ジェノサイダーの目つきになるドラゴンねえさん。


「いや、めてるんですって」


「うっせぇわ!」


 綺麗きれい格好かっこうしてんのに、口調くちょうは、いつものオラオラです。


「――いいか、今からおれはシュリ・ジェネタイトだかんな。こいつは俺が人前ひとまえ耗霊もうりょう浄化じょうかをするとき使つかうもんだ」


「シュリ・ジェネタイトはひがし大陸たいりくでは、かなりの有名人ゆうめいじんだ。敬意けいいをこめて『熾恢しかい巫女みこ』と人間にんげんもいる。彼女に耗霊もうりょう浄化じょうかたのめば、失敗しっぱいすることはないと言われているからだ。“のろわれた”の浄化じょうか悪評あくひょうすにはもってこいの人物じんぶつと言えるだろう」


 チェフチリクが補足ほそくします。


「へぇ、アティシュリさんて有名人ゆうめいじんだったんですねぇ」


「てめぇ、俺を、おちょくってんのか、ああん?!」


 アティシュリはヒュリアの胸元むなもとにある僕を、にらんできます。

 視界しかい巫女様みこさまかお一杯いっぱいになっちゃいました。


「シュリ、行くぞ。時間じかんしい。今日中きょうじゅうすべわらせたい」


 チェフチリクが、たしなめます。


「ああ、わかってる。このアホ耶宰やさいが、うるせぇからだ」


 なぜドラゴンねえさんがこんなことになっているかというと、さっきはなした重大じゅうだいイベントをするためなんです。

 これから“のろわれた”についてる二体にたい耗霊もうりょう浄化じょうかするわけですけど、ただ浄化しただけじゃ、土地とちについた悪評あくひょうまですことはできません。


 ザガンニンの人達ひとたちに、もうこの土地は安全あんぜんですよ、って宣伝せんでんする必要ひつようがあるんです。

 そうしないとだれみせてくれないですからね。

 そこでドラゴン店長てんちょう一計いっけいあんじ、自分じぶん浄化じょうかするのではなく、シュリ様にたのむことにしました。

 シュリ様は、浄霊業界じょうれいぎょうかい?の有名人ゆうめいじんらしいので、彼女が浄化じょうかしてる姿すがたを見せれば、ザガンニンの人達も安心あんしんするってわけです。


 城門じょうもんでのチェックで、アティシュリが身分証みぶんしょうを見せると、衛兵達えいへいたちがザワザワしはじめました。

 ひかえていたへいまでがうらからてきて、アティシュリに握手あくしゅやサインをもとめてきます。

 アイドルの握手会あくしゅかいみたいです。


「シュリ様のご高名こうめいは、かねがねみみにしております。このまち貴女あなたまいられるとは、われらにとってもほこらしいかぎりです」


 下腹したばら衛兵えいへい隊長たいちょうらしきオッサンが、はなしたばしてアティシュリの手をにぎっています。

 でも、にぎってる時間じかんながい。

 にぎかた気色悪きしょくわるい。

 あきらかに、セクハラです。

 マスクしてる女性じょせいって、なんか綺麗きれいに見えますからね。


「わたくしも、このまちられて光栄こうえいです」


 目でわらってみせるシュリ様。

 わたくしとか言ってますけど……。

 きっとハラワタは、えくりかえってるにちがいありません。


 ながいセクハラのあと、まずは土地調整局とちちょうせいきょくかいました。

 そのみちすがら、うしろから野次馬やじうまがついてきます。

 あるいているうちに人数にんずうえていき、調整局ちょうせいきょくころには1000人ぐらいになってました。

 

 調整局ちょうせいきょくはいるとせっぽちのイナンチ君がぼくらを見つけ、げました。

 チェフチリクはイナンチ君とかいってカウンターせきすわります。

 ヒュリアはチェフチリクのうしろにち、アティシュリはとなりすわりました。


「どうもスニギュブレさん。土地とち登録証とうろくしょうはこのとおり、無事ぶじにできあがりましたよ」


 イナンチ君は、大学だいがくノートぐらいある四角しかく金属きんぞくのタブレットをチェフチリクのまえきます。


記載きさい間違まちがいないか、確認かくにんしてください」


 チェフチリクがタブレットに目をとおしているあいだ、イナンチ君の視線しせんはアティシュリにそそがれてます。

 興味津々きょうみしんしんみたいですね。

 まあ、全身真赤ぜんしんまっかで、顔をかくした女性じょせいちかくにいれば、目がいって当然とうぜんかもしれません。


間違まちがいはないようだ」

 

「そうですか、かったです。――失礼しつれいですが、こちらは奥様おくさまですか?」


 イナンチ君、かずにはいられなかったようですね。

 

「いや、彼女は耗霊もうりょう浄化じょうかのために自分じぶんんだのだ。――シュリ・ジェネタイト、名前なまえぐらいはっているだろう」

 

「ええっ?! ――まさか、このかたが『熾恢しかい巫女みこさまですか!」


 大声おおごえを出すイナンチ君。

 うしろではたらいている同僚どうりょうみなさんがおどろいてますって。

 あわてて起立きりつしたイナンチ君は、アティシュリにかって身体からだふたりになるくらいにふかくお辞儀じぎをしました。


「おはつにお目にかかります。僕はイナンチ・テズガタルと言います。どうぞよろしく」


「こちらこそ、よろしくおねがいします」


 アティシュリはすわったまま会釈えしゃくかえしました。

 ほか局員達きょくいんたちが、ザワつきはじめます。

 ここでもシュリ様人気さまにんき爆発ばくはつです。

 局員達きょくいんたち自分じぶん仕事しごとほおり出して、イナンチ君のうしろにあつまってきちゃいました。


「これから“のろわれた”で彼女に『浄霊じょうれい禦儀ぎょぎ』をおこなってもらうつもりだ。もし時間じかんがあれば見にきてもらってもかまわん」


 この『浄霊じょうれい禦儀ぎょぎ』ってのが、重大じゅうだいイベントの名称めいしょうです。

 さすがドラゴン店長てんちょう、人をあつめることをわすれてません。 

 いろんな人にアティシュリの浄化じょうかを見てもらえば、土地とち正常せいじょうになったっていう事実じじつが、どんどんひろがっていきますから。


本当ほんとうですか!」


 目をかがやかせたイナンチ君は、同僚達どうりょうたちに言います。


すきの人も一緒いっしょ見学けんがくさせてもらいましょう。シュリ様はこれまで一度いちど浄化じょうか失敗しっぱいしたことがないといてます。その禦儀ぎょぎが見られるなんて、こんな機会きかい滅多めったにありませんよ」


 局員達きょくいんたちはイナンチ君の提案ていあんに、もろげて賛同さんどうしました。

 こうして僕らは、ほとんどの局員きょくいんそとで待ちかまえていた野次馬やじうま引連ひきつれて“のろわれた地に”かうことになったのです。

 なんか来日らいにちしたKポップアイドルみたいです。

 シュリ様人気さまにんきすげぇわ。


 “のろわれた地”に到着とうちゃくすると、そのまえとおりには、さらにたくさんのひとだかりができてました。

 シュリ様が『浄霊じょうれい禦儀ぎょぎ』をやるってきつけたんでしょう。

 引連ひきつれてきた人とわせると見学けんがくする人数にんずうが、ハンパいほどにふくれあがってます。


 でもシュリ様は、どれだけ人がえても完無視かんむしめ込んで、さっさと“のろわれた地”の中へとすすんでいきました。

 今回こんかいも、ヒュリアはそとから見守みまもり、僕はチェフチリクに同行どうこうします。

 建物たてもの残骸付近ざんがいふきんまでくると、アティシュリが、ぼやきはじめました。


「ああっ、マジで、ウゼぇなぁ人間にんげんどもはよぉ。あとからあとからいてきやがって。それと城門じょうもんのオヤジ、なんだありゃ。マジで気色悪きしょくわるかったぜ。ベタベタさわりやがって。この姿すがたじゃなかったら、すみにしてるとこだぜ」


 もどるとすぐこの調子ちょうしです。


「まあ、そううな。おまえ興味きょうみがあるから、あれだけあつまってくれたのだ。あのかずなら『熾恢しかい巫女みこ』が土地とち浄化じょうかした事実じじつ街全体まちぜんたいひろがるのに、そう時間じかんは、かからんだろう」


 アティシュリは忌々いまいましそうに舌打したうちしたあと建物たてもの残骸ざんがいへ目をけます。


「おお、いるいる。――滅却めっきゃくするほど成長せいちょうは、してねぇな。あれなら浄化じょうかできるだろう」


「――ところでなんですけどぉ。浄化じょうか滅却めっきゃくってどうちがうんですか?」


 素朴そぼく疑問ぎもんです。


「そもそも耗霊もうりょうとは死後しごに、冠導迪セフィル壇導迪クルファからうことによってまれる。浄化じょうかとは、このふたつつの導迪デレフからまりをほど作業さぎょうのことと言っていい。からまりがほどかれると、れいもとの姿を取戻とりもどし、異相次元グクレル、つまりあの旅立たびだつことになる。これにたいして滅却めっきゃくとは、からいをほどくことができない耗霊もうりょう消滅しょうめつさせることを言う。もちろん消滅しょうめつしたれいはあのに行けず、分解ぶんかいされて元素げんそとなる」


 ドラゴン店長てんちょう丁寧ていねい解説かいせつ相変あいかわらずです。

 ちなみに冠導迪セフィル理気界ツメバルムダにあるしろのことで、壇導迪クルファくろのことを言います。


「さてと、そんじゃあ、ど派手はでにぶちげるか」


 アティシュリはそう言うなり、両腕りょううでよこひろげました。

 すると彼女の身体全体からだぜんたいあおひあり始めます。


「いくぜっ!」


 猛烈もうれつちからがアティシュリの身体からだから発散はっさんされ、周囲しゅういひろがります。

 するとまたたに、さかほのおかべあらわれました。

 かべはアティシュリを中心ちゅうしんとした半径はんけい2メートルくらいの円筒形えんとうけいをしています。

 

 ほのおかべ急速きゅうそく回転かいてんしながら、どんどん半径はんけいを広げていきます。

 かなりたかさもあるんで、赤色あかいろ竜巻たつまきみたいです。

 竜巻たつまき枯草かれくさ同心円上どうしんえんじょうきながら成長せいちょうし、最終的さいしゅうてきに“のろわれた一杯いっぱいおおきさになりました。


 野次馬やじうまから歓声かんせい拍手はくしゅこえてきます。

 見ごたえのあるアトラクションですからねぇ。


 竜巻たつまき外側そとがわほのお熱風ねっぷう渦巻うずまいて危険きけんですけど、内側うちがわ平穏へいおんそのもの。

 枯草かれくさの焼けたにおいがそよかぜかれてただよってくるだけです。

 

「目くらましは、これぐらいでいいだろう。そんじゃあ、本番ほんばん浄化じょうかをやっちまうか」


 アティシュリはかおおおっていたベールとるとおおきくくちひらきました。

 そして建物たてもの残骸ざんがいがけてしろほのおしたのです。

 しろほのお残骸ざんがい周辺しゅうへんめていきますが、ものいたりはしていません。 

 わりに、目にうつらなかった二体にたい耗霊もうりょうしろき上がらせたのです。


 僕ははじめて、お仲間なかまである耗霊もうりょう姿すがたを見ました。

 浮上うきあがったかたちからすると、一体いったい大人おとな女性じょせい、もう一体いったいちいさな子供こどものようです。

 耗霊もうりょうしろほのおあぶられながら、しばらくじっとしていましたが、突然とつぜんはげしくひかったかと思うとつぎ瞬間しゅんかん跡形あとかたえてしまいました。

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