第49話 異世界食堂うらめし屋<1>

 てんぷらうどんをわったところで、ひとつイベントがあるのです。

 霊器れいきは4にんすわっているテーブルの中心ちゅうしんかれてまして、そこからていくってだけなんですけど……。

 ユニスとアレクシアさんのリアクションがちょっとたのしみですな。


「えっと、それじゃいまからそとますね」


 一応いちおう、ことわっておいてから脱躰だったい使つかいました。


「――きゃーっ!」


 おお、悲鳴ひめい、キターっ!

 なんかこわがられるのが快感かいかんになってきてます。


「どうもぉ、ツクモでぇす」


 愛想あいそよくります。


「いやーっ!」


 涙目なみだめのユニスに、どんぶりをげつけられました。

 素早すばやぼくまえったアレクシアさんは、背後はいごのユニスをまもるために、フォークを逆手さかてにぎってかまえてます。


「あ、あなたが、ツクモさんなんですかっ?!」


 にらみつけながら、アレクシアさんがいてきました。


「あははっ、こわいのはだけですよぉ。しん姿すがたは、内気うちきやさしい好青年こうせいねんなんですから」


大丈夫だいじょうぶだ、アレクシア。ツクモにはなんがいもない」


 チェフチリクがかばってくれました。


「まあ、あたまからっぽだけどよ」


 アティシュリがかばってくれません。


 アレクシアさんはフォークをおろして、自分じぶんせきもどりましたけど、眉間みけんのしわが、まだつよい。

 ユニスは、こっちを見てくれません。

 うつむいて、ちょっとふるえてますね。 


 れるまで仕方しかたないかな。

 とりあえず、はなしすすめます。

 帝国ていこく騎士きしまえ引越ひっこししないと。


「えーと、耶代やしろ引越ひっこさきについての相談そうだんをしたいんですけど」


「ツクモ、ユニスさんとアレクシアさんには、やすんでもらったらいい。あんな目にあったのだからな」


 ヒュリアは、うつむいているユニスを微笑ほほえましくながめています。


「じゃあ、アレクシアさんとユニスちゃん、二階にかいやすまれますか?」


「ユニス、あなた休ませてもらいなさい。私がみなさんのおはなしいておくから」


 ユニスはくびります。


「ここにいる……。仲間外なかまはずれはいや……」


 かる溜息ためいきいたアレクシアさんは、かたをすくめました。


「――私達わたしたちにかまわず、どうぞお話をすすめてください」


「そうですか」


 ユニスのことが、ちょっとになりましたけど、今はノータッチで。

 まず、店長てんちょうけんについてですけど、これは壌土じょうど龍様りゅうさま決定けっていです。


「もちろん、やらせてもらおう。いかようにも使つかってくれてかまわん」


 だそうです。

 本人ほんにんも、やるまんまんです。

 まあ、こっちは最初さいしょから心配しんぱいしてません。

 一番いちばん問題もんだいは“どこ”に引越ひっこすかです。


「どっかいとこ、ありませんかね?」


 みんなかお見回みまわしますけど、ヒュリアもジョルジくんこまってます。


「私達は人間エネコスの国については、あまりくわしくないので……」


 アレクシアさんとユニスもおもいつかないようです。

 ちなみに、パトリドスは人間にんげんを『エネコス』って言うみたいですね。


「それについちゃ、ひとつ思いたるとこがあんだけどよ」


 アティシュリがキャラメルをくちほうみます。


「――おれ在所ざいしょちかくに最近さいきんあたらしいまち建設けんせつされたんだよ」


「アティシュリさんのいえの近くってことは、マリフェトってことですか?」


「おおよ。まち名前なまえはザガンニンだ。タヴシャンの言う条件じょうけんにもってるぜ」


 ザガンニン。

 ザリガニが、忍者にんじゃ格好かっこうしたような名前ですな。


 たしかあのくちひげタニョさん、マリフェトの御偉おえらいさんじゃなかったっけ。

 タニョさんの指輪ゆびわを見せれば便宜べんぎはかってくれるかも。

 うむ、運命うんめいかんじてしまいますね。

 あんな、おっさんに。

 なんかキモい。


「――そんじゃ、アティシュリさん、ヒュリアと一緒いっしょに、ちょっとれてってもらえませんか。どんなんか見てみたいんで」


「やだね。俺はおまえ使走つかいはしりりじゃねぇんだぞ」

 

「マリフェトって、そんなとおくないんでしょ? いいじゃないすかぁ」


「やなこった」 


 アティシュリはをむきだし、イーっていうかおをしてます。

 こういうとこ、子供こどもなんだよね、このドラゴン。


自分じぶんれてこう」


 チェフチリクが、イケボでをさしのべてくれました。

 さすがはドラゴン店長てんちょうたよりになりますな。


たすかります、チェフチリクさん。どっかのイケずねぇさんとは大違おおちがいですよ」


「なんだ、なんだ、俺のことを言ってやがんのか、コラぁ? もっぺん、くろこげになってみっか、ああん?」


 立上たちあがってってくるドラゴンねぇさん。

 ああ、やだやだ、きっと地球ちきゅうだったらこんなかんじでカツアゲとかすんだろうなぁ。


「――キャラメル、三日間みっかかんきにしますよ」


 とりあえずマウント、とっときましょ。


「くっ! お、俺が……、そ、そのくらいで……、引下ひきさがると……でも……」


 そう言いながら、あとずさりして椅子いすもどり、ぐったりとかたとすドラゴンねぇさん。 

 かお縦線たてせんが、びっしりはいってます。

 はいはい、よぉく反省はんせいしてくださいね。


「じゃあ、ヒュリア、ちょっとザガンニンに行ってみようと思うけど、大丈夫だいじょうぶ?」


「ああ、問題もんだいない。――帝国ていこく動向どうこうはわからないが、用心ようじんしたことはない。なるだけはや転居てんきょすべきだ。チェフチリク様、よろしくおねがいします」


了解りょうかいした」


 うなずいて立上たちあがり、すぐさまそとに出ていくドラゴン店長てんちょう

 仕事しごとはやい。


「よし、それではジョルジ、きみには耶代やしろ第一階層だいいちかいそう守護者しゅごしゃ役目やくめあたえよう。アレクシアさんとユニスちゃんのことをたのむぞ」


 お仲間なかまであるガイコツ君主くんしゅ様のような口調くちょう命令めいれいします。


「おまかせくだせぇ。――第一階層守護者だいいちかいそうしゅごしゃかぁ! なんかカッコいべぇ!」


 目をキラキラさせてるジョルジ君。

 まあ言換いいかえると、一階食堂いっかいしょくどう店番みせばんってことなんすけどね。

 モチベをげとくのは大事だいじですから……。


 もう一度いちど霊器れいき化躰かたいして、ヒュリアの胸元むなもともどります。

 そしてドラゴンの姿すがたになったチェフチリクのり、僕らはザガンニンにかったのです。


 ザガンニンは人喰ひとくもりから北西ほくせい方向ほうこうにあります。

 しばらくんでいると左手ひだりてにパトラマ火山かざんが見えてきました。

 ふもとから頂上ちょじょうまで一本いっぽんえてなくて、山肌やまはだ赤茶あかちゃけてます。

 そして火口かこうには、アティシュリの棲処すみかがあるわけです。


 周辺しゅうへんの人達は、火山から出入でいりするアティシュリを見ると、そのはラッキーデイって思うみたいです。

 霊龍れいりゅうは、彼らにすれば神様かもさまみたいなもんですからね。

 でもしん姿すがたったら、きっとガックシすんだろうなぁ。


 火山かざんぎてすぐのもり空地あきちを見つけたチェフチリクは、そこに着陸ちゃくりくします。

 ここからはれいのごとくあるきです。

 ドラゴンのまま、まちまで行ければらくなんですけどね。

 ショックする御老人ごろうじんとか、ひきつけをこす御子様おこさまが出たらこまりますから。


 30分以上歩いじょうあるいて、ようやくもりけると、目の前にたか城壁じょうへきが見えてきました。

 チェフチリクがみせをやってたようなちいさなむらにはありませんでしたが、さすがに大都市だいとしになると立派りっぱ城壁じょうへきまもられてますな。


 城壁じょうへきには所々ところどころ城門じょうもんがあって、数人すうにん衛兵えいへい見張みはりをしています。

 ヒュリアはそれを見て、仮面かめんをつけました。


「ところで、こういうまちはいるときって、通行証つうこうしょうとか身分証みぶんしょうとか必要ひつようなんじゃないんですか?」


「ああ、くになどが発行はっこうした身分証みぶんしょう旅券りょけん同業組合どうぎょうくみあい組合員証くみあいいんしょうなどの提示ていじ必要ひつようになる」


「ヒュリア、ってんの?」


「いいや、っていない」


 うへっ、どうすんのさ。

 はいれないじゃん。


「――大丈夫だいじょうぶだ。自分じぶんっている」


 チェフチリクは胸元むなもとからちいさな金属きんぞくのタブレットを取出とりだしました。

 黒銀くろぎんいろでホームベースがたをしていて、表面ひょうめん文字もじってあります。 


「これはアヴジ王国おうこく商業組合しょうぎょうくみあい組合員証くみあいいんしょうだが、自分じぶんのものしかない。だからヒュリアには自分じぶん奴隷どれいになってもらう。そうすれば身分証みぶんしょう必要ひつようがなくなる。ひとではなく所有物しょゆうぶつとみなされるからな。かまわんか?」


問題もんだいありません」


「すまんな、はじをかかせて」


 チェフチリクは地面じまんからつち一掴ひとつかみ手にとります。


「手をしてくれ、ヒュリア」


 ヒュリアが右手みぎて差出さしだすと、チェフチリクは彼女のこうつち押付おしつけました。

 押付おしつけているチェフチリクの手が一瞬いっしゅんむらさきかがやきます。

 手をはなすと、ヒュリアの手の甲には、つちえがかれた、こげ茶色ちゃいろ文字もじがありました。

 『チェフ・スニギュブレ』とめます。


奴隷どれい通常つうじょう主人しゅじん名前なまえ身体からだ焼印やきいんされる。今描いまえがいた土文字つちもじ焼印やきいんわりだ。あと呪印じゅいんけば、なにのこらないから安心あんしんしてくれ。衛兵えいへいがそれを見れば、きみ奴隷どれいみとめるだろう。――人間社会にんげんしゃかいでの自分じぶんとおり名はチェフ・スニギュブレ、アヴジ王国おうこっくディルパスむらにある『りゅうのあくびてい』の主人しゅじんだ。おぼえておいてしい」


「わかりました」


 文字もじが、こげ茶色ちゃいろだから、ちょうどはだきつけたように見えるわけです。

 いや、アティシュリとなくて正解せいかいでした。

 チェフチリクだからこそできるこの見事みごと対応たいおう

 ドラゴンねぇさんには、こういうこまやかなことは期待きたいできませんからね。

 よるになったら城壁じょうへきえてしのめばいいだろうが、とか言いそうですもん。


 まちはいろうとする人のれつならんで順番じゅんばんちます。

 ばんたところで、チェフチリクは衛兵えいへい組合員証かいいんしょう提示ていじし、ヒュリアの手の土文字つちもじも見せました。

 陰険いんけんな顔つきの衛兵えいへいは、えらそうにうなずきます。

 上手うまくいったようです。


 まったく地球ちきゅうでもバシャルでも入国審査にゅうこくしんさって、なんかこわいわぁ。

 愛想あいそい人もいるんですけどねぇ。


 あたらしく建設けんせつされたせいかわかりませんが、はじめて目にするザガンニンの街並まちなみは、なんかさわやかかんじです。

 建物たてものかべ綺麗きれいなクリームいろのレンガ、屋根やね青色あおいろ統一とういつされてます。

 灰色はいいろ石畳いしだたみかれたとおりには、たくさんの往来おうらいがあって、両側りょうがわにはいろんなみせならび、活気かっきにあふれてますね。


 いや、ひさしぶりに都会とかいもどってきたってかんじで、ちょっとアガるわぁ。

 ずっともり丸太小屋まるたごやらしでしたからね。


「で、どうするんです?」


土地とちを見つけたなら、ザガンニンの役所やくしょ住民登録じゅうみんとうろくをして、つぎ商業組合しょうぎょくみあい入会にゅうかいする。それから土地とちい、建物たてものてるという具合ぐあいだな」


 地球ちきゅうたいしてわりないですね。

 ザガンニンの役所やくしょまち中央区ちゅうおうくばれる地域ちいきにあるみたいです。

 ちなみにザガンニンの城門じょうもんやっつあり、中央ちゅうおうから放射状ほうしゃじょうびる八本はちほん大通おおどおりとつながってます。

 まち中心ちゅうしんやっつの大通おおどおりがあつまる場所ばしょには円形えんけい広場ひろばがあって、聖師せいしフゼイフェの大きなぞうが立っていました。


 広場ひろば周囲しゅういには役所やくしょ組合くみあい、『藩主はんしゅ』の屋敷やしきなんかがならんでいます。

 藩主はんしゅっていうのは、知事ちじみたいなもんですね。


「まず土地調整局とちちょうせいきょくに行って、目ぼしい土地をさがそう。このまちはかなり人気にんきたかいようだ。耶代やしろ転居てんきょてきした土地がのこっているといいがな」


 僕らは役所やくしょとなりにある土地調整局とちちょうせいきょく建物たてものはいりました。

 土地の売買ばいばい普通ふつうい手、証人しょうにん三者立会さんしゃたちあいでおこなわれますけど、こういう城郭都市じょうかくとしちがいます。


 まち土地とちは、調整局ちようせいきょく管理かんりし、売買ばいばいにはきょく認可にんか必要ひつようになります。

 さらに所有者しょゆうしゃになると土地台帳とちだいちょう記入きにゅうされちゃうのです。

 まち土地とちがきられてますから、勝手かって売買ばいばいをされると混乱こんらんをまねくからってことみたいです。


「どうぞ、すわってください」


 僕らの担当たんとうになってくれたのは、たぶん小食しょうしょくなんだろうなってかんじのせんほそ青年せいねんでした。

 チェフチリクはカウンターをはさんで、青年せいねんうように座席ざせき腰掛こしかけます。

 ヒュリアはチェフチリクのうしろでったままひかえます。

 奴隷どれいっていう役回やくまわりですから、ご主人しゅじんよこすわるなんて、できないわけです。


ぼくはイナンチ・テズガタルって言います。どうぞよろしく」


 ペコリとあたまげるイナンチ。

 お役人やくにん様にはめずしくこしひくいタイプです。

 なんかホッとしました。

 うえから目線めせんえらそうなやつだったら、どうしようかと思ってましたから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る