第48話 巡礼者の歌<7>

「――細菌さいきんというのはえないほどちいさい生物せいぶつでね、ひと体内たいないはいりこんで病気びょうき引起ひきおこすとされている」


 そんなものがいるなんておどろきだ。

 そいつが身体からだはいってくるのを想像そうぞうして気持きもちがわるくなった。


らなかったです……」


「ふむ、この知識ちしき元々もともとパトリドスのものなんだがね。つたえられていないようだ」


いてものこってるんですか?」


たしかに可能性かのうせいひくい。しかし火葬かそう不完全ふかんぜん場合ばあいおおいにありうる」


「それをさがしてどうするんです? 研究けんきゅうするんですか?」


培養ばいようするのだ」


培養ばいよう? どういう意味いみですか?」


 ジェファさんはこたえずに、つぎ骨壷こつつぼなか試薬しやく吹付ふきつけた。


「――キツォスくんわたしはね、人間にんげん大嫌だいきらいなのだよ」


 唐突とうとつはなしえるジェファさん。


「そう……、ですか……」


「――やつらは盗賊とうぞくであり、詐欺師さぎしであり、人殺ひとごろしだ。戦争せんそうこしては周囲しゅういきずつけ、ころい、平和へいわになればだまし、ぬすむ。くちでは友人ゆうじんだ、仲間なかまだといながら、自分じぶんよくたすとなれば平気へいき裏切うらぎる。シラミ以下いか連中れんちゅうだ」


 歴史れきし授業じゅぎょうで、パトリドスも人間エネコスひどにあわされてきたっておしえられてる。

 だからジェファさんの言うことはよくわかる。


「――おお! やったぞ! 反応はんのうがでた! やはり死滅しめつしていなかったな!」


 ジェファさんは骨壷こつつぼのぞきながらこえげた。

 彼女かのじょのこんなうれしそうな様子ようすたのははじめてだった。


苦労くろうしてさがした甲斐かいがあったというものだ……」


 こし小物こものれからちいさなガラス容器ようき金属きんぞくさじ取出とりだされた。

 容器ようきのフタにはネジのようにみぞがあり、まわしてけるんだものだ。

 骨壷こつつぼからすくわれたあおひかほねこながガラス容器ようきはいると、回転式かいてんしきのフタがきっちりとめられた。


「よし、もうここにようい」

 

 めたこえつぶやくジェファさん。

 さっきとは別人べつじんみたいに無表情むひょうじょうだ。

 手早てばや容器ようき小物入こものいれにおさめた彼女は、いままでの墓場はかばへの関心かんしんなんかわすれたみたいに、ひかりしこむ入口いりぐちへさっさとってしまった。


 ろうそくのあかりがくなって、あたりが真暗まっくらになる。

 ここは入ってすぐのところだけど、入口いりぐちからのひかり十分じゅうぶんにはとどかない。

 やみおくには、まだつかずの骨壷こつつぼ無数むすうならんでる。

 たくさんの霊達れいたちが闇の中からにらんでいるようながして、背筋せすじさむくなった。


やすらかにねむってください」


 やみかってあたまげ、ジェファさんのあといかけた。

 そとるとひかりがまぶしくて、すぐにけられない。


「これはおまえ仕業しわざかっ!」


 おぼえのあるこえ怒鳴どなってる。

 ゆっくり目を開けると、マノスたち死体したいのそばに5人の男達おとこたちがいた。

 怒鳴どなっていたのはエウゲンで、のこりの4人はつのいから人間エネコスだと思う。


「私の部下ぶかころし、女達おんなたちがしたのかといているっ!」


 あのエウゲンのつめたい視線しせんが僕たちにさってくる。


 やっぱり誘拐ゆうかいはん親玉おやだまは、エウゲンで間違まちがいないみたいだ。

 でもまさか、くにの命令じゃないよね……?

 

「だとしたら、どうするのかね?」


 ジェファさんの調子ちょうし普段ふだんおなじだ。


「おのれ……」


 顔色かおいろえるエウゲン。


 エウゲンのとなりにいたおとこが、こまってようにくびをふった。

 頭巾ずきんつきのくろ外套がいとうにまとい、かお骸骨がいこつみたいなのにだけがギラギラしてて、気持きもわるい。

 あとの3人もおなくろ外套がいとうて、それぞれかたふくろかついでいる。

 

「エウゲン殿どの約束やくそくちがいますな。要求通ようきゅうどおり、わざわざ金貨きんか用意よういしたというのに。部下ぶか忍耐強にんたいづよいですが、かなりの重労働じゅうろうどうですぞ」


 骸骨男がいこつおとこ部下ぶかかついでいるふくろたたいてみせた。


「しかし、オカン殿どの当方とうほうとしても予想外ようそうがい事態じたいです。取引とりひきは、また後日ごじつにさせていただきたい」


 オカンとばれた骸骨男がいこつおとこ人差ひとさゆびほほをかきながら溜息ためいきいた。


仕方しかたないですなぁ。まあ、くすり材料ざいりょうげられては、こちらとしてもお手上てあげだ。――とにかくいまは、このおさめてしまいましょう。さっさと黒妖精くろようせい子供こども始末しまつしてください」


「わかりました」


 エウゲンは上着うわぎふところからじゅう取出とりだして、ジェファさんにけた。


余計よけいなことをしなければ、なずにんだものを」


 そう言って引金ひきがねをひくエウゲン。

 銃声じゅうせいひびき、ジェファさんのうしろろの岩壁いわかべたまたり、いわがくずれた。


なに?!」


 エウゲンがまゆをひそめる。

 ころしたとおもったジェファさんが平然へいぜんっているからだ。

 あせったエウゲンは、立続たてつづけに二発にはつ発射はっしゃした。

 でもたまは、やっぱりジェファさんのうしろのかべをくずすだけだった。

 引金ひきがねかれる瞬間しゅんかん、彼女は身体からだよこってたまをよけてるんだ。


「ふむ、てなければころせんが?」


化物ばけものめ……」


 忌々いまいましげにジェファさんをにらむエウゲン。


「――いけませんな。あの黒妖精くろようせい危険きけんだ。あれほどのうごき、尋常じんじょうではない。不本意ふほんいながら、お手伝てつだいさせていただこう」


 そう言ってオカンは、エウゲンのよこった。

 部下達ぶかたちかたからふくろろす。

 周囲しゅうい殺気さっきが立ちこめてくる。


 オカンは右手みぎて人差ひとさゆび中指なかゆびかおまえてて、じる。

 すぐに指先ゆびさきあおひかりだした。

 魔導まどう使つかだ。


「私は三冠ビナルくらいけるウシュメ王国筆頭魔導博士おうこくひっとうまどうはくしオカン・ベレケトである。黒妖精くろようせいよ、ころまえなんじいておこう」


 突然とつぜん、はははとわらいだすジェファさん。

 オカンはギラギラした目をげた。


なに可笑おかしいっ!」


「オカン、私のことをわすれたのか」


「何だと……?」


目玉骸骨めだまがいこつよ、このこえおぼえがないのか」


 オカンは目をほそめて、ジェファさんをつめる。 


「おぬし、まさか……。シェイマか……」


 くびかたむけて微笑ほほえむジェファさん。


「そうだったのか……。普段ふだんから仮面かめんをつけていたのは、自分じぶん黒妖精くろようせいであることをかくすためか」


「おまえのぞんだ地位ちいれたようだな」


「ふふ、おぬし出奔しゅっぽんしてくれたおかげで、筆頭ひっとうになることができた。そのてん感謝かんしゃしておるよ。――くにから命令めいれいておるぞ。おぬしを見つけたらつかまえてもどせと。それが不可能ふかのうならばころせとな。一応聞いちおうきいておくが、ウシュメにもどはないのか?」


薄汚うすぎたない人間にんげんどもに、ふたたつかえろだと? ありえんはなしだ。ウシュメにいたとき、私がどれだけ苦悩くのうしていたか、お前にわかるまい。しかしつとめをまっとうするため、えるしかなかった。――くだらん人間にんげんくにられて、いまれとした気分きぶんなのだよ」


 ジェファさんは手をひろげ、そら見上みあげた。


「そうか、それをいて私も安心あんしんしたよ。おぬしもどってくれば、私の地位ちいあやうくなるからな。――あとは、おぬしぬことで、すべてまるおさまるわけだ」


「シラミに似合にあいの下劣げれつかんがえだな。まあ、やってみるがいい、いやしい人間にんげんよ。死力しりょくをつくし、運命うんめいあらがってみせよ」


 オカンは指先ゆびさきをジェファさんにける。

 先端せんたんからキラキラひかいとのようなものが出て、すごいいきおいでジェファさんにんだ。 

 ジァファさんは、半身はんみになって、それをかわした。


 いとのようなものは、ジェファさんのうしろにある岩壁いわかべに、みるみるあなをあけていく。

 いわくずと一緒いっしょみずしぶきが、ぼくかおまでんできた。

 ひかいとは、水流すいりゅうだった。

 みず元素魔導けんそまどうだ。


 オカンはジェファさんをいかけるように指先ゆびさき水平すいへいった。

 当然とうぜん水流すいりゅうも彼女を切裂きりさくよう水平すいへいうごく。

 られる寸前すんぜん、ジェファさんはがって空中くうちゅう回転かいてんし、オカンたちうしろに着地ちゃくした。

 部下達ぶかたちあわてて人差ひとさゆびをジェファさんにける。


「ちっ」


 舌打したうしたオカンもかえる。

 そのときジェファさんからくろもやのようなかげがあふれ出して、彼女をまるつつむようにひろがったんだ。

 部下達ぶかたちから炎弾えんだん雷弾らいだん土弾どだんが、オカンからは水流すいりゅう発射はっしゃされ、一斉いっせいにジェファさんをおそった。

 でもくろもやれたとたん、すべてが跡形あとかたえてしまった。


「――元素げんそえただと! 何をした、シェイマ!」


 オカンがおびえたかお怒鳴どなった。


いやしき人間にんげんよ、魔導まどう絶対ぜったいだとでも思っていたのか。――恃気エスラルでは拘気ユムルこくすることはできないのだよ」


拘気ユムル?! なんだ、それは?!」


にゆくものに、不要ふよう知識ちしきだ」


 ジェファさんが言いてると、先端せんたんするどとがったくろ細長ほそながかげ四本よんほんもやからあらわれて、オカンと部下達ぶかたちむねさった。


「ぐはっ!」


 うめきごえをもらすオカン。

 4人はされてかたまっていたけど、かげ引抜ひきぬかれるとくずれるように地面じめんたおれた。

 むねあないているわけでもなく、ながれていない。

 けれど、かお苦痛くつうにゆがみ、ひどく黒ずんでいた。


 そのままピクリともしないオカン達。

 んだんだと思う。

  

 のこったエウゲンはすべてのたまをジェファさんにけてった。

 でも全部ぜんぶよけられてしまう。

 たまくなっても引金ひきがねつづけるエウゲン。

 恐怖きょうふかおが、ひきつってる。


 素早すばやちかづいたジェファさんは、エウゲンののどをつかんだ。

 彼女がうで持上もちあげると、エウゲンのあし地面じめんからはなれる。

 エウゲンは両手足りょうてあしをじたばたさせた。


「ふむ、きみらパトリドスにも拘気ユムルつうじれば、いちいち手をくだす必要ひつようもないのだがね。面倒めんどうなことだ」


 言いえたジェファさんはエウゲンののどにぎりつぶす。

 にぶおとがしてくびから四方しほう飛散とびちり、うであしからちからくなって、だらりと垂下たれさがった。

 彼女が手をひらくと、エウゲンはくびられたにわとりみたいに地面じめんちた。


 ジェファさんが、こっちに振返ふりかえる。

 そして、ゆっくりとちかづいてくる。

 身体からだが、またふるえだす。

 今度こんどふるえは、さっきとはくらものにならない。

 ってられないくらいなんだ。


 まえったジェファさんはこしをかがめて、かおちかづけてきた。

 思わずひゅっとのどる。

 だって……。

 だって、彼女の目が……。


 ――めたように“真赤まっか”だったから。


 あおひとみんだ白目しろめくなって……。

 すべてがあかなんだ……。


 ジェファさんは悪夢あくむなか怪物かいぶつのように、にっとわらった。


「とんだ邪魔じゃまはいったが、あらためて先刻せんこく質問しつもんこたえよう」


 ふるえている僕のほほに彼女の手がやわらかくれた。


さきほど言ったとおり、私は人間にんげんにくみ、のろっている。やつらをほろぼすためなら、どんな手段しゅだんもいとわないほどにね。――1000年前ねんまえ、私と同輩どうはい人間にんげん滅亡寸前めつぼうすんぜんまで追詰おいつめた。しかしおろかなアイダンとエフトラン、そして狂人きょうじんのビルルルが、フェルハトとフゼイフェに手をしたせいで、私達の計画けいかく失敗しっぱいわった」


 1000年前……。

 それって『災厄さいやくとき』ってこと……?


最大さいだい敗因はいいんはフゼイフェが使つかったパトリドスの古代兵器こだいへいきにある。あれのために匡主様きょうしゅさま分身ぶんしんである真嬌様しんきょうさま地上ちじょうから消滅しょうめつし、形勢けいせいやつらにかたむいた。同輩達どうはいたちころされ、結局けっきょく、私だけが生残いきのこるるはめになったのだ」


 ジェファさんは、ウラニアをおそった化物ばけもの仲間なかま……?


「この1000年間ねんかんは私にとって屈辱くつじょく時代じだいだった。だが人間にんげんへのつよ憎悪ぞうおが、私をささえてくれた。――そしていまようやく、あらたな計画けいかっく実行じっこううつすときがきた。それにあたり、最大さいだい障害しょうがいをとりのぞいておく必要ひつようがあるのだよ」


 最大さいだい障害しょうがい……。

 それってまさか……。

 僕のこころんだみたいに、ジェファさんがまた、にっとわらった。


最大さいだい障害しょうがい、つまりきみらパトリドスのことだ。二度にどとあのような兵器へいき使つかわせるわけにはいかないからね。――培養ばいようとはなにいたね。それは、細菌さいきんそだて、やすということを言う。つまり私はね、培養ばいようしたカシュントびょうをウラニアに蔓延まんえんさせて、パトリドスをほろぼそうとかんがえているのだよ」


 なみだが、あふれてきた。


「――あのとびらにあった文字もじめるかね」


 くびった。


古代こだいパトリダ文字もじだから無理むりもないな。――『とびらけるな。ければふたた疫病えきびょうひろまる危険きけんがある。故人こじんしのびたければ、じたとびらまえいのるにとどめよ』と文字もじうったえていた。あれはとびらというより封印ふういんだな」


「あ……、なたが……、はかさがし……ていたのは……、パ……、トリドスを……、ほろぼす……、疫病えきびょうを……、みつけるため……?」


 のどがつまって、うまくしゃべれない。 


「そうだ。パトリドスにつようらみはないが、人間にんげんに手をしたきみらをゆるすつもりはない。計画けいかく第一歩だいいっぽとして、このからえてもらう」


 すこわってるけど、綺麗きれいやさしいジェファさん。

 とうさんのつくった料理りょうり美味おいしそうにべてくれたジェファさん。

 ほっぺたにやわらかなくちづけをしてくれたジェファさん。

 父さんがベタれして結婚けっこんもうしこもうとしたジェファさん。


 でも今、目のまえっているひとは、だれなんだろう。

 この人はパトリドスを世界せかいからそうとしている。

 僕は……、僕は……、どうしたらいいんだろう……。

 どうしたら……、かったんだろう……。


 ジェファさんの手が、ほほからのどへとりていく。


「さて、キツォスくん質問しつもんにはこたえた。きみにもんでもらわないとな」


 のどをつかむ手に、だんだんちからがこもっていく。

 あまりにもつらくてかなしくて、まっていたおもいが勝手かってくちからていった。


「ジェファさん……、ぼくは……、あなたのことが……、大好だいすきでした……。とうさんは……、僕のかあさんに……、したかったみたいだけど……、僕は……、本当ほんとうは……、あなたの恋人こいびとに……、なりたかったです……」


 全部出ぜんぶだってしまうと、なんだかこころ落着おちついた。

 だから目をつぶり、最後さいご瞬間しゅんかんったんだ。


「――やはり、君は可愛かわいいな、キツォス君」


 ジェファさんの手がのどからはなれる。

 わりにやわらかでなめらかなものがくちびるれた。

 おそる恐るけると、それはジェファさんのあかくちびるだった。


 すぐまえ彼女かのじょかおがある。

 あたま混乱こんらんして、なにがなんだかわからない。


 くちびるはなれると、ものあおひとみもどったジェファさんが微笑ほほえんでいた。


「私の手できみころすことはやめておこう。ただし、私がはなしたことをらしてはいけないよ。もしらしたなら、君だけでなく、父上ちちうえもろとも村人むらびと皆殺みなごろしにすることになる。――約束やくそくできるかね?」


 何度なんどうなずいた。


「ふむ、はなしはついた。――君とはこれでおわかれだ、キツォス君。ただ、私が手をくださなくても、結局君けっきょくきみぬことになるだろう。いまのうちにやりたいことは、やっておくといい」


 くるりとけたジェファさんは、階段かいだんかってあるき出した。

 

「ジェファさんっ! ジェファさんっ!」


 何か言葉ことばをかけたかったけれど、名前なまえしか出てこない。

 わりにたくさんのなみだが、またあふれてくる。

 階段かいだんのぼるジェファさんは、途中とちゅう不意ふい立止たちどまって言った。


「ジェファというは1000年前にてたものだ……。今の私はシェイマ・タルハンという。まんいち、君が生残いきのこることがあったなら、そので私をさがすがいい」


 そう言残いいのこしてジェファさんだったシェイマはもり姿すがたした。

 でも、しばらくすると歌声うたごえこえてきたんだ。

 それは、あのときのうただった。

 でも、つづきがあったみたいだ。


「――はかなきかな、はかなきかな、

 いうかいなきものどもよ。

 たよわきおよびのつめ

 よさんをとらわんと、

 たかがごとくいらめけり。

 めっせんかな、めっせんかな

 うぞうみながら、めっせんかな。


 ひとよ、るがいい、なんじがあくぎょうを

 ゆめゆめに、ゆるすことあたわず。

 人よ、くがいい、なんじのゆくすえ

 からからと、われはらかん……」


 そのあとしばらく、ジェファさんがえたもりをボーッとながめていた。

 でも、さらわれた人達ひとたちのことを思い出した。

 だから、ほっぺたを両手りょうてたたいて気合きあいを入れ、エウゲンの死体したいからのついた身分証みぶんしょうってふところにしまった。

 そしてつた使つかってたにわたったんだ。


 むらかえりついてすぐ、村長そんちょうにエウゲンたちのことをはなした。

 最初さいしょ相手あいてにされなかったけど、身分証みぶんしょうを見せると態度たいど一変いっぺんした。

 村長そんちょうは、すぐにパゲトナスの警備局けいびきょく伝令でんれいおくり、よるになって警備隊けいびたいむら到着とうちゃくした。


 警備隊けいびたいもりかくれていた女性達じょせいたち救出きゅうしゅつし、窪地くぼちでエウゲンたち死体したい確認かくにんしたみたいだ。


 そして、むら捜査本部そうさほんぶもうけけられたんだ。

 ぼく事情じじょうかれたけど、疫病えきびょうのことはだまってるしかなかったし、ジェファさんのことは、みんなたすけるためにたたかってくれたってことにしておいた。

 もちろん、あの墓場はかば調査ちょうさされたけど、あまり重要視じゅうようしされなかったみたいだ。

 捜査そうさ結果けっか誘拐事件ゆうかいじけんすべててウシュメ王国おうこくと手をんだエウゲンの仕業しわざってことになった。


 村は、警備隊けいびたい駐屯ちゅうとんしたんで、一時賑いっときにぎやかだったけど、捜査そうさわるとまえよりいっそうさびしくなった。

 ジェファさんが、いなくなったこともあるかもしれない。

 父さんは落込おちこんで、またさけりょうえた。

 でも、潮騒しおさいは、ちゃんと営業えいぎょうしてる。


 捜査そうさわっても、疫病えきびょうでパトリドスをほろぼすというジェファさんの言葉ことばあたまからはなれなかった。

 こわくてねむれないこともあったんだ。

 けど、時間じかんつにつれて、恐怖きょうふうすれていった。

 むららしは以前いぜんわりなく、退屈たくつ平凡へいぼんぎていったからだ。

 そしていつしか、あれはジェファさんのわる冗談じょうだんだったのかもしれないと思うようにさえなっていたんだ。


 パンジャのつきになって、ウラニアのおおきなまちでは『奉迎祭ほうげいさい』が盛大せいだいおこなわれた。

 たくさんのさけ食事しょくじがふるまわれ、芝居しばい見世物みせもの小屋ごやが、あちこちに立った。

 ねん数度すうどのおたのしみに、みんなかれさわいだんだ。


 まつりから半月はんつきぐらいたったころ、集会しゅうかい村長そんちょうがこんなはなしをした。

 ウラニアの南部なんぶにあるまちで、正体不明しょうたいふめい病気びょうき流行りゅうこうはじめたそうだ。

 その病気びょうきになると皮膚ひふあかくただれ、全身ぜんしんくさってぬらしい。

 まだ北部ほくぶひろがってはいないがをつけるようにってことだった。


 あたま真白まっしろになった。

 わすれていた恐怖きょうふもどってきた。

 彼女は、とうとうはじめたんだ。

 パトリドスを抹殺まっさつする計画けいかくを……。

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