第33話 ヘタレの勇者に成りたがり<4>

 もう少しそとにいたいからって言うヒュリアをのこし、騎士団きしだん対抗たいこうする方法ほうほうなやみながら屋敷やしきへともどります。

 すると玄関げんかんよこいたあなから、ジョルジがこちらをうかがっているのが見えました。

 

「いろいろ、ご迷惑めいわくかけてぇ、すみません」


 中にはいるとすぐ、ジョルジがあやまってきました。

 あおよろいえていて、もとのひょろもどってます。


「あのよろい、しまえたんだ」


「はい。アティシュリ様の御指導ごしどうもあり、なんどか自分じぶん意志いしでぇ、おさめられましたぁ」


「まだ統一化とういつか不完全ふかんぜんだがよ。よろいれをあやつれるってことは、『ジョビジ』のやつが『ジョバシ』と協調きょうちょうしようとしてる証拠しょうこだ。まあ、にくうことに抵抗ていこうがなくなれば、ちゃんと統一化とういつかできるだろうよ。――しかし、もん世界せかいほろぼしかねねぇとはな。ときどき人間にんげんってやつがわからなくなるぜ……」


 アティシュリはかるくびをふりました。

 人間の性状せいじょうなんて霊龍れいりゅう様には理解りかいしがたいでしょう。

 でも、ものうらみはおそろしいなんて言葉ことばもあるぐらいですから……。

 食事しょくじには人間にとって重要じゅうようなレゾンデートルがあるんだって思えますね。


「じゃあ、よろいを出すこともできるの」


「はい、どっちも。すこしばかり、時間じかんはかがりますがぁ」


 なんだか、なまりもなおってきてますな。


「しゃべりかたわった?」


「はい、英雄えいゆうになるつもりならぁ、なるだけ標準語ひょうじゅんごはなせってぇ、タヴシャンさんに言われましてぇ」


「そうよぉ、なまってるだけで見下みくだしてくるいややつもいるからさぁ。英雄目指えいゆうめざすんなら、今のうちになとしといたほうとくよ」


 さすがはタヴシャンさん、人間社会にんげんしゃかいの中で長生ながいきしてるからこそのアドバイスですね。

 アティシュリさんとは一味違ひとあじちがいます。


「あのぉ、ヒュリアさんはぁ……、やっぱりぃ、オラに出て行けとぉ……?」


 おずおずとたずねてくるジョルジ君。

 とりあえず、ここにいたいのかどうか、彼の意気込いきごみをっとかないといけません。


「アティシュリさんは、ここにいてやってくれって言ってたけど、本当ほんとのところジョルジ君はどうしたいんだい?」


「――オ、オラ、できればあのちから自分じぶんのもんにすてぇです。そしたらきっど、このやくでると思っでます。そんためにはアティシュリさんの御指導ごしどうがどうしても必要ひつようだって、かんじましたぁ。だから……、できればぁ……、ここさ、いでしいです……」


「でもヒュリアがいやだと言ったら出て行くの?」


 ちょっと意地悪いじわるしてみます。

 ジョルジ君はかお真赤まっかにして、うつむきました。


土下座どげざでも何でもすて……、ヒュリアさんにおねがいします……」


 その意気いきし。


「そっか、気持きもちはわかったよ。――大丈夫だいじょうぶ、ヒュリアは君をここにいてもいいってさ」


 がばっと顔をげるジョルジ君。

 まったなみだがキラキラしてます。


「あ、ありがど、ご、ごぜぇます……。ツクモさんが説得せっとくしてくだすったんですねぇ」


「いや、べつに何もしてないけど」


 ジョルジは僕の手をり、何度なんども頭を下げます。

 するとチャイムがって羅針眼らしんがん立上たちあがりました。


『ジョルジ・エシャルメンを盟友登録めいゆうとうろくしてください。ただし、登録とうろくには登録者とうろくしゃによる口頭こうとう承諾しょうだく必要ひつようです』


 おっと、そうたか、耶代やしろさん。

 ジョルジ君も盟友めいゆうにする必要があるわけね。

 たぶん増築ぞうちくして、ジョルジ君の部屋へや仕上しあがるだろうから、プライベートスペースの確保かくほもできますね。

 一石二鳥いっせきにちょうです。

 タヴシャンさんは、ずっと錬成室れんせいしつてましたから。


「ジョルジ君、ここにいるにあったって君に一つおねがいがあるんだけど」


 アティシュリのときとちがって説得せっとくむずかしくないでしょう。


「は、はいぃ、オラにできることなら、何でもしますぅ」 


「ヒュリアの盟友めいゆうとして君を登録とうろくさせてしいんだけど、いいかな?」


「ヒュリアさんの盟友めいゆう? ――オラみでぇなもんで、よければ……」


「よしっ、じゃあまりね」


「おいおい、ツクモ、ジョルジを盟友登録めいゆうとうろくするってのか?!」


 警戒気味けいかいぎみのドラゴンねぇさんが、ジョルジのそばにやってきます。


「そんなことしたら、俺みたいにちからうばわれんじゃねぇのか?」


「まあ、そうかもしれませんけど、一日寝いちにちねれば全快ぜんかいするでしょ。それに、ジョルジ君の部屋へや増築ぞうちくされるだろうから、ここにいるには都合つごうがいいんじゃないですか」


 どっかのだれかさんは三日みっかてましたけどね。


「ふん、結局けっきょく、てめぇとヒュリアに都合つごういってことなんだろ」


「もちろん、そのとおりです。否定ひていは、しませんよ。宿泊費しゅくはくひわりぐらいに思ってもらえるとたすかります」


「ああ、もういいっ! ジョルジ、このアホの言うとおり、登録とうろくしてやってくれ」


「――わ、わがりましたぁ」


 ジョルジ君は僕とアティシュリのやりとりが、いまいち理解りかいできてないみたいです。

 まあ、耶代やしろのことや、アティシュリさんの正体しょうたいについては、おいおいわかってもらうことにしましょ。

 でもきっと、ドラゴンだって知ったら腰抜こしぬかすんじゃないかな。


「では、ジョルジ・エシャルメン君。盟友登録めいゆうとうろく承諾しょうだくしてもらえますか?」


「はい、もつろん、承諾しょうだくさせでいただきますぅ」


 おなじみのチャイム音とともに羅針眼らしんがんから報告ほうこくはいります。


盟友登録めいゆうとうろく完了かんりょうしました。これより屋敷やしき建替たてかえおこないます。建替たてかえにあたり、屋敷内やしきないにいるすべての居住者きょじゅうしゃ一時的いちじてき屋外おくがい退去たいきょさせてください』


 へっ?

 建替たてかえ

 増築ぞうちくじゃないの?

 しかも退去たいきょって?

 そしてひくくうなるようなサイレンのおと屋敷内やしきないひびわたりました。


「どうした?! 何があった?! おい、ツクモ!」


 アティシュリが怒鳴どなります。

 ジョルジ君とタヴシャンさんはアワアワして右往左往うおうさおうです。


「どうした、ツクモ!」


 ヒュリアもあわててもどって来ました。


「みなさん! 落着おちついてください!」


 手をパンパンとたたいて、アテンションプリーズします。


「今から『建替たてかえ』しますんで、そのあいだ、外に出ててもらいます」


建替たてかえ? 増築ぞうちくじゃねぇのか?!」


 アティシュリがめてきます。


「はい、どうもちがうみたいです。でも僕にもよくわかりませぇん」


 両手りょうてひろげ、お手上てあげのポーズをめました。


「ちっ、てめぇときたら、いつもそれだ。何のための耶宰やさいなんだか、わかりゃしねぇ」


「とにかく外に出ましょう」


 ヒュリアが誘導ゆうどうします。

 全員ぜんいんが外に出てると、不気味ぶきみなサイレンはみました。


 すると最初さいしょに『修繕しゅうぜん』したときのように、屋敷やしきのある空間くかんが、ぼやけてユラユラとはじめます。

 ただ以前いぜんとは少しちがっているてんも。

 空間くうかんは、れながらひろがっていってるんです。

 とく上下じょうげびてる気がします。

 それに修繕しゅうぜんのときよりも、かなり時間じかんかってますね。


 しばらくしてれがおさまると、全員ぜんいんいきみました。

 そこには、あかいレンガづくふう二階建にかいだての建物たてもののが出来できあがっていたのです。


二階建にかいだてじゃねぇか……。しかも一回ひとまわり大きくなってやがる……」


「すごいですねぇ、こんなのはじめて見ましたわぁ」


「俺もだよ」


 ドラゴン姉さんもロシュ姉さんも、度肝どぎもかれたご様子ようす

 ながくこのにいる二人でもはじめて見る光景こうけいなんでしょう。


「こりゃ、たまげたなやぁ……。 なじょすて、こだごとになっだっぺやぁ……」


 何がこったのかわからずポカンとしているジョルジ君。

 なまりが、もどってますね。


「あらためて見ると本当ほんとうおどろくべき魔導まどうだな……。無生物むせいぶつであるはずの屋敷やしきが、生物せいぶつのように成長せいちょうする。奇跡きせきと言っても過言かごんではない……」


 感嘆かんたんしてるヒュリア。

 ちょっとドヤ顔をしたくなっちゃいます。

 もちろん、表情筋ひょうじょうきんいんで、出来できないんですけどねっ。


 チャイム音がして羅針眼らしんがんから結果報告けっかほうこくはいります。


屋敷やしきから食堂しょくどうへの建替たてかえ完了かんりょうしました』

『ジョルジ・エシャルメンの部屋へや造設ぞうせつされました』

現状げんじょう耶代やしろらん変更へんこうがあります』

拡張霊器かくちょうれいき1から倉庫そうこ機能きのう使用可能しようかのうとなりました』

あたらしい任務にんむがあります』

転居てんきょ可能かのうとなりました。転居先てんきょさき指定していおこなってください。ただし指定していは、耶宰やさい転居先てんきょさき臨場りんじょうしておこな必要ひつようがあります。また転居回数てんきょかいすう一度いちど限定げんていされています』


 うわっ、たくさんありますね。

 とにかく、一つずつ見てきましょう。


 ますは『建替たてかえ』です。

 赤いレンガづくりの外観がいかんが、食堂しょくどうってますねぇ。

 きてるとき、よくかよっていた近所きんじょ洋食屋ようしょくやさんに、どことなく似てるんです。


 でもなんで食堂しょくどう

 これは異世界食堂いせかいしょくどうをやれという指示しじなんでしょうか?

 『調理ちょうり』の機能きのうを使えば、むずかしくはないとは思いますが……。

 ちょっとチートっぽいけど、まあいっか。

 料理りょうりするのきですから。


 それと、ジョルジ君の部屋へや、ちゃんとできてましたね。

 安心あんしんしました。


 次に『現状げんじょう』の『耶代やしろらん』の変更へんこうについてです。

 ひらいてみると、『木造平屋もくぞうひらや』だった表示ひょうじが『バアづくり二階建にかいだて』になってます。

 “バア”づくり

 もしかしてあの城蟻ディヴィク君が自分の唾液だえきから作った赤いセメントみたいなやつですか。

 つまりこのレンガづくふう外観がいかんは“バア”で仕上しあげられてるってことですね。


 なるほど、だから耶代やしろは、“バア”をあつめてたんだ……。


 それから『バア造二階建づくりにかいだて』のすぐしたに、こんな新しい表示ひょうじあらわれてました。


種類しゅるい食堂しょくどう


 私、食堂なんですよ、っていう耶代やしろ自己主張じこしゅちょうっぽいですなぁ。


 もう一つ気になるのが『耶代格位やしろかくい』のパラメーターです。

 数値すうちが15/100になってます。

 これ100になったらどうなるんでしょう……。

 ちょいこわです。


 そして『拡張霊器かくちょうれいき』からの『倉庫そうこ使用しようについてですけど。

 これはいいですね。

 僕も外に出られるようになったんで、まさにアイテムボックスみたいに使えるわけです。


 まあでも、ここまでは、ほんの挨拶代あいさつがわりでしょうかね。

 本番ほんばんは、こっからです。


 まずは、あたらしい『任務にんむ』から。

 任務にんむ項目こうもくを見てみます。


任務にんむ:1、古代こだい疫病えきびょう蔓延まんえん防止ぼうしし、終息しゅうそくさせる』

『2、耶卿やきょうによる尸童よりまし成造せいぞう完遂かんすいさせる』


 任務にんむが二つ、しれっとあります。

 一つでも大変たいへんだったのに、二つもかよぉ……。


 古代こだい疫病えきびょう終息しゅうそくさせる……?。

 なんか不吉ふきつ予感よかんしかしないんですけど……。

 こえぇなぁ……。


 それと、尸童よりまし成造せいぞう……?

 またヒュリアにつくらせようってことなんでしょうけど……。

 『尸童よりまし』って何なんでしょう?


 どっちも情報不足じょうほうぶそくで、保留ほりゅうするしかありません。

 はぁぁ、気がおもいです。


 そして最後さいごの『転居てんきょ』。

 とりあえず説明せつめいを見てみます。


現在位置げんざいいちより耶宰やさい指定していした位置いち瞬間的しゅんかんてき耶代やしろ空間転移くうかんてんいさせるもの』


 瞬間的しゅんかんてき空間転移くうかんてんい?!

 つまりテレポート、ワープのことですかいな!

 こいつは、すげぇな耶代やしろさん!


 これが可能かのうなら、ヒュリアが心配しんぱいしてたことの解決策かいけつさくになります。

 つまり、1まん騎士きしなんかとたたかわないで、耶代やしろごとげちゃえばいいってわけです。

 こりゃ良い!

 マジで良い!


 ジョルジを登録とうろくしたことで、空間転移くうかんてんいできることになったってことは、もしかすると『ジョルジビジター』が平行世界へいこうせかいから来るときに、次元じげん空間くうかんなんかをえてきたからってことでしょうか?

 そう考えると納得なっとくがいきます。


「おい、ツクモ。耶代やしろが、また何か言ってきやがったのか?」


「まあ、そうなんですけど……」


「かなりまずいことか?」


 世界せかい守護者しゅごしゃが少しビビってます。

 僕は、この建替たてかえをきっかけに、漠然ばくぜんとしていたヒュリアと僕がすすむべき当面とうめん目標もくひょうを、設定せっていすることにしました。

 それは、食堂しょくどうでおかねめて、ヒュリアの私設軍しせつぐんをつくることです。


「えーと、今回こんかい建替たてかえにあたりまして、重要じゅうよう発表はっぴょうが二つあります」


 全員ぜんいん今度こんどは何がこるのかって感じで顔がこわばってます。


「まず一つ目、僕はこれから食堂開店しょくどうかいてん準備じゅんびにとりかかろうと思います」


「――はぁ? 何を言ってんだ、てめぇは。食堂しょくどうだと? どういうことだ?!」


 ドラゴン姉さんの目がてんになってます。

 でも今はこたえずにはなしすすめましょう。

 うても、もう一つの方がメインですから。


「そして、こっちの方が重要じゅうようなんですが……」


 シーンっていう音が聞こえてくるくらい、しずまりかえります。


「――僕達ぼくたち、“引越ひっこし”します!」


引越ひっこしぃぃぃぃ?!!!!」


 はいっ、みなさんで御唱和ごしょうわ、ありがとうございましたっ。


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