第32話 ヘタレの勇者に成りたがり<3> 

 バシャル滅亡めつぼう

 ヒュリアとタヴシャンは目玉めだま飛出とびでるくらいおどろいてます。

 そりゃそうですよね。

 魂露イクシルのときとはくらべものにならない大問題だいもんだいですから。


 でもすでに僕、解決かいけつする方法ほうほうを見つけてはいるんです。

 備考欄びこうらんのヒントの中にジョルジの状況じょうきょうに、あてはまるのがありまして。


英雄願望えいゆうがんぼうのモヤシおことにはにくべさせる』


 英雄願望えいゆうがんぼうがあって、ヒュリアに言わせるとひょろひょろ、つまりもやし男。

 そして一番いちばんめ手は“肉”が苦手にがてってことでした。

 つまりジョルジに肉を食べさせることができれば、きっと解決かいけつすると思うんですよね。

 ただ、問題もんだいは、どうやって食べさせるかです。


「まぎらわしいんでべつ世界せかいからたジョルジを『ジョビジ』、バシャルのジョルジを『ジョバシ』とぶことにしましょうか」


 『ジョビジ』はジョルジビジター、『ジョバシ』はジョルジバシャルのりゃくです。


「なんだそりゃ、名付なづけの才能さいのうねぇなぁ、てめぇは」


 アティシュリの心底しんそこ馬鹿ばかにしたかんじの視線しせんが、僕のこころにクリティカルヒットです。


「い、いいじゃないすか、区別くべつさえつけば……」


 タヴシャンさんはニヤニヤしてますし、ヒュリアはあきらめた感じでかたをすくめます。


 ヒュ、ヒュリアまで……。

 そんなにネーミングセンスいかなぁ。

 まあたしかに、ゲームのキャラ名決めるときの定番ていばんは『ツクエモン』とか『味付あじつけモクツ』だったけどさぁ……。


 頑張がんばれ、僕!

 いいんだよ、こんなんセンス無くたって!

 名前なまえへんだって、にゃあしないんだから!

 いや、死んでるんですけどねっ!


「と、ところで、アティシュリさん、このよろいって部分的ぶぶんてき解除かいじょできないんですか?」


「ああっ? できるはずだがな。ひとうときなんざ、顔出かおださなきゃなんねぇから、かぶと部分ぶぶん解除かいじょ可能かのうだったはずだぜ。フェルハトもよくはずしてたしな」


「そうですか。だったらまず、『ジョビジ』君の方にかぶと解除かいじょしてもらって、肉を食べてもらいましょうか」


「はぁ? 何言なにいってんだ、てめぇ」


「あのですね、耶代やしろがジョルジ君に肉を食べさせろって言ってんですよ」


「肉をわせる……? そりゃあどういうことだ」


「僕の予想よそうですけど、二人のジョルジ君のちがいって、肉を食べられるかどうかだと思います」


 アティシュリはあなくほど見つめてきます。

 そして、にょーってさけびながら、両手りょうてで頭をかきむしりました。


「まったくよぉ……。てめぇのはなしいてると、真面目まじめにバシャルの行末ゆくすえあんじてる俺がバカみてぇに思えるぜ……。肉が食えるかどうかに、バシャルの命運めいうんがかかってるだと! ふざけた話だなっ! マジでっ!」


 はいはい、ご愁傷様しゅうしょうさまです。


「とにかく、やってみますんで」


 僕は『ジョビジ』にかたりかけます。


「えーと、お肉食べられますか?」


「ニク……」


「せっかくつくったんで、めないうちに食べてもらえるとうれしいんだけど」


 テーブルの上のステーキを指差ゆびさします。

 『ジョビジ』は、つられるようにテーブルまであるいていき、ステーキの前に腰を下ろしました。

 そしてフォークとナイフを手にってステーキを一口大ひとくちだいり、口にはこびます。

 でも当然とうぜん顔面がんめんおおっているかぶとが食べることを邪魔じゃまするわけです。


 『ジョビジ』は、なんとか食べようとして口元くちもとに肉をこすりつけてますが、どうにもなりません。

 しびれを切らし、またあのたけびを上げると、フォークとナイフをかべげつけました。


 タヴシャンのかおよこを、ものすごいきおいでんだフォークとナイフは、深々ふかぶかかべさります。

 ヒッとこえげてこしかすタヴシャン。


 イライラして立上たちあがろうとする『ジョビジ』のかたをポンポンとたたくようにしてしとどめます。

 攻撃こうげき間違まちがわれないように細心さいしん注意ちゅういはらわなければなりません。


 まあでも、たとえ攻撃こうげきされたとしても、僕はいたくもかゆくもないんですけどね。

 耶代やしろの中じゃ、耶宰やさいへの攻撃こうげき無効むこうになりますんで。

 ただ、ヒュリアやタヴシャンにまで被害ひがいおよぶのはけなくちゃです。


「まあまあ、落ちいて。まずは顔面がんめんおおっているかぶとをとってみようか」


 提案ていあんを聞いた『ジョビジ』は、両手りょうてほほのあたりをさえて持上もちあげ、かぶとごうとしました。

 もちろん無理むりまってます。

 見た感じよろいかぶと一体化いったいかしてますから。


「それじゃげないと思うよ。たぶんなんだけど物理的ぶつりてきぐんじゃなくて、ごうとする意志いし重要じゅうようなんじゃないかな」


 『ジョビジ』は背筋せすじばして、精神せいしん集中しゅうちゅうさせはじめました。

 かなりの時間じかんそうしてましたが、何もこりません。

 『ジョビジ』は、キレ気味ぎみにまたたけびを上げました。


「何でげないんですかねぇ?」


「そうだな、何かが解除かいじょする意志いし妨害ぼうがいしてんだと思うけどよ……」


 アティシュリもくびをひねります。


「『ジョバシ』のほうが肉を食べたくなくて、邪魔じゃましてるんじゃないか」


「――! なるほど! きっとそれだ!」


 ヒュリアのご明察めいさつおそります。


「――もしもぉし、こころなかにいるバシャルのジョルジ君」


 ジョルジのうしろに立って、あたまの上からおもてに出てきていない『ジョバシ』の方に話しかけます。


「君が肉を食べたくない気持きもちちはよくわかる。僕もきてるときはパクチーとかセロリとか食べられなかったからね。でもさ、もし君が肉を食べなければ統一化とういつか不完全ふかんぜんのままで、最後さいごには大爆発だいばくはつこし、バシャルは滅亡めつぼうするんだよ。君、言ったよね、英雄えいゆうになってこまってる人や、ひどい目にあってる人をたすけたいって。このままだと、君がバシャルの人をひどい目にあわせることになるんじゃないの?」


 しばらくすると、ふいにかぶと部分ぶぶん消失しょうしつして、生身なまみの顔があらわれました。

 説得成功せっとくせいこうしたようです。

 ただ、かぶとの下からあらわれたのは、ヒュリアにおびえていた少女しょじょのようではなく、強気つよきで男らしいけれどふかかなしみたたえ表情ひょうじょうでした。


 『倉庫そうこ』からあたらしいフォークとナイフを取出とりだして手渡てわたすと、『ジョビジ』はあらためて肉を切り、口に入れました。


「ウマイ……」


 肉をみしめる『ジョビジ』の目から、なぜか大粒おおつぶなみだがこぼれます。


「トウサン……、カアサン……、パンドラ……、タスケラレ……、ナクテゴ……、メン……」


 言いえた途端とたん、フォークとナイフが手からはなれてテーブルにち、んだ金属音きんぞくおんを立てました。

 そして、おなじみのなまりがもどってきます。 


「――オ、オラ、なぬすてた?」


 ジョルジは目の前にステーキがあることを知ると、また気持きもわるくなったのか口に手をやりました。

 ところが、あおよろいの手だと気づき、声を上げます。 


「なじょしたぁっっ?!」


 椅子いすから立上たちあがり、自分じぶん身体からだ見回みまわすジョルジ。

 首からうえ生身なまみで、身体が青いよろいなのに気づき、アワアワしてます。


「ジョルジ、お前の暴走ぼうそうめる手段しゅだんが見つかったぜ……」


 アティシュリが、つかつかとジョルジの前にき、その顔を見上みあげます。

 ビビっているジョルジのむね人差ひとさゆびをつきつけ、ドラゴンねぇさんは容赦ようしゃない死刑宣告しけいせんこくをくだしました。


今日きょうからかならず、一日一度いちにちいちどは肉をえ。いいな」


「そ、そげなごど……」


「もし、これをやぶったら……」


 ドラゴン姉さんは人差ひとさゆびこぶしえ、ジョルジにかるはらパンを食らわせます。


「――爆発ばくはつして死ぬよりもおそろしい最後さいごってると思えよ」


「てほぉぉぉぉっ!!!!」


 ジョルジは絶望的ぜつぼうてき悲鳴ひめいをあげました。


「それとツクモ、こいつを当分とうぶんここにいて肉料理にくりょうりを食わせてやってくれるか?」


「僕はべつかまいませんけど……」


 アティシュリの提案ていあん真向まっこうから反対はんたいする人物じんぶつ一人ひとり


「ひょろひょろ男をここにくなんて、私は反対はんたいだからな、ツクモ」


 ヒュリアはムキになってます。


「おい、ヒュリア。ジョルジの具合ぐあいにゃあ、バシャルの命運めいうんがかかってんだぜ。こいつをここで保護ほごしなかったら、またどこかで暴走ぼうそうしちまうだろうが」


「だったら、アティシュリ様が御自分ごじぶんのおすまいにれていって、保護ほごすればいいじゃありませんかっ!」


「俺は料理りょうりなんか、できねぇんだよ!」


「とにかく! こんな女男おんなおとこらすのは、絶対嫌ぜったいいやだからな、ツクモ!」


 てるように言ったヒュリアは、そと飛出とびだしていきました。 


「ったく、さっきから何をムキになってんだぁ、あいつは」


 うでんだアティシュリは、こまった感じで首をりました。


わかくて可愛かわいい男の子が来たかられてるんじゃないですかぁ」


 ロシュねぇさんのハズれの一言ひとこと


「オ、オラのせいだべ……」


 ジョルジ君は、サゲ状態じょうたいです。


「ちょっと見てきます」


 僕はヒュリアをってそとに出ました。

 屋敷やしきまわりを見てまわると、ヤルタクチュの親株おやかぶが見えるところに、ヒュリアが体育座たいくずわりしているのをみつけました。

 外は太陽たいようかたむはじめ、景色けしきがオレンジがかってきています。


「ヒュリア」


 んでもかえりもしません。

 仕方しかたなくヒュリアのよここしをおろします。

 だまったままでいると、彼女の方が口を開きました。


「なんで神様かみさまは私に復体鎧チフトベンゼルをくださらなかったんだろう。あのちからがあれば、いのちとさずにすんだ人達ひとたちがいたはずなんだ……。あんな、ひょろひょろの女男おんなおとこなんかに……」


「――まあ、ジョルジ君もきであの力を手にれたわけじゃないんだしさ。むしろ相当酷そうとうひどい目にあってきたんだと思うよ。それに下手へたすればバシャルを滅亡めつぼうさせかねないわけでしょ。英雄えいゆうになりたいなんていう正義感せいぎかんを持ってるぶん精神的せいしんてきに、かなりまいってんじゃない?」


 ヒュリアは僕に顔をけます。


「私はべつに、あいつをきらってるわけじゃないんだ。ただ……」


「――気がわない?」


 こくりとうなずくヒュリア。


「ヒュリアってさ、皇帝こうていになったら、たくさんの臣下しんかかこまれることになるよね」


「ああ、たぶんな」


臣下しんかにもいろんなやつがいるでしょ。たとえばさぁ、性格せいかくとか態度たいどとか、すげぇわるやつなんだけど、うしろに帝国ていこくささえてるような勢力せいりょくがついてる貴族きぞくとかが臣下しんかになったとき、ヒュリアはどうするの? そいつを切捨きりすてる?」


「いや、なんとかやっていくしかないだろう。切捨きりすてれば内乱ないらんまねくことになりかねない。結局けっきょく、ツケは国民こくみんにまわることになるからな」


「ホントに? 上手うまくくやっていく自信じしんある? クズムスで、ぶったぎったりしない?」


「――自信じしんは……、い……」


「ハハハ、だよね。じゃあジョルジ君で練習れんしゅうしてみたら。気に食わないやつでも、なんとかやっていくためのさ」


 ヒュリアはひざかかえているうでに、おでこをせて顔をせ、だまりこみます。


「――やっぱ、無理むりかな?」


 顔を上げたヒュリアは、そら見上みあげて大きくいききました。


「君の言うとおりだ、ツクモ。国家こっか舵取かじとりとは、そんなにあまいものではない。清廉せいれんなものだけを採用さいようし、汚濁おじょくなものを切捨きりすてていけば国はかならほろびる。もちろんぎゃくも同じだ。清濁せいだくわせておさめることができなければ、皇帝こうていになどなれるはずがない」


 はにかんだ笑顔えがおを見せるヒュリア。

 かぁわいっ!


子供こどもじみたいだった……」


「だったら、ジョルジ君が、しばらくここにいても大丈夫だいじょうぶい?」


「ああ、滞在たいざいみとめよう。――あとでアティシュリ様にあやまっておかねばならないな」


「ジョルジ君にもね」


「――そうだな」


かった……。じゃあ中へもどろうよ、外はさむくなるから」


 でもヒュリアはこしを上げません。


「ツクモ……、私からもすこし話があるんだが」


「えーと、何でしょうかぁ……」


 なんだ、なんだ、深刻しんこくな話っぽいぞ。

 めしがまずいとか、掃除そうじ不十分ふじゅうぶんとか?

 まさか、焦臭こげくさいのをどうにかしろとでも……。


「――トゥガイ達は撃退げきたいしたが、私への追討ついとうわったわけではない」


 なんだ、そっちの話か。

 ちょっと安心あんしん


帝国ていこくは、はやければ一月後ひとつきごに、ここへ騎士団きしだん派遣はけんしてくる可能性かのうせいがある」


 うへっ!

 全然ぜんぜん安心あんしんじゃなかった!


「メシフは私をころすことに執着しゅうちゃくしているから、可能性かのうせいはかなりたかいと見ていい」


「どの程度ていど規模きぼになるのかな……?」


「アティシュリ様のことを計算けいさんにいれてぐん編制へんせいするだろうから、少なくとも騎士団きしだんふたつ、兵数へいすうにして1まん考慮こうりょすべきだろう」


「1万!」


 こんな丸太小屋まるたごやにぃ?

 家政婦かせいふみたいな地縛霊じばくれいにぃ?

 1万?!

 うそでしょ?!


「アティシュリ様はもちろんたたかわれないだろうから、すべて私ときみ相手あいてをすることになる。何らかの手をたない限り、かなりきびしい状況じょうきょうおちいることは間違まちがいない。――何か妙案みょうあんが、ないだろうか?」


「いやぁ、いきなり言われても……。思いつかないなぁ」


「そうか……。すぐにみつかるなら苦労くろうはいらないな。ただ耶代やしろが何か言ってないかと思ってね」


 羅針眼らしんがんでヒントをたしかめますが、それらしきものは見当みあたりませんでした。


「まだ少し時間じかんはあるが、なるだけ早く対応たいおうめなければならない。ツクモも、どうするか考えて欲しい」


 いや、こまった。

 こりゃ死活問題しかつもんだいですよ。

 どうすんのよ、耶代やしろさん。

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