第6話 ジバクレイ、家を直す

 意味不明いみふめいのヒントが十六個もあるよぉ……。

 しかも口外こうがいすると自主規制じしゅきせいって、内容ないようだれかに質問しつもんするのも制限せいげんされるってこと?


「どうしたんだ」


 ヒュリアが、けげんな顔をしています。


「いや、もうメチャクチャだよ。わけのわからないヒントがいっぱいだ。オペ兄さんの野郎やろう……」


 頭をかかええます。


「ヒント? オペ兄さん? 一体いったい、何の話だ?」


「いや、いいんだ、気にしないで。――それよりさ、たたかうための魔導まどうがないんだよね」


 だいたい、家事全般かじぜんぱんって何だよ、メイドじゃないんだぞ!

 おかえりなさいませ、ご主人様しゅじんさま、とか言わないぞ!

 もうしわけなくてヒュリアの顔が見られません。


味方みかたになるなんてえらそうに言ったけど、これじゃ役立やくたたずだ。期待きたいさせといて、ゴメン……」


あやま必要ひつようはない。結界けっかい立派りっぱ役立やくだっているじゃないか。あれがなければ私はわれていたさ」


 そのときヒュリアの方から、グーという聞きおぼえのある音がしました。

 僕が顔を向けると、ヒュリアは顔をそらします。


「そうか、おなかったんだね」


「う、うん……」


 ヒュリアの顔が真赤まっかになっています。

 マジ可愛かわいい……。

 そういえば死んでからというもの何もべていません。

 まあ、そりゃそうなんですけど。

 でも生きている人は何か食べないといけません。


「たしか『倉庫そうこ』に食料しょくりょうがあるはず……。えーと、牛肉ぎゅうにく豚肉ぶたにくってのがあるけど、これいて食べてみる?」


 ヒュリアが、目をハートにして何度なんどもうなずきます。 

 かなりはらペコなんでしょう。


 ついでに、羅針眼らしんがんで『倉庫そうこ』の説明せつめいを見ました。


耶代やしろ同等どうとうの大きさまでの物品ぶっぴん収容しゅうようすることが可能かのう

収容物しゅうようぶつ腐敗ふはい損壊そんかいすることなく収容時しゅうようじ状態じょうたい維持いじされる。ただし生物せいぶつを収容すると死にいたる』

耶宰やさい随時ずいじ倉庫そうこへの入退室にゅうたいしゅつ可能かのう。物品の出し入れは出納すいとう儀方ぎほうによる』


 つまり出納すいとう儀方ぎほうを使えば『倉庫』に物を出し入れできるってことですね。

 それに、入れたらくさることも、こわれることもないって、すごい。

 もしかすると『倉庫』内にある食料は、何十年も前の物ってこともわるわけです。

 でもまあ、くさってないのなら問題もんだいなしと。


 ところで、バシャルの牛や豚は、地球のものと同じなんでしょうかね。

 ヒュリアが今にもよだれをたらしそうなので、きっと美味うまいんだろうなとは思いますけど。

 おっと、食事しょくじの前にもう一仕事ひとしごと


「食事の前に、ちょっとやっておきたいことがあるんだけど、いいかな」


「何をするんだ?」


「『修繕しゅうぜん』してみる」


 『羅針眼らしんがん』で『修繕しゅうぜん』の機能きのうの説明を見ると次のようにしめされていました。


耶代やしろ全体的ぜんたいてきまたは部分的ぶぶんてき復旧ふっきゅうするもの。復旧の基準きじゅんとして、損壊直前そんかいちょくぜん状態じょうたい採用さいようされる。ただし資材しざいが必要である』


 とりあえず屋敷やしき床石ゆかいしからりるように、ヒュリアをうながします

 そして羅針眼らしんがんに向って、修繕しゅうぜんするようにねんじました。

 すると目の前にある屋敷の空間くうかんがゆらぎ始め、向こうがわ景色けしきが、ぼやけて見えなくなります。


 しばらくの間、ゆらぎはつづきました。

 ゆらぎがおさまったとき、僕は自分の目をうたがいました。

 まあ、もう目はいんですどね。


 屋敷の瓦礫がれきがあった場所に、建物たてものができあがっていたからです。

 それは洒落しゃれ三角屋根さんかくやねのログハウスでした。

 『現状げんじょう』のらんに書いてあったとおり、木造平屋もくぞうひらやです。


「これは……、夢を見ているのか……」


 ヒュリアも目をパチクリさせています。

 僕は自分のほほをつねってみました。

 かたくて、つまめません……。


「ツクモ、君はすごいやつだったんだな。こんな魔導まどう、見たことがない……」


「いやぁ、それほどでも」


 ヒュリアがほめるので、ちょっとうれしくなりました。

 自分でも、びっくりしたってことは内緒ないしょです。


 僕らは屋敷にはいってみることにしました。

 中は真暗まっくらで何も見えません。

 そこで屋敷の機能きのうである『統火とうか』を使ってみることにしました。

 するとひとりでに、天井てんじょうかべにあるランプにあかりともっていきます。


「そつのいことだ」


 ヒュリアが感心かんしんしています。


 『統火』の説明を羅針眼らしんがんで見ると、次のように表示ひょうじされてました。


『屋敷内のあらゆる火の点火てんか消化しょうか維持いじを行う。ただし燃料ねんりょうが必要である』


 屋敷中の火が、自在じざいあやつれるってわけです。


 灯りがいたことで中の様子ようす把握はあくすることができました。

 入ってすぐの部屋へや縦長たてながで、中央ちゅうおうにテーブルと四脚よんきゃく椅子いすがあります。

 壁やら天井てんじょうやらは、材木ざいもくがむき出しのままですが、それがかえって良い感じにオシャレです。


 おくにはかまどがあって、なべなんかが壁にかかっています。

 横には金属製きんぞくせいのシンクや食器しょっきの入ったたななんかもあります。

 キッチンでしょうね。

 つまりこの部屋はダイニングってわけです。


 ダイニングの側面そくめんにはドアが三つありました。

 一番奥のドアを開けると、内側にはトイレと風呂場ふろばがありました。

 中央のドアの中には一人用のベッドがあり、寝室しんしつになっています。

 ここはヒュリアに使ってもらいましょう。


 一番手前いちばんてまえのドアの中には、頑丈がんじょうそうなテーブルがいてあり、まわりのたなには化学かがく実験じっけんで使うような器具きぐならんでいます。

 ヒュリアと僕は興味きょうみをひかれ、部屋に入ってみました。


錬成室れんせいしつのようだな」


 テーブルの上にあったフラスコのような器具をとりあげながら、ヒュリアが言いました。


錬成室れんせいしつ?」


錬金術れんきんじゅつを使うための部屋だ。君は私の現状げんじょうを知って錬成室れんせいしつを作ってくれたのか?」


現状げんじょうって?」


「私は、元素魔導げんそまどうは使えないが、錬金術れんきんじゅつ多少たしょう使える」


「へぇ、ヒュリアって錬金術師れんきんじゅつしだったんだ」


 弟がよろいになってしまった有名な錬金術師の兄弟きょうだいのことが頭に浮かびます。


「まだ修行しゅぎょうを始めて半年足はんとしたらずではあるがな。――話しをもどすが、なぜ錬成室れんせいしつを作った?」


「いや、僕にもわからないんだ。屋敷が勝手かってにやったんだよ」


「勝手にやった? ――屋敷に意識いしきがあるとでも言うのか?」


「うん、そうみたいなんだよねぇ」


 ヒュリアはふかく考えこむような表情ひょうじょうになります。


「そういえば、師匠ししょうからそんな話を聞いたことがある。たしかあれは……」


 なにかを思い出そうとしたヒュリアですが、そんな彼女に文句もんくを言うように、おなかがまたグーと鳴りました。


「考えるのは後にして、食事しょくじにしない?」


「あ、ああ……、そうしよう」


 また顔を赤らめているヒュリア。

 きゅんです。


 ダイニングに戻り、ヒュリアにはテーブルについてもらい、僕はキッチンの前に立ちました。

 たなから一人分のさらとナイフやフォークなどを出してならべます。

 食器類しょっきるいは地球のものと変わらないので、きっと食べ方も同じなんでしょう。


 『倉庫』から牛肉を出そうとして、ふと気づきます。

 『羅針眼らしんがん』を呼び出して、家事全般かじぜんぱん儀方ぎほうについての説明を見ました。

 すると次のようにしめされます。


耶代やしろ維持管理いじかんり、もしくは耶卿やきょうおよ客人きゃくじんをもてなすためのもの』

調理ちょうり清掃せいそう工作こうさく裁縫さいほう洗滌せんてき


 その中にあった『調理ちょうり』について、さらに説明を求めます。


記憶きおくにある料理、製法せいほう取得しゅとくした料理を、具現化ぐげんかすることが可能かのう。ただし材料ざいりょうが必要である。必要な材料が無い場合、類似るいじした代替物だいたいぶつおぎなう場合もある』


 だそうです。

 なるほど、レシピを手に入れた料理だけでなく、僕の記憶きおくの中にあるものも再現さいげんできるわけですね。

 ならば今まで食べた中で、一番おいしかった牛肉のステーキを具現化ぐげんかしてみます。


 一瞬いっしゅん、皿の上の空間くうかんがゆらいで、すぐに元に戻ります。

 いつのまにか美味おいしそうな肉厚にくあつのステーキが出現しゅつげんしていました。

 しかもできたてホヤホヤです。

 いいかおりがダイニングに広がります。


 僕はステーキにかっているグレービーソースを指につけて、口元くちもとにあててみます。

 有名店ゆうめいてんで食べたときと変わらない、うまを感じることができました。

 おそらくこれなら大丈夫だいじょうぶでしょう。


 『調理ちょうり』、なかなか使える機能ですねぇ。

 うでがなくても、僕の記憶やレシピがあれば自動的じどうてきに、うまそうな料理のできあがり。

 異世界食堂いせかいしょくどう居酒屋いざかやひらくのも夢じゃありません。

 これで資金しきんめればヒュリアのやくに立てるかも。


 さらに『倉庫』から葡萄酒ぶどうしゅが入った陶器瓶とうきびんを取り出して、金属製きんぞくせい酒盃ゴブレットそそぎます。


 こちらも地球の葡萄酒ぶどうしゅ、つまりワインと同じかどうかわかりませんので、ちよっと味見あじみをしてみます

 うん、僕の知ってるワインと変わりないです。

 まあ、料理りょうりに使うくらいで、ワインつうってわけじゃないんですけどね。


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