第2話 異世界召喚は突然に……。







戻って来てからは、萌香は魂が抜けた様にぼうっと過ごした。いくら体が完全に戻って居ようと、心の傷は簡単に癒えなかった。これは夢で、目覚めたら、また地下牢じゃ無いかと怯えて暴れた。そんなだから萌香は、一年間は学校にも行けず、精神病院でのカウンセリングを受けつつ、引き篭もって居た。異世界召喚の事は誰にも言えなかった。萌香からは勇者の力は全て失われていたし、成長した筈の体は元に戻って居る。証拠なんて無い。親に言われた『娘が狂った』その言葉の方が、説得力が有る。


空想を現実だと思い込んで、頭がおかしくなった少女。それが世間から見た萌香だ。


だけど萌香は、絶対にアレは現実だったと言える。だって心はこんなに変わってしまった。


中二病と思われるかも知れないが、全てに置いて楽しいと言う気持ちが無くなった。イケメン大好きな少し、夢見がちな少女。それが召喚前の萌香だった。だが今の萌香は、イケメンもブサイクも、男は皆、同じに見える。興味と言う興味が消え失せた。それから、誰の事も信じられなくなった。


(人は簡単に嘘をつく………)


なんとか一年経って萌香は普通の暮らしに戻れた。萌香自身、アレは夢だった。悪夢だったと自分に言い聞かせた。


それから一年遅れになったが学校にも通う事になった。


(全部忘れて、普通に生きよう。………その内きっと元の私に戻れるよね…………。)


萌香はそう思ったのだが、そう簡単な話では無かった。


本来なら二年生だったが、一年からやり直しになった。それもその筈、萌香は一年の春から引きこもって居た。それに周りが知らない人ばかりの方が良いだろうと親に言われた。母親は萌香がおかしくなったのを、いじめられて居たんじゃないかと、勘繰っていた。


(いじめの方が何倍もマシだよ………)


萌香はそう思って、ため息を吐いた。




◇◇◇◇◇◇◇





結局、年下に混ざって一年生として通い出したが、頭がおかしい、だから休んでいた。と陰で噂されて遠巻きにされた。更には、萌香も全く馴染めなかった、歩み寄ろうにもどうすれば良いのか分からない。でもこのままじゃ駄目だと思い、歩み寄ろうと努力はした。でも


『やばくね?あたおかババア、こっち見てるんだけど………』


『きもー』


クラスメイトの女子に話しかけるタイミングを見計らって居たら、クスクスと笑われた。それからは、一人静かに過ごした。


(やっぱり………人は信用ならない)


そこまで、思い出して萌香はさっき話しかけてくれた、比奈の事を考える。


時又ときまた比奈ひな


二年に上がって、同じクラスになった少女。明るい茶色のふわふわロングでいつも困り眉、背が低くて巨乳、顔も可愛い。


そして何故か、萌香によく話しかけてくれる。誰からも好かれる良い子。萌香の思う比奈のイメージは、そんな感じだ。


(………良い子なのかな?ううん、ああ言う子程、陰で何言ってるか………分かんないよ。それに………)


比奈が萌香に話し掛けて居ると、必ず他の誰かが比奈を連れて行く。萌香は危険人物扱いだ。


(………あたおかババア。だもんね、本当にそうなら、良かったな。全部妄想とか、夢なら………良かったのに)



萌香は、心からそう思った。






◇◇◇◇◇◇





その日は酷い雨だった。傘を持って来てない生徒が多くて、教室で雨が止むのを待って居たり、迎えを待って居る生徒が多かった。萌香も傘が無くて、母親の迎え待ちだった。


(別にそんなに遠くないし、濡れて帰っても良いのに、………過保護だな)


萌香が引き篭もりから復帰してから、母親はめちゃくちゃ過保護になった。本当はさっさと帰りたかったのだが、迎えに行くから教室で待ってなさいと連絡が有った。それが無ければ濡れてでも良いから、萌香は帰りたかった。


何故か今日は体調が悪い。ズキズキと頭が痛い、そんな時に濡れるなんてどうかしてると思われるだろうが、それでも何故か、早く帰りたかった。


今になって思えば虫の知らせだったのかも知れない。





その日、高橋萌香は教室に残って居たクラスメイト数人と再度【異世界召喚】された。











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