第55話
会長と呼ばれた女生徒。
冷静に状況を伺っているように見えた彼女なら俺の話を聞いてなんとかしてくれるかもしれない……と期待していたのだけど、なにか様子がおかしい事に気が付いた。
冷静に見えた彼女の様子がおかしいのだった。
微動だにしない……どころか、瞬きひとつしていない。
完全に固まっているようだった。
これは、もしかしたら冷静に状況を見ているのではないのかもしれない。
「あ、あの……会長?」
俺を縛るロープを持つ風紀委員の少女が声をかける。
「………………」
声をかけられても反応が返ってこない。
「…………か、会長?」
風紀委員の子が何度か声をかけていると、不意に会長と呼ばれた彼女と目が合った気がした。
その後、すぐに反応が返ってきたのだが、
「――はっ! な、なななな何かしらっ!?」
と、完全に挙動不審な様子で冷静さとはかけ離れた状態だった。
…………あれ?
この人、全然冷静じゃない。
というか滅茶苦茶テンパってるな。
「えっと……侵入した不審者を捕まえたので連れてきたのですが」
風紀委員が会長の様子に戸惑いつつ要件を告げる。
「そ、そう。ご苦労さまね」
「い、いえ。これも風紀委員の仕事ですので!」
会長から労いの言葉を受け、少し嬉しそうな風紀委員。
それを見るだけで生徒会長の女生徒が慕われているのが良くわかる。
それにしても……この会長、先程から俺に視線を向けない。
視線を向けないどころか物理的にこちらを見ないようにしているのか不自然な方向を見て話している。
「それでは、後の事はよろしくお願いします」
そう言って風紀委員は自分で持っていた俺を縛っているロープの先を生徒会長に手渡そうとした。
そしてロープが生徒会長の手に触れた瞬間、
「ひゃひぃぃぃぃっ!?」
生徒会長の少女はけたたましい悲鳴を上げた。
妹さんは相変わらず肩を震わせて笑うのを堪えていた。
○ ○ ○
生徒会長が悲鳴を上げ、再び固まってしまってからしばらくして、復活した妹さんが風紀委員から俺を引き渡された。
しかし、妹さんはまだ俺を助ける気はないのか知り合いだとは言ってくれない。
ここは、やはり俺から発言するべきか……。
でも生徒会長さんはずっと固まったままだ。
はたして俺の言葉が届くかどうか。
そして気になるのは妹さんの表情だ。
なにか企んでいる時の顔をしている。
いつものように俺を揶揄うことを考えているのか、こんな状態では何を言われるか考えただけで恐ろしい。
俺だけじゃなく様子のおかしい生徒会長さんまで揶揄おうとしている可能性までも……彼女ならあり得る。
だけど、妹さんに出会えたお陰で俺は若干落ち着いてもいた。
これで最悪の事態――警察沙汰――のような事は避けられるはずだからだ。
あとはこの状況を、どうやって穏便に片をつけるか……だ。
妹さんと何とかうまく交渉しなければ。
最悪の場合、アリサさんになんとか連絡をとるしかない。
何やら挙動不審な生徒会長も気になるし……気を引き締めなければ乗り切れない、と俺は自分を奮い立たせた。
男子高校生、一軒家とメイドを手に入れる ~クールで毒舌なメイドさんが実は内心デレデレなはずがない~ 橋ノ本 @ituki_made
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