第54話

 学園に男が侵入した。

 そう報告を受けた生徒会長が動きを止め固まった。


 それは見事に固まった。

 人ってこんなに固まることがあるんだ、とマリナが思わず感心してしまうほどの完璧な固まり方だった。


「あ、あの…………会長?」


 報告に来た生徒が心配そうに声をかけるほどの時間、生徒会長は固まり続けていた。

 

「あ……え、ええ……それで、何があったって?」


 ようやく動き出した生徒会長が平静を装い、報告に来た生徒に聞き返したとき、何やら部屋の外の廊下が騒がしくなった。

 騒々しさは段々と会議室に近づいてくる。

 

「何かしら?」


 そう呟いた生徒会長だけでなく部屋にいる全員がそう思って廊下の方を気にしていた。

 そしてすぐに――勢いよく会議室の扉が開けられた。


「生徒会の皆さま! 風紀委員のこの私が不審者を捕まえましたわっ!」


 開かれた扉以上の勢いをもって風紀委員の腕章を付けた生徒が入ってくる。

 その手には『ロープ』が握られていた。

 そのロープを引っ張ってその先に繋がれている人物も会議室に足を踏み入れ、それを見たマリナは――


「――ブハッ!」


 盛大に噴き出した。



 ♦ ♦ ♦


 気が動転し、女子校内に侵入してしまい追われていた。

 だけど、数の暴力に勝てず、アリサさんに助けを求める暇もなく俺は結局捕まってしまったのだった。


 捕まった俺は時代劇の罪人のようにロープでぐるぐる巻きにされてしまった。

 さらにそのままどこかに連行される。


 しばらく歩いて辿り着いた部屋。

 俺を先導して引っ張ってきた生徒がその部屋に入っていった。


 ロープが引っ張られたので、これから何が起きるか緊張しながらも俺も部屋へと足を踏み入れた。


「――ブハッ」


 入った部屋にいた妹さんが俺を見て噴き出した。



○ ○ ○


 部屋の中には数人の生徒がいた。


 最初に目に入ってきたのはアリサさんの妹であるマリナ。

 俺の目的の人物である。

 元々俺は彼女にバレンタインのお返しをするためにここに来たのだから。


 何故かこんな大事になってしまったけど……。


 俺は助けを求めるように妹さんを見るのだが、彼女は顔を俯かせ肩を震わせていた。

 さっき噴き出していたし、俺の状態を見て笑いをこらえているような感じだ。

 

 これは当分は助けは期待できないかもしれない……。


 続いて目についたのは部屋の真ん中、会議用だろう大きなテーブルと大きなホワイトボード。

 そのホワイトボードを背にテーブルのほぼ真ん中の中心人物が座るだろう位置に座っている女子生徒。

 きっちりと制服を着て、長い黒髪、化粧などほとんどしていないのにとんでもなく美人な人物だった。

 

 そのきっちりとした様は生徒達の見本になるだろう。

 それほどの完璧さだった。


 そんな彼女は俺が部屋に入ってから一言も声を発さず微動だにしていなかった。


 どんな状況でも取り乱さないほど冷静沈着な人物でもあるのだろうことは予想に難くない。


 そんな彼女なら誠心誠意話せば分かってくれるのではないか、と俺は期待してしまうのだった。

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