第53話
俺を追いかける女子生徒の数は時間が経つにつれどんどんとその数を増していっていた。
それだけを聞いたなら俺がアイドル並みにモテていて追いかけられていると勘違いしてしまうかもしれないが、実際は不審者として追いかけられているだけだ。
そう……『女子校に乗り込んできた怪しい男』として。
完全にやらかした。
まず悪いことはしていないにも関わらず逃げてしまったことが悪手だし、そもそも一人で女子校にやってきてしまったこと自体が間違っていた。
俺の考えが足りなかったせいだ。
もう少し考えて行動しろよ……過去の俺。
なんて後悔しても、もう遅い。
すでに俺は不審者として追われているのだから。
大事なのはこれからどうするか、だ。
何とか隙をみつけてアリサさんに連絡する。
それさえ出来れば事態の収拾は確実に出来るだろう確信はある。
アリサさんにこの状況をおこしたことがバレる上に借りを作ってしまうという……かなり恐怖を感じることだが、それが一番間違いなくこの状況を解決できるだろう。
もうひとつ解決法を思いついているが……アリサさんにバレずに借りを作ることもない方法だけど、正直それは難易度がクソほど高いだろう。
その方法とは――捕まらずに逃げながら、妹さんを見つけて俺が知り合いだと証言してもらうことだ。
これが出来れば一番良い。
でも、そもそも妹さんが校舎の中に居れば絶対に成功しない方法だ。
ただでさえ不審者扱いで追いかけられている状況なのに、さらに校舎内に入るなんてことをしてしまったら……不法侵入の完璧な不審者になってしまう。
それだけは避けなければならない。
「待ちなさ~い、ですわー!」
隠れてそんなことを考えているとそんな声が近づいてきた。
「――――っ!?」
最初に会った風紀委員の女子生徒だ。
どんなに逃げてどんなに巧妙に隠れても最初に見つけてくるのは彼女だった。
――なんて嗅覚してやがる!
なんて、俺は戦慄を覚えていた。
だが、そんな事に悪態を吐いている暇はない。
俺は飛び出すと全力で走りだした。
「見つけましたわーっ!!」
再び追いかけっこが始まった。
♦ ♦ ♦
一方、樹が女子生徒たちに追われているその時。
「じゃあ、今日の仕事はこれで終わります。皆さんお疲れさま」
会議室に集まった数人の生徒の中でも威厳のあるオーラを放っている高校生だろう生徒がそう発言した。
「それでは会長、お先に失礼いたします」
「私もこれから家の用事がありますので失礼いたしますわ。それでは会長、ごきげんよう」
その発言を受けて数人の生徒が退室していく。
威厳のある生徒はこの学校の生徒会長だった。
退室生徒が全員去り、会議室の中には五人の生徒が残っていた。
「…………ふぅ、やっと終わったわね」
途端、生徒会長は身体をテーブルに預けだらけるような姿勢になった。
「会長、だらしないです。全校生徒の憧れの会長がそんな風では呆れられてしまいますよ」
眼鏡をかけたショートカットの小柄な女生徒がジト目で苦言を呈する。
「いいじゃない……ここには身内しかいないんだから」
姿勢を正さない会長にため息を吐いて眼鏡の女生徒は首を横に振った。
「マリナさんが生徒会に入ってくれて仕事が早く終わるようになって本当によかったわ」
会議室に残った生徒の中にアリサの妹であるマリナもいた。
ここに残ったメンバーは生徒会の役員だったのだ。
「あはは、ありがとうございます。役に立ってるなら嬉しいです」
樹やアリサに対する態度とは違い、良い後輩を絵に描いたような対応をしているマリナ。
完全に校内では猫を被っていた。
「そのおかげで会長が全然仕事しなくなったのは困りものですけどね」
眼鏡の生徒がチクリと言う。
「え~、いいじゃない。仕事は出来る人に任せる! それが会長の仕事なの」
軽口で返す生徒会長。
普段からこのようなやり取りをしているのだろう、このように言い合っていても会議室内は穏やかな雰囲気だった。
だが、そんな雰囲気は長くは続かなかった。
突然会議室の扉が開き、一人の生徒が飛び込んでくる。
「せ、生徒会の皆さま――大変ですっ!」
入ってきた生徒は息を切らし、焦った様子だった。
「あら、どうしたのかしら?」
そして、その生徒が入ってきた瞬間に背筋を伸ばして姿勢よく座っていた生徒会長。
(す、凄い早業! まるでお姉ちゃんみたい。さすが会長、取り繕うことにかけては一流だ)
それを見てマリナは尊敬しているのか馬鹿にしているのか良く分からないことを考えていた。
「し、侵入者です! 学園内に他校の生徒らしい男子が侵入したらしく、今風紀委員が追いかけています!」
「………………はい?」
その生徒の言葉に生徒会長は取り繕うこともなく素の反応をしてしまっていた。
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