第40話

「あはっ、あははははは!」

「いいぞ! もっとやれーっ!」

「あ、あわわわっ、ミ、ミサちゃ――」

「よっしゃー! まかせなさーい!」

「うお――――――っ!!」

「ミ、ミミミ、ミサちゃんっ!」

 

 …………なんだ、これ?

 どうしてこうなった……。

 

 みんなの前に立ち服を脱ごうとする三上さん。

 食い入るようにその様子を見つめながら煽る今岡。

 慌てふためく伊吹さんはその場であたふたするだけで止めようとする気配はない。珍しく大きな声も出している。

 

 ほんとにもう……なんだこれ?

 なんでこんなことになってしまったのだろう……なんて、そんなこと決まってる。

「樹様も一緒にお脱ぎになってみてはいかがですか?」

 アリサさんだ。

 こんな状況を作り出したのは勿論我が家のメイドである彼女だ。

 というか、

「なんで俺が脱がなきゃいけないんだよ」

「新たな可能性を信じて」

「何言っちゃってんの!? そんな可能性はいらないから!」

「なるほど……その貧相な身体など、とても見せられるものじゃありませんよね。失礼しました」

 あ、謝りながら馬鹿にするだと……っ!?

「そもそも脱ぐ必要なんてないじゃないか!」

「樹様は女性だけに恥をかかせると?」

 アリサさんは三上さんを見ながら言う。三上さんは既に上は下着だけになり、今正にスカートに手をかけた瞬間だった。

「俺の所為みたいに言うなっ! てか三上さんそれ以上はアウトだからっ! 今の時点でアウトだけど……それ以上はホントに駄目だって!!」

 三度言おう……なんだこれ?


 そんなカオスな状況になってしまった原因は少し前に遡る。



○ ○ ○

 

 三上さん、伊吹さんの二人と別れた俺と今岡は俺の家に真っ直ぐ帰った。

 帰ってきたとき、既に日は暮れていた。

「お帰りなさいませ、樹様。今岡さんもようこそおいで下さいました」

 玄関を開けるとアリサさんがいつものように出迎えてくれる。


 出迎えてくれたのだが……何か違和感を感じた。


 その違和感が何かわからず、アリサさんを見る。

 うん、いつものアリサさん……のはずだ。

 クラシックなロングスカートのメイド服、腰の辺りで纏めたロングの金髪ブロンド、吸い込まれそうな透き通った碧眼。

 背も高くスタイル抜群、そしてその美貌に無表情を張り付けているいつものアリサさんだった。

「どうかなさいましたか?」

 アリサさんを見つめて動かない俺を不思議に思ったのかアリサさんが声をかけてきた。

「い、いや……なんでもないよ」

 そう言って違和感を振り払うように頭を振った。

 きっと、クリスマスでアリサさんも内心テンションが上がっていて、それが違和感になっていたに違いない。


 家に上がってそのまま一階のリビングへ向かう。

 アリサさんに上着を渡してこたつに入る。今岡もデレデレしながらアリサさんに上着を預けていた。

 家のリビングは結構広いと思う。キッチンはカウンターっぽくなっててその近くには大きめのテーブルに椅子が四脚ある。二人しか住んでないけどな。今岡とかよく来るし多すぎるってことはない。

 今いる部屋は簡単な仕切りはあるがそこと繋がっている。簡単に言えば広い部屋にテーブルとこたつの両方があるってことだ。

 冬はもっぱらこのこたつで食事をする。寒いからな。

 ヒーターもあるが、やはりこたつが落ち着くのだ。

 そして、こたつの上には見事なクリスマスのパーティー料理が並んでいた。

 あ、あれってもしかして七面鳥? 初めて生で見たわ、あんなの。その他にも美味しそうなのが沢山。てか全部美味そうだ。さすがアリサさんだな。

「さすがですねアリサさん! 全部美味しそうです!」

 おれと同じ感想をもったらしい今岡が立ち上がって瞳をキラキラさせて言う。キモかった。そして何故にアリサさんの手を包み込むように両手で握ってるんだ……。

「座れよ。動くと埃が立つだろ」

「そんな掃除の仕方はしていませんが」

 アリサさんからのツッコミがきた。

「お前、なんで急に機嫌悪いの?」

 それから今岡。

「別に悪くねーよ……」

 そう言って俺は顔を背けた。 


 なんだか空気が悪くなってしまった……そんなとき、家のチャイムが鳴った。

 お客さん……多分三上さん達が来たのだろう。

「委員長達だろうな」

 今岡も同じことを思ったらしいが、言いながらもアリサさんの手は離さない。

「では対応して参りますので座ってお待ちください」

「――あぁっ!?」

 結構強引に振りほどかれた今岡の両手。

 名残惜しそうに今岡が声を上げた。


 …………また少し、違和感を覚えた。

 アリサさんがあんな強引な感じで今岡を振り払うことがあるだろうか。

 今岡が苦手、と常々言っているアリサさんだがいつももっと上手く対応している。

 今岡は何も疑問に思っていないようだが……。


 すぐに「お邪魔します」と言う声と共にアリサさんに連れられた二人がやってきたことで、その違和感は消え去ってしまった。

「わっ! 凄い料理!」

「ほんと……だね」

 三上さんは部屋にやってくるなりこたつの上の料理を見て驚いた。伊吹さんもそれに同意してコクコクと頷いている。

「うっわ~、こんなの見たことないよ!!」

 三上さんのはしゃぎっぷりが凄い。

 確かに並べられた料理はそこらのレストランなんかとはレベルが違うってぐらい凄いけど。

「コートをお預かりします」

「あ、どうも」

「……有難うございます」

 無表情に淡々と話しかけるアリサさんに三上さんのテンションが一気に下がった。……なんか若干顔が赤い。来て早々料理を見てはしゃいだことが恥ずかしくなったのかもしれない。

 二人ともアリサさんに上着を渡してこたつに入る。

 俺と今岡、対面に三上さんと伊吹さん。

 受け取った服を丁寧にハンガーに掛けたアリサさんはキッチンへ向かった。

 すぐに人数分のコップと冷蔵庫から飲み物を用意して戻ってくる。

「よっしゃ、それじゃ始めようか!」

 アリサさんがコップを配り終えるのを見て今岡が宣言した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る