第41話
「ほら、そんなのはみんな自分でやるからアリサさんも座ってくださいよ!」
配ったコップに飲み物を入れようとするアリサさんから瓶を奪い取り座らせようとする今岡。
「ですが……」
「いいからいいから!」
「そうですか……わかりました」
そしてアリサさんは俺の隣、今岡とは反対側に腰を下ろした。
「あ、あれぇ~……あの、アリサさん?」
「……なんでしょう?」
今岡に名前を呼ばれ小首を傾げるアリサさん。
「出来れば……せめてここに座ってもらえればと思うのですけども」
そう言って俺と自分の間を手で叩く。
「いえ、遠慮しておきます」
ニコッと微笑む。
「あ、う……そ、そうですか」
「はい」
満面の笑みだった。
今岡はその笑みにやられてしまったらしく俯いて小声でボソボソ呟くことしか出来なくなってしまった。
アリサさんというとんでもなく美人な人が眩い笑顔を見せれば……しかも相手はアリサさんに惚れてる今岡とくればその仕草だけでどうにかなってしまうが、だがしかし……だがしかし!
今岡が冷静にであれば「あなたの隣には座りたくありません」と言っているような物だと気付くことが出来ただろう。そう考えるとアリサさんの浮かべる笑顔は悪魔の微笑にも見えてしまう。
……恐ろしい。
今岡がそのことに気付いてないようで何よりだ。
と、俺は心の中でほっと一息つく。
「樹様」
突然アリサさんに呼ばれた。
「え、なに?」
「どうぞ」
瓶を両手で持ち差し出してくる。
「あ、うん。ありがと」
コップを差し出すとアリサさんは丁寧に注いでくれた。注がれる液体はシュワシュワと泡を立てる。ジンジャーエールっぽいけどちょっと違う。
シャンパン……は違うよな。あれは結構アルコールが高かったはずだ。
てことはシャンメリーってやつか?
まぁ、いっか……なんでも。
って、あれ? 瓶はさっき今岡に奪われなかったか?
そう考えて気付いた。
アリサさんの傍には何本も同じような瓶が用意されていることに。
「な、なぁ~んか良い雰囲気ね」
と、何故かヒクついた笑顔でこちらを見ている三上さん。
「えっ!? なにが!?」
「メイドとご主人様って言うより寧ろ夫婦みたいな雰囲気だったじゃない! 沙代もそう思うでしょ!?」
「え、えっと……その……」
突然声を荒げる三上さんと俯いてモジモジする伊吹さん。
「そんなんじゃないから!!」
そんな二人に俺は精一杯否定する。
「ど、どうなんですか?」
三上さんは次にアリサさんに質問する。
「ふふ……ご想像にお任せします」
とても良い笑顔でそんなことを仰った。
「やっぱりそう――」
「なんだとぉ――――っ!!」
三上さんの言葉を遮って今岡が叫んだ。その勢いのまま俺の胸倉を掴んで自分へ引き寄せる。
「てめ、こら……どういうことだ? あぁん?」
完全にヤンキーの絡み方だった。
「……近い近い」
今岡の顔が俺の顔まで数センチの距離。
「んなこたぁどうだっていーんだよ。で? どういうことだ?」
完全に目が据わっていた。
「だから勘違いだって。俺とアリサさんはそんなんじゃ――」
「先月二人で泊りがけの旅行に行って参りました」
「んだとぉっ!?」
「なんですってぇ!?」
「……ひぅっ」
「ア、アリサさ――――ん!!」
そこからはみんな凄まじかった。
今岡はヤケになったように、三上さんは機嫌悪そうに、伊吹さんはそんな三上さんに薦められるまま、三人はガツガツ食べゴクゴク飲んだ。
気付けば多すぎるんじゃないかと思われた瓶の数。その殆どが空になってしまっていた。
「あのアリサさん?」
「はい? なんですか、樹様?」
「これ、酒?」
俺はコップに入った液体を指差して問いかける。
「はい。勿論です」
「なんで?」
「なんで、と言いますと?」
「俺、みんな、未成年」
単語しか出てこなかった。
未成年しか居ないこの状況で、なんでアリサさんは酒なんかを?
やっぱり何かがおかしいと感じる。
いくらアリサさんがたまに突拍子もないことをするとはいっても、未成年に酒を飲ませるような……法律的によろしくないことをするだろうか。
「まぁ、クリスマスですし」
「理由になってない!」
「たまにはいいかと…………それに面白いことになる予感が」
「今面白いっつった?」
「はて、なんのことでしょう?」
え、面白くなりそうだから酒を飲ませたの?
クリスマスだから?
はぁ……俺は腑に落ちない物を感じながら溜息を吐いて三人を見た。
三人とも確実に酔っていた。
伊吹さんは心配になるぐらい顔が赤いし、三上さんは途中から機嫌が悪かったのも忘れたように大声で笑い、今岡はなんか落ち込んでいた。
俺はそんな三人が怖くて、隅の方でちまちまと食べていた。
「お、俺なんて……どうせ俺なんて……」
呟きながら泣く今岡。
「あ、あ~……目が……目が回るぅ……」
座ったまま上半身がふらふらしている伊吹さん。
「あっははははは! 何か暑くなってきたぁ。あはっ、脱ぐよぉ!」
そう宣言して立ち上がった三上さんは服を脱ぎだした。
「おぉっ! あんた最高だよ! よっ、日本一!」
泣いてたのが嘘のように一瞬で復活した今岡が三上さんの前まであっという間に移動して脱ぎ始めた彼女を観察しだした。
「よぉくっ……ひっく……見てなさいよぉ」
「おうともさ!」
「そいやぁ!」
上半身、下着だけになる三上さん。
「おぉ! 委員長唯一の勝負下着!」
「当っ然でしょぉが!」
拍手する今岡の頭を叩く三上さん。
「だ、駄目だよ……ミオちゃあうっ」
止めようとして立ち上がった伊吹さんは……そのままコケた。
ちょっと可愛かった。
「それじゃ……下もイきますか?」
「イっちゃってください委員長!」
「まかせなさぁ~い!」
スカートに手をかける三上さん。
「うおぉ――――っ!!」
「ミ、ミオちゃ――あいたぁっ」
叫ぶ今岡、コケる伊吹さん。
「さすがに止めないとマズイのでは?」
「そうですね。彼女が酔うと記憶を失うタイプならいいのですが、覚えているタイプなら……」
「お、覚えているタイプならどうなるの!?」
「止めなかった樹様に危険が及ぶかと」
あ、有り得る――――っ!
その光景がハッキリと想像できるぞ。
きっと恥ずかしさとか照れ隠しでボコボコだ。ボコボコだよ俺。
「と、止めなきゃ!」
「そうですね。さすがに止めた方がよさそうです」
「て、手伝って!」
「はい」
そうして俺とアリサさんで三人(主に脱ごうとする三上さん)を止めるのだった。
俺は今岡を羽交い絞めにしながらも三上さんを任せたアリサさんを観察していた。
今岡を適当にあしらいつつ注意深く観察していたこともあって、アリサさんが三上さんと伊吹さんを介抱しながらも『やっぱり面白いことになった』とでも言いたげな邪悪な笑みを浮かべていたのを見逃さなかった。
それで違和感の正体を掴んだ気がした。
今、二人を布団のある客間に連れて行ったアリサさんを見送りながら……戻ってきたら問い詰めなければ、と決意したのだった。
今岡は適当にこたつに詰め込んでおいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます