第39話
「い、委員長!?」
「委員長!? じゃないわよ! アンタ、何セクハラしてんの!?」
「せ、セクハラだぁ!? 人聞きの悪い事言ってんじゃねぇよ!」
人聞きが悪いことって……事実じゃないか。
「いや、思いっきりセクハラだったんだが」
横からツッコんでしまった。
アレがセクハラじゃなかったらなんだと言うんだ。
「ほらみなさい。やっぱりセクハラじゃない!」
「うんうん」
頷いておく。
今岡は震えながら俺を見て、
「う、裏切り者ぉ――――っ!!」
叫びながら走り去ってしまった。
「ふん。悪は去ったわ」
腕を組んで不敵に笑う三上さん。
「あ、あの、あの……は、春田君も……その……」
モジモジして俺を見る伊吹さん。
「あ、いや……俺は見てないから」
今岡や伊吹さんの言葉から想像しただけで見てないのは本当だ。
「ところで、伊吹さんはなんで冬休みに制服で?」
まだ恥ずかしそうにしている伊吹さんに話しかける。最初に見たときから不思議だったのだが伊吹さんは冬休み、それもクリスマスだというのに制服姿だったのだ。
「えと……部活で」
「あ、そうなんだ」
休みだというのに大変な事だな。
そういえば伊吹さんって一年だけどバレー部のレギュラーだったよな。
「三上さんは?」
俺は視線を三上さんに移し尋ねた。
「私は待ち合わせ」
「え、マジで? 彼氏?」
こんな日に待ち合わせってそれしかないだろうけど。
てか彼氏いたのか……こんなちっこいのに。
俺より小さいもんな。
ありがとう……なんとなくお礼を言ってしまった。
「……今、失礼なこと考えなかった?」
「と、とんでもないっ!」
睨みを利かせる三上さんに即効で謝る。
「はぁ……まぁいいわ。勘違いしないでよ。待ち合わせって言っても相手はこの子よ」
そう言って伊吹さんの腕を取る。
ああ、そういうことね。俺達とたいして変わらない、と。
「二人でどっか行くの?」
「この子の家にね」
だから伊吹さんは制服のまま待ち合わせ場所に来たのか。
「あんた達は何してたのよ、男二人で」
今度は三上さんに質問される。
「別に」
「別にって何よ?」
「いや、ブラブラしてただけ」
「はぁ?」
「呼び出されて愚痴聞かされてどのままブラブラとしてただけだよ。つーかアイツどこ行ったんだよ……帰っていいかな」
今度は詳しく今の状況を話してみた。
「あんたも大変ね」
しみじみと言われた。
「ほんとにね」
俺も深く頷いて同意を示す。
「…………」
三上さんは俺を見て伊吹さんを見て、それからまた俺を見る。
なんだろう……?
「……暇なら一緒に来る?」
「え、えぇっ!? ミ、ミミ、ミサちゃん!?」
泣きそうな目で三上さんに縋りつく伊吹さん。
「で、どう?」
伊吹さんを軽く無視して俺に問いかけてくる。
「どう、と言われても……」
女の子の家になんて行ったこともない。
それに伊吹さんも嫌だろ、俺なんかが家に行くのは。
それに……家ではアリサさんがなにやら用意してくれてるみたいだしな。
無駄になったら悪いし。
「行きたいのは山々なんだけど……家でもアリサさんが何か準備してくれてるみたいだしやめとくよ」
俺はそう断った。
「…………」
「…………」
二対の瞳に見つめられる……無言で。
なんていうか、凄く怖い、です。
「だったらさ!」
「うおっ!?」
「な、なにっ!?」
「きゃっ!」
いつ戻ってきたのか、いきなり現れた今岡の大声に皆それぞれ驚く。
「だったらさ、みんなでコイツん家に行かねーか?」
そう言って俺を指差す。
「…………は?」
何を言い出すんだコイツは。
「沙代、どうする? 私は行くべきだと思うんだけど」
「え、で、でも……突然……迷惑じゃないかな」
「じゃあ行かないの? クリスマスにあの美人なメイドさんと春田君を二人っきりにしてもいいと思ってるの!?」
「ふ、二人っきり……でも今岡君もいるんじゃ?」
「あんなのは居ないようなもんよ!」
「そ、そう……なのかな……」
「そうよっ!」
なにやら白熱した様子でこちらには聞こえないようにナイショ話をする二人。
暫くして――
「決めた! 行くわ!」
「あ、あの……よ、よかったら……お邪魔したい、です」
「良いに決まってるぜ!」
伊吹さんの言葉にサムズアップする……今岡。
「何でお前がっ!?」
さすがにツッコむ。
「勝手に決めんなよ……とりあえずアリサさんに訊いてみる」
言って俺は家に電話をかける。
「――ということで三人連れて行ってもいいですか?」
『はい。そう思って用意してあります』
な、なん……だと……?
アリサさんは俺が今岡達を連れてくことを予想していたとでもいうのか!?
今岡だけならまだ予想できるかもしれないけど、三上さんと伊吹さんのことまで予想していたなんて……。
やっぱりアリサさん普通じゃないよ。
「じゃ、じゃあ、そういうことで宜しく」
『はい』
電話を切る。
「……良いって」
来て良いとの旨を皆に伝える。
「そうか。なら行こうぜ!」
今岡が先頭に立って歩き出す。
「み、ミサちゃん」
「ん、なに?」
「あの……出来れば、着替えたい」
「あ~そっか……そうね。じゃあ私達は後で行こうか」
「ご、ごめんね」
「そのぐらいのことで一々謝らなくてもいいってば」
またヒソヒソと話す二人。
「あ~、春田君。私達は一回沙代の家に行ってからお邪魔するから」
「え、いいけど……このままじゃ駄目なの?」
「ほら、この子部活だったし着替えとかしたいみたいだから」
「あ、そっか。うん、なら後で来てよ。家の場所分かる?」
「それは大丈夫、委員長だからね。クラス全員の住所は把握してるから。だから先に行ってて。今岡は帰らせてもいいけど」
それは普通の委員長ではないのでは?
まぁ、家の場所がわかるならいいか。
「わかった。あと今岡はもう何をしようと来ると思う」
二人にそう告げて身体を反転させる。
「じゃ、またあとでね」
「あの……また……」
歩き出す前にそう声をかけられる。
「うん、それじゃあね」
俺もそう言ってから今岡を追いかけた。
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