第38話
「ゲーセンですらカップルの巣窟ってどういうことだよ……」
今岡が悲痛な表情で言葉を漏らす。
「確かにな。イチャつくなら人目につかないとこでやってほしいよな」
人目も憚らずイチャイチャベタベタとするカップルたちを見て、さすがに俺もイラ立ちを隠せなかった。しかも、どう見ても俺達より年下で俺達よりも遥かにモテなさそうな奴が男二人でいる俺達を馬鹿にしたように見てから見せつけるようにキスするとか……殴ってやりたくなった。
相手の女の子は大人しそうな普通な子だったけど……なんで付き合ってるんだろうかと本気で疑問に思った。あの年頃ってのはああいう……良く言えば世間に喧嘩売ってるというか他人とは違う危険な生き方というか……駄目だ、考えても良いところなんて思いつかないから、良くなんて言えない。
まぁぶっちゃけ、ただの不良少年というか……まあ、ヤンキーだ。それも、いかにも自分でやりましたって感じの染まりきってない金髪にピアス代わりに安全ピンなんてつけちゃってる限りなく馬鹿そうなヤンキーだ。
そんなのにちょっと地味目で普通だけど可愛いと言えるだろう女の子とのキスシーンを見せつけられるところを想像してみて欲しい。ちなみに、その女の子は恥ずかしそうではあったが嫌がってはいなかった。
想像したか?
したよな?
どうだ……ムカつくだろう? 殴りたくなっただろう。だけど殴ってはいけない。俺も殴らなかった。ただ心でこう思えば良い。今がお前の絶頂期だ、高校生……大学生になったとき、お前は相手にもされないだろう、とね。
そして心の中で嘲笑ってやれば良い。
それで少しはスッとする。
…………空しいけどな!
でもまぁ、実際ああいうのがモテるのは辛うじて高校生までだ。その後は大抵同じようなバカそうな女としか付き合えない。そんでできちゃった婚が関の山だ。はっ、せいぜい金遣いの荒い派手な妻と妻の見栄で良い物を着せられる子どもの為に馬車馬のように働くがいいさっ!
ふふふ、ははは……あっはっはっはっはっは!
「………………お前、怖いんだけど」
若干引いた表情で、俺から少し距離をとった今岡が言う。
「怖いって……何が?」
本気で分からない。
俺は考え事をしていただけで怖いことなど何一つないだろうに。
「いや、いきなり笑い出すとか……しかもあくどい顔で」
なっ!? 声に出してしまっていたか!
どうやら、あまりの出来事に隠されていたもう一人の俺が表に現れてしまっていたようだ。
「それは……ごめん。なんか色々見た所為でちょっと心が荒んでしまってたんだ」
「そ、そうか。まぁ元に戻ったようで何よりだぜ」
今岡が離れた距離を戻して隣にやってきた。
「それよりこれからどうする? 結局行くとこないなら帰りたいんだけど……寒いし」
どこに行ってもカップルだらけで何も決まらないまま今に至るわけだけども。
「さすがに俺もそれしかないのかと思えてきた……」
「んじゃ、帰――わぷっ!?」
帰るか、と言おうとした時、突風が吹いた。しかもどこからか飛んできた紙が顔にくっついた。
「たく……なんなんだよ」
顔についた物を取って愚痴る。
見てみるとそれは、健全な高校生にはあまり見ては宜しくない類の店のチラシだった。
「スパッツが憎い」
いきなりどうしたんだ……訝しんで今岡を見つめる。
今岡は道を挟んだ反対側に鋭い視線を向けていた。俺もそちらに視線を移す。
「あれは……伊吹さん」
そこには伊吹さんの姿があった。
彼女はスカートを押さえて恥ずかしそうにキョロキョロと首を動かしていた。
なるほど。さっきの風でスカートが捲れてしまったのか。
そして今岡のあの言葉に繋がる、と。
「お前って奴は……」
呆れて溜息を吐き、手に持ったままだったチラシをグシャグシャに丸める。そのまま捨ててしまおうかと思ったが、どこかゴミ箱を探してそこに捨てようと考え直しチラシはそのままズボンのポケットに入れた。
「なんだよ……お前だってスカートが捲れた瞬間を目撃したら凝視するだろうがっ!」
憮然とした顔で言うが、それは完全に言いがかりだ。
決め付けないでもらいたい。
「くそ、スカートの下は下着が基本だろーがっ」
そんな基本は知らない。
「…………はぁ」
俺はもう一度大きく溜息を吐いた。
と、そんな話をしているとキョロキョロしていた伊吹さんが俺達に気付いたようだった。目がバッチリと合うと恥ずかしそうに俯いた。
俺は手を上げ「どうも」と挨拶をして近づく。
「あ、あああの……み、みみみ…………」
目も合わせず、挨拶を返すこともなく、伊吹さんは焦っているのか上手く喋れずにいた。
「なんでスパッツやね~ん!」
今岡が涙ながらに伊吹さんに詰め寄る。
「まだ言って――てか本人に言うなよ!」
どんだけ悔しいんだよ。
本人に向かって言うとか最低だ。
「はわっ……え、えぇっ!?」
ビックリしてる伊吹さん。
今の言葉で見られてたのに気付いてしまったのか耳まで真っ赤になっていた。
「も、勿論スパッツの下はノーパ――」
「往来でセクハラしてんじゃないわよっ!!」
スパーンと良い音を立てて今岡の頭が引っ叩かれた。
「だ、誰だ!?」
今岡は頭を押さえて、自分に暴力を振るった相手を睨みつけた。
「誰だじゃないわよ!」
そこにいたのは私服姿の三上さんだった。
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