第15話

 夏休みが終わって最初の登校。

 気だるく感じながらも学校への道のりを歩く。 


 朝はアリサさんに起こされた。

 もしもアリサさんがいなかったら……もしかしたら寝過ごしてしまっていたかもしれない。

 もしかしたらそのままサボってしまう、なんてこともあったかも。

 そう考えると、アリサさんが帰ってきてくれたのは嬉しいことなのかもって、そう思った。

 これからは追い出そうなんて考えるより、上手く共存して快適に生活できるように努力する方がいいんじゃないだろうか。

 その方が俺の精神的にも良い気がする。

 アリサさんがいないと生活能力が壊滅的だと分かったし。 


「アリサさんが帰ってきたってマジか!?」

 教室に入ると同時に今岡が駆け寄ってきた。

「え、何でもう知ってるんだ?」

 机に鞄を置いて問いかける。

 アリサさんが帰ってきたことは、まだ誰にも言ってない。 

 というか、言う相手もいないんだけど……今岡ぐらいしか。でも俺は言っていない。

 話してないのに知っているのは何でなんだろう……俺はそれを尋ねた。

「昨日、母ちゃんに頼まれて買い物に行ったんだよ。商店街な。そこでアリサさんが久しぶりに買い物に来たって話を聞いたんだ」

 なるほど。

 噂になってるってわけだ。

「まぁ、その通りだけど」

「そうか! やっぱり帰ってきたってのはマジなんだな!?」

「う、うん」

「そっかぁ!」

 嬉しそうにガッツポーズをする今岡。

 本当に嬉しそうだった。

「うぉ〜い、お前ら席着け〜」

 今岡とそんなやり取りをしていると、気だるげな感じを撒き散らしながら担任がやってきた。

 この担任がダルそうなのはいつものことなのでたいして気にもならない。

「あ〜突然だが……明日から一泊二日で山に行くことになった。まぁ林間学校だな」

 本当に突然だった。

 というか、林間学校って高校生にもなってやるものなのか?

 しかも前日に急に言うとか、日帰りならともかく泊まりって……予定があったらどうするんだ?

 教室中がざわめく。急すぎることに生徒達の非難が担任を襲う。

「俺に言われてもどうしようもない。もう決まったことだしな。持っていくものなんかはこのプリントに書いてあるから各自用意しておくように」

 言いながらプリントを配る。

「それから四〜五人で班を作ってもらわなきゃならんのだが……面倒だから勝手に決めろ。以上」

 それだけ言い残し担任は教室を出て行った。

 

 なん……だと……っ!?

 

 去り際の担任の言葉に俺は絶望にも似た気持ちで愕然とした。

 好きに班を作れ……だと?

 それは友達のいない者にとっては死刑宣告に等しい。

 小学校の時、中学の時も……好きに班を作れといわれ教室の隅で独りポツンとしていたのを思い出す。

 やべぇ……泣けてきた。

「なーに泣いてんだよ?」

 今岡が俺の肩を叩く。

「な、泣いてない! 適当なこと言うなっ!」

 俺は目を手の甲で拭い言った。

「いや、泣いてたし。……目、赤いぞ?」

「き、気のせいだしっ!」

 俺は隠すように今岡から顔を逸らす。

「ま、いいや。それより最低でもあと二人誘わないとな」

「え?」

 今岡の言葉に驚いてそう訊きかえす。

「だから四〜五人だろ? 俺とお前と……あと二人いれば四人になるじゃないか」

 な……っ!?

「ま、まさか……俺と同じ班になると?」

「お、おう。てか何そんなに驚いてるんだ?」

 俺を見て今岡は若干引いたような顔をしていた。

 それは……驚くなって方が無理だろう。

 今までの人生、こういった状況で自分から声をかけ断られたことは多々あれど、誰かに誘われるなんて経験は初めてのことだった。

「そ、そんな……バカなっ……」

「お前は何を言ってるんだ?」

 呆れたようにこちらを見る今岡。

 確かに今の俺は普通の人から見ればおかしく映るだろう。でも、でも……こんな経験は初めてなんだよ!

 いつも余って、担任に強制的に他のグループに入れられて終始気まずい思いをするのが常だったのだ。

「それより……残りのメンバーだ」

「あ、ああ」

 未だに落ち着かない心を無理やり落ち着かせて話を合わせる。

「てか、う〜ん……どうしたもんか」

 今岡が難しい顔で唸る。

 俺も教室の中を見渡す。大半の生徒は担任の言葉から数分足らずで既にグループを作ってしまっていた。

 いつの一緒にいるグループだったり、男女混合で班を作っている奴らまでいる。

 あ、あれが……リア充ってやつか!

 そして、大抵が既に班を形成していて余っている人間は多くない。

 ……やはり早々上手くはいかないか。今岡がいてくれるだけでも幸せなことだよな。

「ちょっと、あんたたち」

 諦め半分でそんなことを考えていると横から声をかけられた。

 声からして女子であることは間違いなかった。

 声のした方を見ると、そこには二人の女生徒がいた。

 一人は身長一五〇に少し満たない程の小柄でツリ目がちの勝気そうな少女、彼女はクラスの委員長であった。

 もう一人は委員長とは対照的に一八〇程もある大柄な少女だった。身長に似合わず気の弱そうな感じで俯いていた。前髪で目が隠れていることもあって、俯いていると表情が伺えない……普通なら。

 ただでさえ小さ……いや、小柄……じゃなくて、まぁそんな感じの俺からすると丁度目が合う角度だった。

「――――っ!?」

 目が合うと顔を逸らされてしまった。

 …………嫌われた?

 さすがに落ち込む。


「あんたたち、どうせ組む人いないんでしょ? 私たちが組んであげるから感謝しなさい」

 

 と、委員長は腕を組みながら偉そうに言った。

 なんと……どうやら俺は女子と同じ班というリア充になってしまったようだ。




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