閑話
私はアリサ。
樹様にお仕えするメイドをしている。
何故そうなったのか。
それは……それが私の望みだったから。
元々私は恩人である樹様のお義母様である
そのために優秀な人間にならねば、と子供ながらに必死に頑張った。
そんな私に香織様は「そんなことしなくてもいい。家族になりましょう」なんて暖かい言葉をくださった。
でも、それは……それでは私の気がすまない。
と、そんなやりとりをしていた頃。
香織様がある男性……樹様のお父様と出会われた。
二人はすぐに惹かれ合ったらしい。
香織様は樹様の話をよく私にするようになった。
最初は嫉妬心があった。
こんなに香織様に想われて。
そんなある日、私の心境を変える大事件があったのだけど……それから私は樹様に仕えたいと思うようになった。
香織様に返す恩を香織様の新しい家族に返すのだ。
だから私は必死に勉強した。元々私の頭はそれなりに優秀だったらしくアメリカで飛び級で大学まで卒業することができた。
それからメイドに必要なスキルを全て習得した。
それに数年かかってしまって、気付けば樹様がもうすぐに高校に入学される、ということだった。
それを機に日本に行って樹様の役に立ちたい、と香織様に告げた。
香織様は丁度良かった、と笑った。
樹様が高校を卒業するまで旦那様と二人で過ごしたいから樹様の面倒をみてくれ、と。
私は二つ返事で答えた。
それが望みだったから。
それからすぐに香織様は樹様と私の住む家を用意してくれた。
樹様が新居に到着するまで数日、私は家に住むのに必要な物を揃え、家中ピカピカにして樹様がやってくるのを待った。
そして、あの日……初めて樹様に会う日がやってきた。
○ ○ ○
「はい? え? ……は?」
頭を下げ挨拶する私の頭上から、そんな戸惑った声が聞こえてきた。
それも当然だろう。
樹様は私の事は知らされていないのだから。
「あ、ああ、アリッサさん」
樹様はどうしても私を完全に海外風の名前にしたいようだ。
まぁ、こんな見た目だし……実際向こうの血の方が強い。一応日本人の血も入っている、というレベルだ。
私はそこで顔を上げ、樹様と視線を合わせた。
「ア・リ・サです」
香織様に聞いていた通りの可愛らしい方だった。
それにそんなやり取りだけでも、樹様と話しているという現実が嬉しすぎて、表情に出ないように必死だった。
「私が日本人以外に見えるなんて樹様、頭大丈夫ですか?」
嬉しさを隠すのに必死すぎてとんでもなく毒舌になってしまった。
樹様が口を開けて私の発言に驚愕している。
ふふ、そんな顔もお可愛い。
ヤバい。尊い。
「これから宜しくお願いいたします」
「あ、はい。こちらこそ」
樹様は戸惑いつつも微笑んだ。
○ ○ ○
それから少し時は過ぎ――ゴールデンウィークがやってきた。
その間に分かったことがある。
私は嬉しさや照れを隠すのに必死になると毒舌になってしまうらしい。
そのせいで樹様には若干苦手意識を持たれてしまったようだった。
それはとても悲しいことだ。
泣きたくなるぐらいツライ。
でもこの気持ちを悟られるわけにはいかない。
私は樹様に仕えるメイドなのだから。
だから今日も必死に無表情を装う。
内心を悟られぬように。
「…………う~ん……」
その日、朝食を食べながら樹様が考え事をしていた。
……私をチラチラ見ながら。
きっと何かを企んでいるのでしょう。
樹様は表情に出すぎます。
そんなところもお可愛い。
私を見ながら百面相する樹様。
どんな顔していてもお可愛いことで……卑怯過ぎない?
全て写真と動画に撮って残しておきたい。
その日、樹様は私のあとをつけていた。
アダルトショップの前で鉢合わせした時の樹様の表情は永久保存版レベルの可愛さだった。
私は努めてポーカーフェイスを貫き言った。
「そういったものに興味があるのは分かりますが――」
私に見つからないようにたまたま隠れたお店がそこだったのは分かっていた。
そもそも、そういうことに興味があるなら私に言ってくれれば――っと、こんなこと考えるのはやめましょう。
それから樹様は脱兎のごとく逃げて行ってしまわれた。
どうせなら一緒にお買い物してみたかったですが……まぁ無理でしょうね。
そして私の部屋の前で罠にかかった樹様を見つけた。
部屋を樹様に見られるのが恥ずかしすぎるので設置してしまった罠だ。
「ん……っ……あれ?」
落とし穴から抜け出そうと飛び跳ねる樹様。
無理です。
そこは樹様では出られないギリギリを計算してあります。
「えいっ! そりゃ!」
何度も何度も跳ぶ樹様。
……。
…………。
………………。
はっ、可愛すぎて放心してしまっていた。
これはキュン死してしまいます。
それから色々な会話がありました。
「謝るから……戻ってきて、アリサさ――――んっ!!」
でも女の子の部屋を覗こうとした悪い樹様はそこで暫く反省してください。
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