第三話  邂逅と抵抗 後編

十数名の盗賊は各々、ハンマーや斧、剣などを携え、コソコソとする気はないようで堂々と夕方の村を優雅に闊歩している。盗賊達は想像する通りの悪党面で小汚い布切れを纏っていて、the盗賊って感じだ。会話中、一つの大きな声が会話を覆った。


「あー、盗賊やって初めてのちょっろい仕事だったな!あいつら刃物見た瞬間に取り乱すくせに家族が死んだら何もなかったみたいにぼーっと突っ立ってやんの。最初に見たときビビっちまったけど、気持ちわりーやつらで助かったぜ。なあ!お前ら!」


子分らしき男たちが一斉に賛同する。そしてその一人が疑問を漏らした。


「しっかし、天下のボドラスがこんなカモ教えてくれるなんて。あいつ一応勇者の仲間ですよな。こんなことしていいんですけ?」


「無壊のボドラスと言えども性根は俺らと同じ屑だ。その証拠に俺らの戦利品の一部はあいつのもの、情報料だとさ。ちゃっかりしてんぜ」


そう言って集団は通りを歩いて行った。不満を言うもの、高らかに笑うもの等。だがそのどれもが片岡さんの逆鱗に触れるには十分すぎた。ああ見えて短気なんですね片岡さん。


「アカリ君、ここで待っててね。ふぅ、やれるかな」

「俺も行きます」


食い気味に答えた。ここにいるほうが怖くね?ついてったほうが安全まであるよね。この人あの人数差で物怖じしないし、きっと強いでしょ。


「いいね、勇敢な男は嫌いじゃないよ」


片岡さんは少し驚いたみたいだったが、にやりとこちらを見つめてきた。変な罪悪感がある。まあいいや、このままで。

片岡さんはすぐそばの窓ガラスを叩き蹴り、その音に驚いた盗賊たちに堂々と宣戦布告をした。


「よー、あんたら。小汚ぇ男ばっかで何やってんの?あー、もしかしてこれからハッテン場?お熱いねー」


盗賊たちは安易な挑発に少し動揺したが、すぐに武器を持ち、片岡に向かって一斉に走ってきた。片岡が手を交差させると袖口から棒が飛び出しその二つを合体させ1mほどの棍を作ると、斧を振りかぶる者には足を、剣を持つものには顎を、と急所を的確に打ち、倒していった。その様は単純作業をする作業員のようで、淡々とつまらなそうに敵を地面にひれ伏せていった。


「つまんな。そこの三人は?来ないの?女の子一人にやられるって盗賊としてどうなのよ」


「うっせぇ!そんなに言うなら見せてやる。今、秘めし力を放つとき!我が怒りは炎となる!」


賊長と思われる男は、両手が炎に包まれた。その炎はまさに怒りという感情そのもので、外炎は大きく燃え上がっている。感情のような炎、これを見たときはじめて魔法というものの存在を身をもって理解した。存在するということはもちろん、この世界に自分が身を置いているということも。賊長が二人の護衛達と一緒に突撃してくるのを見て、片岡は笑みを浮かべ呟いた。


「へぇ、魔法使えるんだ。よしよし、相手にとって不足はないね。こっちもいくよ!」


すぅーっと息をを吸い込み、棍を体の周りで回し始めた。棍のスピードは上がるにつれて、なんとなく集中力が増していくのを感じた。


托魔托命たくまたくみょうの契りを交わし、御前ごぜんを制す力を給う。氷装ひょうそう万棍ばんこん


周りの空気がピキピキと音を立てて凍っていく。片岡さんの息や周辺が白くなり、温度がそこだけ圧倒的に低いことが分かる。三人が一斉に襲い掛かってきたが、護衛を氷でできた槍で肩を突き、氷が刺さったまま蹴り飛ばし、もう一人の護衛の頭を生成し直した氷のハンマーで思いっきり叩いた。二人の護衛はふらつき、呻きとともに地面に伏した。賊長の炎の拳の猛烈なパンチをいとも簡単にさばき、躱していく。冷気に包まれた棍で叩かれた彼の炎はみるみる小さくなり、ついには完璧に凍った。身動きの取れなくなった賊長の顎を蹴り上げ倒れたところを小さな氷のナイフを首にあててのしかかった。


「姉ちゃん、強いな。どうだい?うちに来ねえか?へへ」


「んなことはどうでもいいの。...さっき言ってたでしょう?ボドラスはどこにいる?あいつはなんであんたら盗賊なんかと組んだ?」


冷静で淡々と脅す彼女はさっきの戦闘を楽しみ、強い敵を求める彼女と同一人物なのか?そう思えるほど冷酷でまさに氷のような人へとなっていた。身動きのできない族長は顎を上げ首を伸ばしニタリと気味の悪い笑顔を浮かべ口を開いた時、静かになった村にゆっくりと、大きな振動を伴う足音が聞こえてきた。それが大きくなるにつれて彼の笑顔は恐怖で歪み、青くなっていった。


「奴だ....ボドラス!お願いだ、見逃してくれ。こんな稼業やってっから命狙われるのも覚悟してたが、あいつに殺されるのだけは絶対にごめんだ!助けてくれよぉ」


さっきとは人が変わったみたいに懇願し、暴れだした。とっさのことでバランスを崩した片岡は逃がしてしまった。再び取り押さえようとし、武器を構え走り出した瞬間、顔の横を何か小さなものが通過した。それは賊長の後頭部を直撃し、貫き、大量の血しぶきとともに木っ端みじんに砕け、落ちた。それが飛んできた方向、いや投げられた方向を振り向くとそこには小石を手で弾ませる、岩石と見まがうほどの大男が立っていた。じっくりと前を向き、うれしそうな表情を浮かべた。


「おぉ、一発でいくとは。女ごときに負けるなんて..弱え奴は大っ嫌いだ」


大男は上半身裸で頭には、バンダナを巻いていた。腰には金属製の何かがたくさん装備されており動くたびきらきらと光っていた。片岡は目の前で頭を貫かれた賊長を見て、少し震え青ざめていたが頬を叩き、強がりで大男に笑って見せた。


「奇遇ね。私もよわっちい奴嫌いなのよ。運命かもね?無壊のボドラスさん?」

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