第33話 英雄とは―――――

「金貨は流石に生ってわけにも行かないので、口座を教えてもらえれば振り込むね。」


騎士団長が相変わらずの人のいい笑みと声で言う。


イケメンな上に、人当たりがよくて優しくて。それで、安定しすぎた職もあるって、この人さぞかしモテるだろうな。


うらやま。


口座ね。確かギルドのやつがあったような気がするけど、今日日きょうび使ってないから、分からねぇな。


「口座分かんないです。たしか、ギルドにあったと思います。」


俺はお手数おかけして申し訳ないと頭を下げる。


「いやいや大丈夫だよ。じゃあこっちで探しておくねー。」


「あぁ、よろしくおねがいします。」


騎士団長の力を使えば、口座の特定なんてチョチョイのちょいだろう。


別に悪い使い方なんてしないと思うけど、特定って言うとなんか悪のイメージあるよね。


「じゃあ最後に。桜ノ剣さくらのつるぎだね。これは私も触ったことないから、ドキドキだよ。」


リースさんはちょっと待っててと言って、後ろを向く。


いや、とうとうここまで来たか。


国宝、桜ノ剣さくらのつるぎ


さっきから桜ノ章さくらのしょうだの、桜ノ衣さくらのころもだの、桜ノ剣さくらのつるぎだの。


桜桜うるさいと思っている方もいるかもしれないが、そもそも桜というのはこの王国において、国の木として崇められる神聖なもの。


そして何より。桜といえば、王族と言われるほどに、王族との関わりが深い木なのだ。


だから、桜ノ〇〇という名前は簡単には付けられず、逆にそれがついたものは王族に認定を受けた、最高位のものと言う印でもある。


つまりだ。桜ノ剣さくらのつるぎというのは、王族の剣と言い換えることができる。マジでヤベェもんなのだ。


てか、桜シリーズ揃い過ぎじゃない?


これ全部つけたら、真面目に桜桜さくらさくらしてる王族級のヤバさじゃんか。

いやだ、明日無事に起きられるか心配になってきた。


「よし、準備できたよ。」


俺が身震いをしていると、リースさんがそう言ってこちらを見る。


「改めて、クラル君。君には本当に感謝している。君がいなければナリィタは崩壊し、民は皆殺しだっただろう。これらの勲章などは決して大袈裟なものではなく、君の功績に比べたら逆に小さく見えるようなものだ。これは君の勇気に対して国王陛下が賜わられる、国の宝だ。これだけは、仕舞ったりせずに大切に使ってほしい。」


深く、深く。そして、正しく清く。

どこまでも美しく、騎士たる誉れをかけた、剣を差し出すような礼をした彼から、俺は剣を受け取る。


「っぁ……!!!?」


俺はその剣に触れた瞬間、今まで一度も感じたことがない。得も言えぬ、浮ついた感覚を覚えた。


上手く説明できないが、自分の体と剣がつながるような、まるで手の延長として剣があるような感覚。


今まで感じたことなく、そしてこれからも、この剣以外に感じることがないであろう感覚。


「これが、桜ノ剣さくらのつるぎ……!!」


桜ノ剣さくらのつるぎは、今まで見たことのない形をしていた。


まっすぐ太い普通の剣とは違って、細身でいて後ろにしなるような形をしている。


桜ノ剣さくらのつるぎは刀と呼ばれる剣だ。最初は少し手こずるかもしれないけど、手に馴染むととても強いよ。」


騎士団長が解説を入れてくれる。


刀。

記憶の交じりの中で見た、アニメで出てきた記憶がかすかにある。


俺は白を基調として、ところどころに淡い桃色の装飾が施された、手が込みすぎてもはや芸術品のようなその鞘から、刀身を引き抜く。


ヒュンッ


そこまで早く抜いたわけでもないのに、風を切るような音を立てたその刀が見えた瞬間、


「さくら……」


俺はそうつぶやいた。


桜ノ剣さくらのつるぎを抜いた瞬間、その刀身から桜の花びらが舞ったのだ。


淡く色づいたそれは、ひらひらと風に揺られたあと、地面につく前に消えていった。


「これは……」


「それこそが、桜ノ剣さくらのつるぎが桜を冠する所以であり、王族に愛されてきた理由。抜けば桜が舞い、その花が散り終わるまでは負けることがないと言われている。」


リースさんが淡い笑みを浮かべて教えてくれた。


俺は本当に美しいその剣を見つめて、今一度実感する。


俺はもう引き返せないところまで来た。


今まではほとんど『スキル』のおかげだったけど、ここからは真の意味で『俺の戦い』だ。


スキルに頼り切ってでは勝てないことがあるだろう。そんなときに、俺がこの剣と共に本気を出せるか。そこで、英雄に成れるか成れないかが、決まるような気がする。


「この剣を、俺は使いこなせるのでしょうか。」


俺は鞘に仕舞われた刀から、今もヒシヒシと伝わってくるその力に、若干怖くなりながら尋ねた。


「それは分からないというか、君次第かな。剣の力に溺れ、操られてしまったら難しいが。その力に甘んじず、剣を逆に操れるようになれれば、それこそ《《英雄》になれる。」


彼は真剣にそう言うと、パチリとウィンクをする。


「そう、ですよね。ありがとうございます。」


俺は、これから頑張ろうと改めて思って、彼に頭を下げた。


いつか、スキルの力無しで、特別名誉団員としてふさわしい。もしくはそれ以上になれたら、良いなと思いながら。


「じゃあね。本当にありがとうね。またヤバくなったら頼らせてもらうかも。」


リースさんは後ろ手に手を振りながら、そう笑った。


「その時は、フル装備で行かせてもらいます。」


俺も笑いながら、手を振り返す。


「あっ、あと。それ置いといたら盗まれたりとか色々怖いと思うし、これあげる。」


少し歩いたところでリースさんは振り返って、何かを投げた。


「えっ? あちょっ…!!?」


「ナイスキャッチ」


突然投げられて驚きながらも、なんとかそれをキャッチする。


「これは?」


渡されたのは、少し大きめのの巾着袋。


「それは収納の魔道具。あんま高くないから、それ入れたらいっぱいだと思うけど、良かったら使って。」


「何から何までありがとうございます。」


軽く言う彼に、俺はもう一度頭を下げる。


高くないとか言ってるけど、多分収納の魔道具なんて、小さくてもかなりの額するだろう。


そもそも魔道具が高いのに、収納なんてみんな欲しそうなやつ。


「何かあったら、その分頼るからね。」


リースさんはそう言って、あるき出した。


「いつか普通のときでも、友達として会えたらいいですね。」


俺は彼の背中に、失礼にならないかなと思いながらそんな言葉を投げた。


彼とは、仲良くなれそうというか、馬が合うような気がする。


でも、やっぱ年も離れてるだろうし、生意気すぎたか?


俺が不安になっていると、


「うん! 友達としてね!!」


リースさんは満面の笑みで振り返って、そう無邪気に叫んだ。


いろんなことがあったけど、最後はこうやってハッピーすぎるエンドを迎えられてよかった。


「クラル!!!! 畑はぁっ!!!!?」


俺は母ちゃんのそんな怒声を聞きながら、清々しいエピローグを語った。


母ちゃん、空気読んでよな。


「よぉし!!! 働きますかぁ!!!!」


俺はもらったぜ賞状とか勲章とかを、魔道具に仕舞って、剣だけは腰につけて家を出た。


いつか、誰かに『英雄』と呼ばれるまで。

俺は物語は、続いてゆく―――――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺のスキルが草とかマジ草www〜クソスキル『草』を使いこなしたら、無双&世界最強!?〜 俺氏の友氏は蘇我氏のたかしのお菓子好き @Ch-n

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ