第24話 凡人だからできたこと

いきなり飛び降りたことにより、俺の体が重力に押され地面へと真っ直ぐ落ちてゆく。


俺は空中で体勢を変えたり、うまく着地できるようにしたりするほど器用ではない。


ただの凡人だ。


さっきの煽りだって、本気でやったら多分チビる。


ただ、あれはやらなければならなかった。


強さと比例してプライドもお高めな彼らを、無理矢理にでも動かすにはあれしかなかったのだ。


まあ、俺に騎士団長のリースさんほどの統率力があれば別だが。あいにく、褒めるのより煽るのが本業なもんで。


「っ!! マジで死ぬわこれっ!!」


俺は地面までの距離が半分を切ったのを見て、笑えないその事実に笑みを浮かべる。


そろそろかなっ!!?


俺は落ちていく中、なんとか息を吸うと、


魔物大発生スタンピードとか、マジ草ぁっ!!!!!」


全力で叫んだ。


さあこい。その無機質な声を聴かせておくれっ!


俺がそう思った瞬間。まるで思考を読んでいるかのようなタイミングで





『草ポイントを変換しますか?』





そんないつ聞いても冷たく、無機質な問いかけが聞こえた。


『もちろんっ!!』


俺は自分の髪の毛が浮き立つのを感じながら、心のなかで叫ぶ。



『了解致しました。現在貯まっているポイントは475ポイントです。1ポイントで1分間分と交換できますが、どうしますか?』



無機質に定型文が投げられる。

でも完全に同じ言葉ではなく、細部は更にわかりやすく説明がたされたりして、アップデートしてあった。


ちまちま溜めてきただけあって、前回とは桁が違うくらいに溜まっている。


全部交換すれば475分。つまり、8時間弱。

こんだけあればどうにかなるだろ。


『まずは30分でお願いしますっ!!』


俺が思うのと数秒の差で、


『了解しました。』


返答がある。


本当に無機質というか、感情がないというか。冷たいな。


ま、スキルなんてこんなものか。


俺はこれが美少女の優しい微笑み声ならなお良かったのになと思いながら、手を広げた。


「よいしよっおっ!!」


そして、空中でどうにか身体をひねらせ最低限、背中から落ちることだけは回避するようにして。


叫ぶ。




「スーパースター!!!!!」





刹那、俺の体は地面に叩きつけられる。

その勢いで砂埃が上がり、外から見たら俺が死んだように見えるだろう。


騎士団員たちの息を呑む声が聞こえ、砂埃は風に流されて消えてゆく。


「いってえっ!!!!!」


騎士団員が、俺の姿を確認するよりも早く、俺はその場から飛び出す。


「なっ!?」


「嘘だろっ!!?」


「どうして!?」


そんな感嘆の声は、


テーテーテーテテーテーテテーテー

テーテーテーテテーテーテテーテー

テーテーテーテテーテーテテーテー

テーテーテーテテーテーテテーテー

テーテーテーテテーテーテテーテー


突如として響き出した、謎の電子音にかき消される。


「なんだ!?」


「加勢かっ!?」


「いや、敵かもしれん!!!」


様々な憶測が飛び交う中、その電子音を発している張本人である俺は……。


「いってえっ!! マジ死ぬっ!!」


ケツを抑えて、痛みを紛らわすために全速力で走っていた。


いってぇっ!


ちゃんと着地できるように体の向き変えたはずなのに、何故かケツから着地しちゃって、骨が突き刺さって超痛い。


こんなのありえねぇだろ、せっかく格好つけてきたのに、ケツ抑えて走り回るなんてよおっ!!


クソぉっ! お尻だけにクソなんてな!!

…………なんかここ寒くね?


なんてクソダジャレ言ってる暇はないので、俺はまだ痛むケツを抑えながら、剣を抜いていきなり現れた俺に警戒するような目を向ける魔物たちに突っ込んでいく。


「わーい!」


テレッテ、レレッレレー


俺が野原を駆け回るような声を上げるが、そんな呑気さとは反対に、触れられた魔物は軽快な音とともに吹っ飛んで死亡する。


おいたわしや……。


「わーいわーい!」


テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー


フリーハグでもするかのようなテンションで寄っていくと、魔物は仲間を殺された怒りからか突進してきてくれる。


そして、数秒後には吹っ飛んでいく。


「わわーいわーい! 楽しいなー」


テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー


俺を中心に魔物たちが消えてゆく。


「あれは……なんだ……?」 


「俺は夢を見てるのか?」


「疲れてんのかなぁ……」


なんか騎士団の方々が言っているのが聞こえるが、それも無視して魔物たちに特別な抱擁を配っていく。


「アハハハ…………なんかサイコパスみたいじゃね?」


笑いながら敵を飛ばしていくとか、マジサイコパスじゃん。

やめてほしいわ、俺倫理観だけはちゃんとあるつもりなんだから。


テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー…………


「ストレス発散とかになりそうだわ。すげぇ、マジで無敵やん。」


歯がとんがっている強そうな、所謂オーク的な魔物が、俺の指先に触れただけで吹っ飛んでいくのは、見ていて爽快だ。


…………けっして、サイコパスではない。


テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー…………








粗方周りにいる魔物を倒し終わったところで気がつく。


これ、このままだと何日あっても足りない。


触れれば一瞬だが、絶対に少しでも触れなきゃいけない。


ここいっぱいにいる全員に触れるなんて、物理的に無理だろ。


「どうしよっかなー?」


テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー…………


俺は魔物に触れるのはやめずに考え続ける。


…………ヤベェ、全くと言っていいほどアイデアが出てこない。


これが老いってやつか……。


仕方ないよ、歳と不幸だけはこっちのことなんて気にせずに、あっちからやってくるんだから。


ハハハ、アハハハ……ハハ…………!!!!!


これじゃん!!!!


そうだよ!!

俺が行けないなら、あっちから来てもらえればいいんだ!!!


俺、天才では?

いやぁ、さすが俺だわ。


でも、どうやって魔物集めるんだ?


奴らだって知能はあるんだし、もう俺に近づかないように距離取り出しちゃってる個体もいるのに。


うーん、やっぱこの策はだめか?


テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー

テレッテ、レレッレレー…………


俺はゴブリンの群れに突っ込みながら、頭をひねる。


そして、またもや天才的なことを思いついた。


騎士団の方々に頼ろう!!


彼らならなんかそういう道具とか持ってそうじゃん!


おうおう!! やっぱ俺、天才か?


自画自賛をしながら、俺は息を吸って叫ぶ。


「なんか、魔物を集めるアイテムとかありませんかぁっ!!!?」


俺が叫ぶと同時に、


『スキルの効果がもう少しで切れます。残り445ポイントを使って延長しますか?』


そんな無機質な声が聞こえた。


『あっ、延長で。30分お願いします。』


『了解しました。』


カラオケみたいなやり取りをして、俺は騎士団の人からの返答を待った。


テレッテ、レレッレレー


あっ、一体死んだ。

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