第31話 帰宅とお客さん
「ふぁぁ……おはよーさん」
俺は眠い目を擦りながら、朝の挨拶をする。
もちろん、帰ってくることはない。
だって自分の部屋で一人だもん。
悲しいかな。
「ふぁぁあ」
特段に大きいあくびをかまして、俺はリビングへと向かう。
母ちゃんと父ちゃんはもう起きているだろう。
ミアちゃんとのお出かけこと、A級
あのあとしっかりと起きたミアちゃんに告白されることも、みあちゃんのお母さんに惚れられるという不倫ルートがオープンすることもなく。普通の日常を送っている。
「おはよ」
「おはようさん」
「今日は収穫か?」
俺が挨拶すると、母ちゃんは朝の用意をしながら挨拶を返し、父ちゃんは今日の予定について話してきた。
「まだ気が早いだろ」
いくら収穫まで早いやつでも、まだ数ヶ月も経ってないから、収穫までは行かないだろ。
まあぼちぼち実がつき出す頃かもしれないけど。
「奥の方に昨日イノシシかなんかが来てたから、それ片付けないと。」
「あぁそうか。」
母ちゃんが畑の方を指して言うと、父ちゃんがお茶を片手に頷く。
いつもどおりの何気ないやり取りだ。
「ふぁぁ」
俺はまた出てきたあくびを噛み殺しながら、朝ごはんの用意をする。
といっても、適当に置いてあるものをつまむだけだけど。
「昨日の残りの肉も食べていいわよ」
「はいはい」
母ちゃんがキッチンの方を指さして言う。
そういや、昨日はトンカツかなんかだったっけ。
俺はありがたくいただこうと、キッチンの方に行く。
「あぁこれね。」
小皿に肉が数切れおいてあった、ザ・残り物って感じの見た目してる。
「いただきやす」
肉を添えただけで豪華に見えてきた、寄せ集めの朝食に歩く頭を下げて、食べだす。
前はこんなことしなかったけど、自分が作る側に回ってから、毎食欠かさずにやってる。
辛さとか大変さとか、やっぱり実際にやってみないとわからないものがあるから。
肉に野菜にご飯に味噌。
材料とか生産者とか、いろんな人や物に感謝して食べるってのは、当たり前のようでいてとても素晴らしいことだと思う。
「ごちそーさま」
俺は最後まで食べきって、手を合わせて食後の挨拶をする。
「じゃあ行ってくる。」
「お皿水つけといてよ」
ちょうど母ちゃんたちが出るみたいで、玄関から首だけ覗かした母ちゃんが皿を片付けようとする俺を見て言う。
毎回毎回言わなくてもいいと思うけど、まあそれだけ水につけとかないと大変なんだろう。
「あぁ、洗うよ」
別に時間もあるし、一人分なら洗ったほうが楽だし。
「それならよし。」
母ちゃんはそう言うと、外に出ていった。
いや、なんで上から目線なんだよ。てか、その一言いらなくね?
そんな怒りが湧いてくるけど、朝からカッカッしてもしょうがないし。
余計な一言で出来てるのが母ちゃんという生物なので、甘んじて受け入れよう。
「サラサラサラ、皿洗い」
俺が即興のお皿の歌を歌って、陽気に皿洗いに励んでいると。
「クラルー!! お客さんよ!!!」
さっき出ていったはずの母ちゃんの、ビックボイスが響いてきた。
お客さんが、俺に?
別にそんな客が来るような大層な男じゃないし、そんな覚えないのだけど……。
「はいよ!!」
とりあえず返事をして、お皿洗いを一時中断して玄関に向かう。
せっかく、陽気に歌う歌ってノリノリだったのに。
これで適当な客だったら怒ってやろうと、俺が思いながら見た先には……
「やぁ、久しぶり。」
……爽やかに微笑む、騎士団長さんがいました。
「あ、お、おおお久しぶりデス」
や、ヤベェ、完全に忘れてたぁ。
一週間経っても来ないから、許されたと思って普通に忘れてたぁ。
ヤバイヤバイヤバイ。俺どうなっちゃうのかな?
具体的にどの法律に当てはまるかは知らないけど、結構ぶっ飛んだことした自負はあるよ。
で、できれば執行猶予のつくやつがいい……。
「今回君のもとを訪れたのは他でもなく……」
「すみませんでしたっ!!!!!」
俺は騎士団長が言い切る前に、その言葉を遮って見事なジャンピング土下座をかました。
よく分からんが、自分から言ったほうが罪が軽くなる的なのを聞いたことが有る。
自主で反省の色がうかがえるのだとかなんだとか。もうここまで来て逃げることはできないので、せめて罪を軽くしようという俺の天才的発想。
天才ならそもそも捕まるようなことをしないのでは、というツッコミは受け付けておりません。
「まず、顔を上げようか。というか、なぜ急に土下座なんて?」
騎士団長は俺の肩を触って、慰めるように言う。
うぅ、優しさが痛いぜ……。
「この度は誠に……」
「なんか勘違いしてるみたいだね。私は君を罪に問いに来たのではなく、正式に感謝状を渡しに来たのだよ?」
謝罪の意を表そうとする俺を止めて、騎士団長はとんちんかんなことをほざく。
「…………パードゥン?」
意味がわからなすぎて、尋ね返してしまった。
なんか感謝状とか聞こえたけど、多分気のせいさ。
「だから、私は今回、クラルくんに騎士団長としての感謝状と、勲章を授与しに来たのさ。」
騎士団長は謎のドヤ顔を披露しながら言う。
いやイケメンはいいね。どんな顔しても不快じゃないもん。それどころか、もっと見たいまである。
そんな現実逃避をしてしまうくらいに、俺は理解できなかった。
感謝状? 勲章? ナニソレオイシイノ?
あれか、俺が昨日食べたみかん、めっちゃキレイに皮をむけたからそれを称えてみたいな?
いやぁ、あれ結構頑張ったんよな。ウレシイワー……
「ど、どういうことで?」
分かっている。薄々気がついている。
多分、ナリィタの
けど、そんな大掛かりで祝うほどのものかと。
感謝状を頂いて、勲章授与されちゃうほどのことをしたかと。
まあ近所のノムラさん、川に落ちかけてた犬拾っただけでなんか感謝状もらってたし、案外ハードル低いのかもしれない。
でも、俺がしたことといえば、騎士団の無線勝手に借りて放送して、その後爆音で音楽鳴らしながら七色に光って、魔物の群れの中で寝てただけだぞ。
うん、こうやって見るとマイナスまである。
「見たらわかるさ。では、ごほん」
戸惑う俺を気にせず、騎士団は改まって咳払いをすると、呪文のような文字列を話し始めた。
「クラル殿。貴殿は未曾有の危機たるA級
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